第十七話・決意
「もしかして、恋愛したらいけないって思ってる?」
かふぇこっとんが休業日の昼、私はこずえさんの家に居た。珍しいコーヒー豆が手に入ったらしく、ランチ兼ねての呼ばれていた。こずえさんの問いに、言葉を失っていた。
「なんでそう思ったか、不思議そうな顔してるね。谷くんへの態度がぎこちないって感じちゃってさ。谷くん、気持ち丸出しなのに蓋をするような雰囲気だしてる。実穂さんが気付かないフリしてても頑張ってアピールしてる」
「私は、ちゃんと働けるようになるまで、谷くんに限らず、誰とも恋愛しちゃいけない気がしてる。負担になりたくない」
こずえさんには、嘘をつけない。嘘をつくつもりもない。わかっていてもらいたい。
「それは、生活保護ってことに引け目感じてるから?」
「引け目、なのかも。自分の力で生きていない感じ。それなのに浮かれて恋愛なんて」
「それって、前の彼氏が養ってやってるみたいな、そういうのがあったから、引け目感じやすくなってるんだろうね。でも、自分の気持ちに蓋をしてまで引け目感じなくていいと思う。生活保護だからって、欲を全部我慢しなきゃいけないなんてきまりはないよ。谷くんのこと、意識してるでしょ。好きなんじゃない?」
引け目、蓋をする、それは図星だった。好きにならないよう、友達だと思い込もうとしてた。友達だといってくれるあいだは、恋愛に発展しない。それだと傷つかずに済む。
「私自身のことを、どこまで話したらいいかわからない。全部話したら、嫌われてしまうかも。そんな不安にも蓋をして、友達っていう関係で楽になろうとしてた。ぜんぜん、楽じゃなくなってきてたのに」
「実穂さんは、いろんなことを我慢しちゃうからさ。私にまで、我慢しなくていいんだよ。谷くんだって、頼ってほしいと思ってるはず。言いにくいことはあるだろうけど、好きなら好きで、その気持ちは、ちゃんと伝えてあげてよ。伝えたあと、少しずつお互いを知っていくもんでしょ」
こずえさんとの会話で、私は前向きに考えようと気持ちを入れ替えた。
とはいっても、今まで拒むような態度をしていたから、どうすればいいかわからなかった。考えてみたら、恋愛経験値は低い。谷くんから誘われてばかりだったから。
気持ちを隠さない。蓋をしない。そこから変わるには、私から行動しないと。そう思って、谷くんにメールすることにした。
観たい映画がある。ベタな誘い方が照れ臭かったけど、谷くんから嬉しそうな返信が届いたから、ホッとした。
映画を観終わったら、私の話をしようと思う。重たい話で、もしかしたら幻滅されるかもしれない。好きだと伝えるだけじゃなくて、その先を考えたら、知っていてほしいと思うから。
進展するかは別。話した上で、友達が良いとなったとしても、後悔しない。たぶん、大丈夫。
約束の日は、三日後。
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