第3話 付き合ってから属性迷子になっていく話

 22歳年下好き甘やかし属性の妙。28歳年下好き同じく甘やかし属性のみちる。お互いに相手の顔がたまらなくタイプであったがため、出会った初日にみちるのごり押しによって付き合い始めた二人。


 妙はまだみちるの年上気質、甘やかしモードに慣れていない。


 付き合い始めて数日。意外にもみちるはそれほど妙に執着してこなかった。お互いに仕事をしている間はほとんど連絡がない。夜になってみちるのほうから『お疲れ様~』と連絡が来て、少しやりとりをしておやすみと挨拶をするくらいであった。


 妙はそれにも慣れない。以前は四六時中構ってほしがる年下彼女としか付き合った経験がない。少し重いくらい頻繁に連絡が来ては、それに自分が返信する大変さに慣れていたからだ。女の子と付き合うとはそう言うものなのだという慣性がついていた。


 それ故に、初日に自宅を特定してまで押しかけてきた押しの強いはずのみちるがみせる素っ気なさに、妙のほうが少々寂しさを感じていた。この時点ですでに妙の属性は以前の年下彼女と同じように年上に振り回されて一喜一憂する側に寄りつつあるのだが、妙はまだ自分で気づいていない。


 土曜日、会社員の妙は休日である。付き合いたての彼女と会う約束を取り付けられないまま午前を過ごした。みちるが働くクリニックの診察券を見る。休診日は水・日とある。みちるは今日、仕事なのかも知れない。


「明日は会えるのかな。さそってみようか・・・。」


 実況の声があるなら、「このチョロ主人公は出会って数日ですでに、会えない時間が愛を育てるのよ状態に陥っていた」と解説するだろう。しかし、押し切られるように付き合い始めたため、まだ素直になれないようだ。


「夜寝る前のやりとりでなんとなく誘ってみようかな。」


 そう考えて一人過ごしていると夕方になり、晩ご飯は何にしようかと冷蔵庫の中を物色していると、、みちるからのメッセージが入る。


『今日、仕事終わったらそっち行っていい?』


 妙の表情がぱぁっと明るくなる。自分が思っているより嬉しいのだ。


(ホント、急だし勝手だよな。)なんて思いはするが、『大丈夫だよ。』と素っ気なく返事をする。


『ご飯作ってあげるからお腹空かせて待ってて♡』


 正直、妙は嬉しくてひっそりと悶えた。


(缶チューハイとポッキーは買っておこう。)


 気の利く甘やかし属性なのである。





 夜、みちるの仕事が終わる頃、妙はクリニックの近くまで来ていた。迎えに来てくれたことに喜ぶみちるの反応が見たかったからである。自分ではみちるを甘やかしている行動だと思っている。がしかし、


「お疲れ様。迎えに来たよ。」


 ちゃんと職場への配慮をして少し離れたところでそう声をかけた。 みちるが反応して妙のほうを振り向き、妙であることを認識すると、、


「え、うそっ!やだぁ、、待ちきれなくてきちゃったの?」


 ニコニコとしてそんな風に言う。思っていた反応と違う。


「や、そ、そうじゃなくて、荷物とかあるだろうからって・・・」


「かわいい~!キュンとしちゃう!寂しかったんだぁ?」


「ち、ちがう!」


 妙が必死に顔を赤らめて抵抗するも、


「ちがくないじゃーん。顔真っ赤だよ、かっわいいっ!あとで沢山イチャイチャしてあげるからね♡」


「うっ・・・・くぅぅっ!違うって言ってるのに・・・。」


「さ、スーパー寄っていこ?なにが食べたい?何でも作ってあげるよ?」


「・・・ん、じゃあ、オムライスとか?」


「え、可愛い。ハート書いて欲しいの?♡」


 なぜこの人は一字一句拾ってこども扱いしてくるのだろう・・・?


 なぜか。どこまでも妙を甘やかしたいからである。


「あ、でも花粉症。免疫力上げたいからぶたの生姜鍋にしよう♪」


 なんなのよ。。じゃあ聞かなくて良かったじゃん。。


「あ~!休み前にこうして二人でいられるのっていいね。ね、妙ちゃんもうれしい??」


「ん、まぁ。。嬉しい。」


「かわいいねぇ!寂しかったか、よちよち。」


 やめろぉぉぉぉ!赤ちゃん言葉やめろぉ!!


 妙は顔を真っ赤にして黙り込んでしまった。


 自分より年下に見える、圧倒的に顔が可愛いみちるに、そんな風に可愛いを連発されてもはや屍に近かった。まったくこちらのターンにならない。




 スーパーに立ち寄って夕飯の材料を買うと、二人は妙の家に着いてキッチンに食材をおろす。まだ勝手のわからない他人のキッチンだから、自分も手伝った方が良いだろうと準備をどう進めようかと妙が考えていると、


「あ、その前にちょっとイチャイチャしようよ?」


 そう言ってみちるが、はい。と両手をハグするように妙のほうに出した。


「あれから会ってなかったからね。私寂しかったんだよ?」


「そ、そうなの?」


「そりゃそうだよ。だから、はい。来て。」


 言われるままみちるに近寄ると、どちらかと言えば妙が抱きしめられるような形になってしまった。身長はほぼ同じくらい。自分の顔の横に彼女の顔がある。


「ん。きもちい。」


 ぎゅっとしたまま、みちるが満足そうな声を漏らす。


(あ、ここで自分からキスを・・・)と閃いた妙は、みちるの体を両手で優しく少し離すと、みちるの目を見ながらそういう流れを感じさせた。



ちゅっ。



 その空気を察して先にキスをしてきたのはみちる。


「かわいいね、まつげ長いなぁ。肌も綺麗。」


 みちるがそんなことを言いながら、妙の首に両腕を回して、さらに軽いキスを何度かしてくる。


「やっぱり好きだなぁ、妙ちゃん。」



 またしても、なんの口説き文句も言えずにされるがままの妙であった。






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なんの広がりもなく、イチャイチャする話をあと2話くらい書いたら終わりにします。

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