第14話 袋木風梨 3

「銀髪で赤い瞳。ただの偶然とは思えなくてな。でも、まあ、当時も遺体を見たし、葬式も済ませたから、兎佳子うかこ風梨ふうりじゃあないってのはわかってんだけど、どうしても重なっちまって。死点戻してんもどししたら、死んじまうんじゃあねえかって」


 次第に声が上ずっていった。視界はいつの間にか滲んでいた。潤香うるかの柔らかい掌が、髪の毛をゆっくりと撫ぜた。


「当時、鎖画李さがりさんが言った通り、風梨ふうりちゃんが過死者かししゃになったのは絶対に楼義ろうぎくんのせいではないし、そのあと風梨ふうりちゃんが死に直したのも絶対に楼義ろうぎくんのせいではないよ。わたしたちはそれを背負ってはいけないんだよ。それを背負い始めたら、誰も死点戻してんもどしできなくなってしまう。そうしたら、この世界の生命のルールを守れなくなってしまう」


 口調こそ淡々としており冷静だったが、彼女は楼義ろうぎのシャツの裾を思い切り握っていた。指が紫色に変色するほど、きつく。

 それを目の端に捉えた楼義ろうぎは、さすがに申し訳ないと思った。過去の話をしたからと言って、この世の倫理観が自分を中心に改めて回り始めてくれるわけではない。楼義ろうぎがこんなに情に揺さぶられる逆葬儀屋だから、潤香うるかは人一倍冷静で倫理的で正確な判断を迫られているはずである。それを薄々勘付いてはいた。ただ気付かないふりをして甘えていたのだ。そしてまた、彼女に甘えようとしている自分が居る。


 楼義ろうぎは上体を起こして、ベンチに座り直し、潤香うるかの方を向いた。


潤香うるか兎佳子うかこのことはいずれ俺の方からセンターに知らせる。だからもうちょっとだけ待って欲しい」

「もうちょっとって?」

「具体的には言えないんだが」

「困るよ」

「そう、だよな。でもせめて、あいつが生きてたいって思えるような思い出を作りたいんだ」


 潤香うるか楼義ろうぎから視線を逸らし、茜色に染まる雲と雲の間に彷徨わせた。


過死者かししゃのときの記憶がどんなに鮮やかでも、過死原因をなかったことにはできないよ。それに、過死状態オーバーデッドの間に辛い思いをしないとも限らないんだよ?」

「もちろんその通りだ。でも、このまま死点戻してんもどしをして兎佳子うかこが死んじまったら、俺は絶対に後悔する。もう二度と、あんな思いをしたくないし、過死者かししゃにあんな思いになって欲しくないんだ」

楼義ろうぎくんのやろうとしていることは、逆葬儀屋のルールを軽んじる行為だから、通常許されるようなことではないし、逆葬儀の前に葬儀屋に灰化葬はいかそうされてしまうデメリットがあるんだけど」


 潤香うるかは重々しい空気を吐き出し、楼義ろうぎは目を伏して頷いた。


「パートナーが仕事できなくなったら大変だし、黙っておくことにする」

「わりいな。代わりになにか俺に出来ることが有ったら言ってくれ」

「そうね」


 人差し指を顎に付けてしばらく考えるそぶりを見せた。


「私とも楽しい思い出を作って欲しいな」

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