第31話 紙岸潤香 3
その日、
そう言う日は、大概図書室に長く居座り、本を読み耽る。
本から顔を上げて、ぼうっと運動場で部活動に励んでいる生徒を見るともなしに見た。
逆に、もしも
きっと
もしかしたら少し思慮深くなるかも知れない。彼女は、
(思慮深い
「どうしたの?
「
「なにか、物凄く悩んでいるように思えたけれど」
「あー、えっと」
「先生には隠しても無駄だぞ?」
キメの細かい指先で、おでこをちょんとつつかれた。
頭の中で、一般人にしても良い話の取捨選択をしていく。こういうとき、
(
などと頭の片隅で考えながら話を整理していく。
「あの、
「ええ。もちろん」
「実際に見たことは?」
「……さあ? 見分けの付け方がわからないし、いつの間にか見ちゃっていたかも知れないわねえ。それがどうしたの?」
「わたしの友達の親戚の子が、多分
「あら、それは困ったわねえ。
一般的な
「わたし、お母さんが
その告白に、
「大変だったわねえ。その、お母様は……?」
「生き直しましたよ」
その言葉に
「そう。良かったわねえ」
「でも——」
と、言いかけて、言葉を詰まらせ、唇を噛んだ。
「
「あらら。それは大変ね。その子は大丈夫だったのかしら?」
「殴ったときに気を失いましたが、幸い後遺症もなく外傷もなかったので、検査入院しただけでことなきを得ました。でも、そんなことになるまでわたしもお父さんも、お母さんの異常に気付けなかったんです。家庭では普通で、まったく正常に見えましたから」
「でもそれは言い訳で、家族なら、やっぱり気付いてあげるべきでした」
「そんな……」
「
「それに事件があった当日に近くに居た周りの人も、お母さんを責めました。
「お母さんはなにをしてもいいと思ってなにかをしたわけじゃあないんです。
「それからお母さんはうつ病になって、お父さんは看病のために減給覚悟で部署異動をさせてもらいました。わたしは通っている塾を辞めて家事手伝いをしました。それから高校のランクを下げました」
「下げてここなの?」
「はい。本当は進学校に行きたくて。国公立大学が狙えるところを。お母さんはなにも悪くはありません。だからお母さんを恨むことはありません。でも後悔はあります。もしももっと早くに気付いていれば、子供に怪我をさせることも、お母さんがうつ病になることも、お父さんが部署異動することも、わたしが夢を諦めることもありませんでしたから」
「だから、
「はい」
首肯してから、
「あれ? わたし、
キョトンとする
「あなたが本気で悩んでいるときって、彼のことを考えているときじゃあない?」
「え? えぇー!?」
「いやー、先生としては
「せ、先生! 勝手にやめてください!」
「はいはい、ごめんなさいね。まあ好みの問題ですものね」
「そうじゃなくて!」
「それで、さっきのことをそのまま彼に言わないのは、なぜ?」
「そっか。嫌われたくないんだ」
図星だった。
「それで、悩んでいたのねえ……あ、ごめんなさい、ちょっと着信」
しばらく呆けていた。
「そうだ」
いつの間にか電話を終えた
「私がセンターに言いましょうか」
「それは良くないですよ」
「あら? 知ったからには報告する義務があるんじゃなかった?」
「公式サイトにはそう書いてありますけど、国民の義務とまではいきませんよ。言わなかったからと言って法的な措置が取られるわけでも罰則があるわけでもないですから」
「いい方法だと思ったのに」
「お気持ちだけ頂いておきます」
そう言いながらも、本当に最悪の事態に陥ったら
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