第15話 潤香とデート 1

 ——ピンポーン。


 インターホンの音にまずは兎佳子うかこが反応した。


「ローギ! あたしが出るよ!」

「うおい! 出なくていい! お前は奥にいろ!」


 兎佳子うかこの襟首を掴んでぶっきらぼうに布団の方へ投げた。

 その隙に玄関へ向かい、ドアを開け、客人を招き入れた。


「わりいな」


 楼義ろうぎは部屋に入って来た理人りじんに対して、迎えの言葉ではなく謝罪を述べた。


「いいよ、暇だし。兎佳子うかこさんとお話をしたかったし、他ならぬ楼義ろうぎのためだからね。これ、ここに置いていい?」


 理人りじんはビニール袋を二袋テーブルの上に上げながら聞く。


「ああ。てーかその袋はなんだ?」

「食材だよ。どうせまともなご飯食べさせてないんだろうなあと思ってさ」

「んなこたねえよ、なあ?」


 兎佳子うかこに話を振ると、頷きを返す。


「うん! ローギのラーメンはおいしいよ」

「ラーメン……」


 理人りじんはキッチンのゴミ箱に目をやって、嘆息をもらす。カップ麺のカップが積んであるのがバレてしまった。


「……た、たまには手を抜きたいときもあるんだって。ほら、一昨日はオムライス作ったもんな?」

「オムライス?」

「ほら、赤い飯の上に卵焼きが載ってるやつ」

「あー! あのじゃりじゃりしてたのオムライスって言うんだね!」

「じゃりじゃり……?」


 理人りじんの冷ややかな目が楼義ろうぎに刺さる。


「う、殻が入っちまっただけだぜ……そんな睨むなよ」

「今日は食材をたくさん買ってきて良かったよ。兎佳子うかこさん、今日はお昼ご飯も夕ご飯も僕が腕によりをかけるから、普段摂れてない栄養を摂ろうね」

「うん! 摂ろうね!」


 ばんざいをして元気よくぴょんと飛び上がる兎佳子うかこ

 理人りじんはふふっと笑ってさっそくエプロンを付け始めた。


「料理作るの、そんなに楽しいか?」

「料理って言うより、人に振舞うってのが良いのかな。それよりも楼義ろうぎ紙岸かみぎしさんと付き合い始めたのが嬉しくて」

「バッ……! そんなんじゃあねえって。まあでもそのしわ寄せがお前に行っちまうのは、なんだか申し訳ねえが」

「気にしないで。僕は楼義ろうぎに頼られるのも嬉しいんだから」

「なんか気持ち悪いぜ。お前はなんでそんなにやさしいんだ」

「やさしいのかな? 単純に楼義ろうぎしか友達が居ないから、君に対して時間を惜しみなく使えているだけだと思うけど」

「俺は自分のために使っちまうなあ」

「そう言えばデート——」

「だからデートじゃあねえよ」

「時間はいいの?」


 言われて壁掛け時計を見る。


「大丈夫だ」

「そう? 時間ギリギリになってしまったと思って、頑張って走って来たんだけどなあ。余裕ならいいよ」

「お前は走るの速いからな。ん? てーか、どこでその食材買ってきたんだ? 近場のスーパーまだ閉まってるだろ?」

「え? 開いてたよ?」

「休みの日は早いのか? いつも9時半開店なのに」

「そう。9時半に開いたよ。だからもう10時なんだけど」


 楼義ろうぎが壁掛け時計をもう一度見る。8時半だ。懐からスマフォを取り出し、時間を確認する。


「……ぉぅ」


 驚愕の事実と同時に、疑問符が頭の中を駆け巡る。


兎佳子うかこ、あの時計触ったか?」

「うん。昨日ローギが寝床の時計の電池ねーから変えといてくれーって言ってたから、その時計から電池取って向こうの時計に付けたの。偉い?」

「ぉぉぉぉぃぃぃぃぃいいい!! どうしてそういう発想になるんだよ!」

「ええ!? なんで怒ってるの!?」

「うるせえ! お前のせいで遅刻しちまうだろ!」

「なんであたしのせい!?」

「ぎゃああ! もう! 帰ったら説明するから! 理人りじんの言うこと聞いて、良い子にしてろ!くれぐれも勝手に出歩くなよ!」


 楼義ろうぎは喚きながらも身支度を済ませる。


「わりぃ理人りじん兎佳子うかこを頼んだ!」


 スニーカーの踵を人差し指で引っ張りながら言うと、理人りじんの微笑みが返ってくる。


「いってらっしゃい」

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