第52話 ラボ 11

 黄泉津ノよもつのまに入った三人は、まずうろたえた。距離を置いた場所にいる連崎れんざきが、拳銃を持っていたからだ。今まで黄泉津ノよもつのまの人間が武器を持っていることはなかった。黄泉津ノよもつのまでの兎佳子うかこの異常なまでの強さを鑑みると、人工過死者じんこうかししゃは通常の過死者かししゃよりも強いのかも知れない。


 楼義ろうぎ潤香うるかを見た。

 それを潤香うるかはたった一人で、先の人数をやり果せたのだ。どれほどの偉業だろうか。

 しかし今は感心している場ではない。楼義ろうぎはすぐさま切り替えて、”袋を!ラッピング! ラッピング! ラッピング!”を使う。目の前に風呂敷が現れる。

 とき同じくして連崎れんざきの銃口がこちらを向く。


 ——パンパンッ!


 飛んできた弾丸を風呂敷が包み込み、弾丸はその場に停止し、落ちた。


「速度をゼロにしたぜ」


 これで相手の銃への防御はできる。しかし同時に、楼義ろうぎの後ろに居なければ、二人とも銃で撃たれてしまうと言うことでもある。


 楼義ろうぎは空中で風呂敷を広げ、四つ角を手繰り寄せては閉じ、また広げた。この行動に意味はないと判断したのだろう。連崎れんざきは銃を構え直した。


 絽眞ろまは両腕の袖から鎖をじゃらりと垂らした。


 “明滅する鎖インヴィジブルイーター”。


 鎖が地面を走る。蛇のようにうねりながら。それが連崎れんざきへと迫る。

 連崎れんざきは構えていた銃を鎖に向け、撃つ。

 弾かれた鎖は千切れ飛ぶ。しかし千切れた鎖は動きを止めず、独立したまま連崎れんざきへ向かう。


「くそが!」


 連崎れんざきは空間からマシンガンを取り出して、連射した。


 ——ババババババッ!


 掃射された弾丸が鎖を弾くが、細かくなりもはや鉄の欠片となった鎖が連崎れんざきへと迫る。止まらない。

 だが鉄の欠片では縛り上げることはできない。つぶてが連崎れんざきに飛んでいくだけだ。大したダメージにはなっていない。


「ははははっ! なんだなんだ屋長やちょうともあろうものが、このくだらない攻撃は!」


 絽眞ろまはニヤリと笑いを浮かべた。


「部下が優秀なものでな」


 連崎れんざきの笑いが止まる。違和感を覚えたのだろう。


「なーんかちけえと思わねえか?」


 楼義ろうぎの声に、連崎れんざきはハッとなる。

 だが既に楼義ろうぎの後ろで潤香うるかが準備をしていた。バチバチと音が聞こえる。楼義ろうぎは空中で風呂敷を広げ、四つ角を手繰り寄せては閉じ、また広げた。

 すると一瞬で移動する。連崎れんざきの体が。


「包んだ空間の体積をゼロにした。空間がなくなったら、その空間を埋めるために空間同士が寄るだろ?」


 連崎れんざきがマシンガンを構える。だがそれよりも早く潤香うるかの体は光を超えていた。


 ——“疾走する紫電サンダーランナー”。


 潤香うるかの後ろを稲妻が追いかけて来る。それを確認したとき既に、彼女の手は連崎れんざきの腕を掴まえていた。

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