異世界召喚されたらレベル999だった(過去形)

おちょぼ

第1話 異世界召喚されたらレベル999だった

 ゲームをしていたら突然目の前が真っ白になった。ゲームのやりすぎで目がおかしくなったのかと思ったが、だんだんと視界が戻ってきた。

 

 気づくと俺は中世の城みたいな場所にいた。

 ・・・・・・どうやらおかしくなったのは頭の方だったらしい。

 

「おお、召喚は成功だ!」

「よかった。これで我が国は救われる」

「まさに伝説の通りだ・・・・・・!」

 

 なんだか周囲の人が抱き合ったり咽び泣いたりと騒がしい。だがどうやら喜んでいるらしいとはわかる。

 

 これは・・・・・・あれだな。俺はオタクだから分かるぞ。いわゆる異世界に召喚されて勇者で世界の危機をうんたらかんたら俺TUEEEEってやつだな。

 

 ドン、と重い音が部屋に響く。すると騒がしかった部屋がピタリと静かになる。音のした方を見ると派手な大剣を持った派手な服を来たオッサンが派手な玉座に座っている。きっとこの国の王様だろう。

 

「汝、名は?」

荼毘だび龍斗りゅうと・・・・・・です。あ、龍斗の方が名前です」

「リュートよ。汝、勇者たるや?」

「ええ?  どうなん、ですかね? たぶん状況的にそうだと思うんですけど」

 

 何とも威圧感のあるオッサンだ。ふざけた態度とったらすぐ死刑とかいいそう。

 

「しからば、証明せよ」

 

 ドン、と再び王様が大剣を鳴らす。すると王様の傍で控えていた全身鎧の騎士が俺の前に出てきた。

 

「そのもの、我がナーロップ王国最強の騎士、ジミー」

「ジミー・・・・・・」

 

 地味な名前。なんちゃって。

 そんなことをおもっていたら突然ジミーさんが剣を抜いた。

 

「えっ!  ちょ、待ってください! 俺はいい名前だと思いますよジミーさん!」

「ジミーを退ける事ができれば、汝を勇者と認めよう」

 

 あ、なんだ。ジミーさんが突然キレた訳じゃなくてテストの一環なのね。よかった。

 ってよくない!  ギラりと光を跳ね返すジミーの剣。あれが真剣なのかどうかは分からないが、あんな鉄の棒で叩かれたらそれだけで致命傷だ。

 

「参る!」

「ひっ」

 

 迫るジミー。

 俺は・・・・・・動けない。

 そりゃそうだろう。平和な日本でぬくぬく育った人間がいきなり戦えるわけがない。

 

 ジミーが剣を振り上げる。

 俺は恐怖から目を背けるように目を閉じた。

 

 カン

 軽い音、それと少しの衝撃があった。恐れていたような痛みはない。

 恐る恐る目を開ける。

 

「うわ!」

 

 目の前にジミーの兜。

 剣は・・・・・・俺の肩に当たっている。だが何も痛くない。なんだろう、俺があまりに無防備だから寸止めでもしてくれたのかな?

 

「くっ」

 

 ジミーが再び剣を振り上げる。

 再びカンという軽い音。

 そのまま二度三度と剣を振り上げるが結果は同じだった。

 もしかしてふざけているのかと思ったが、兜越しの視線から本気の困惑と恐怖が伝わってくる。

 

 ははーん。

 これは・・・・・・あれだな。いわゆるチートって奴。

 俺は振り下ろされた刃を無造作に掴むとジミーの手から剣をぶんどった。そのまま刃を握りつぶし、紙細工のようにぐしゃぐしゃに丸める。呆気にとられるジミーに鉄屑と化した剣を投げ返し、ドヤ顔でキメる。

 

「まだやるかい?」

「・・・・・・参った」

 

 ワッと観戦していた貴族らが歓声をあげる。口々に俺を称える言葉が上がる。

あー、気持ちいい。日本じゃ得られなかった快楽。ハマりそうだ。

俺が満たされていく承認欲求に浸っていると、王様が再び大剣を床に打ち鳴らす。すると貴族達の歓声がピタリと止まった。

 

「素晴らしい。汝、勇者なり」

「ふふん。どうやらそのようだな」

「して、汝のレベルは如何程か?」

「レベル?  えーと」

 

 ゲームみたいな感じでレベルがあるのか。

 どうやって見るんだ?

 まごまごしているとジミーが近づいてきて耳打ちしてくれた

 

「えー『ステータス』」

 

 瞬間、頭の中にゲームのようなステータス画面が浮かび上がる。

 

 ──

 名前:荼毘龍斗

 年齢:16

 種族:人間

 職業:勇者

 レベル:999

 特性:【竜頭蛇尾】

 

 ──

 

「レベル999・・・・・・?」

 

 ぼそりと呟くと周囲がザワついた。

 

「なんと、初めからレベル999だと!」

「王国最強の騎士ジミーですらやっとレベル100になったばかりだというのに」

「まさに奇跡・・・・・・!」

 

 やっぱりこれ凄いことなんだな。

 でもそれより気になるのは下の特性って奴だ。

 【竜頭蛇尾】・・・・・・確か初めは勢いがよいが、だんだん尻すぼみになることだよな。あんまり良い意味じゃ使われないが。なんか詳細とかどっかで見れないのか?

 

 ドン、と大剣の音が思考を止める。

 

「リュート。汝、救国の勇者なり。現在、我がナーロップ王国は、魔王の軍勢により危機に瀕している」

「へぇ。じゃあ勇者として俺が助けてやるよ」

「助力、感謝する」

 

 まぁいいか。

 なんせレベル999。王国最強とかいうジミーが100レベぐらいって事は要するに敵無しだろ。俺TUEEEEでハーレムで人生勝ちまくりモテまくりの夢のような生活が待ってるぜ。

 

 俺がこれからの生活を夢想していると、なんだか壁際に立っていた貴族っぽい人達が窓の外を見て騒ぎ出した。

 

「なんだあれは」

「まさか魔物・・・・・・?」

 

 よーく目を凝らすと地平線で何かが蠢いている。ここからでは小さくてよく見えないが、問題はその数だ。どこから現れたのか分からないが、地平線を埋め尽くさんばかりだ。

 

 部屋中がざわめく中、突然慌ただしく扉が開かれ、一人の兵士が飛び込んできた。

 

「で、伝令、伝令!  火急の要件により失礼します!  魔物の軍勢が南方より王都に向かって侵攻しております!  その数、万を超えます!」

「勇者リュートよ。早くも出番である」

「ああ。行ってくるか。じゃあ宴会の準備よろしくな。カワイイ女の子も忘れんなよ」

 

 戦場に向かおうとすると、壁際にいた貴族っぽい偉そうな人の一人が俺の前に立ちはだかった。

 

「き、貴様。王に向けて不敬であるぞ!」

「え、誰?」

「吾輩は南方の防衛を王より任ぜられた辺境伯ロベール・ペリシエである! 王よ!  このような余所者の力など借りずとも、吾輩が誇る騎士団があの程度の軍勢蹴散らして見せましょう」

 

 どこか芝居がかった動きで王に礼をする辺境伯のロベなにがし。要するにポッと出の勇者に手柄を取られるのが悔しいんだろう。

 

「ま、いーんじゃない?  俺より早く終わらせられるなら別に変わってもいいけど」

「ふん、怖気付いたか。やはり王への忠誠も礼儀もなってない余所者が」

「んじゃ、30秒以内によろしく」

「は?  30秒?」

 

 固まる某。その顔が熟れたトマトのように真っ赤に染まる。

 

「そっ!  そんな事出来るわけがなかろう!  それとも何か、貴様なら出来るとでも」

「出来るよ」

 

 俺は窓際に向かうと、迫り来る魔物の軍勢に向けて手を伸ばした。

 魔法だなんだとファンタジーな事の経験はないが、自分が勇者である事を自覚してから、不思議と何をすればあの魔物を片付けられるかが手に取るように分かる。

 これがレベル999の勇者の力か。

 

 (魔力集中・・・・・・術式安定・・・・・・対象補足・・・・・・)

 

 高まる魔力が渦をまき、王の間に俺を中心に嵐の如き風がうねる。目に見えるほどの密度の魔力が光り輝き、魔物達の上空に浮かび上がる魔法陣に集まっていく。何事かと魔物達が慌てているようだが、もう遅い。

 

「【裁きの刻ジャッジメント・デイ】」

 

 魔物の軍勢の上空に浮かび上がった魔法陣から純白の光が放たれた。神々しくも圧倒的な光が全てを塗りつぶし、一拍遅れて凄まじい衝撃がやってくる。やがて光が収まると、地平線にはえぐれて地肌を晒した大地のみが残されていた。

 

「あ、あわば」

 

 ぺたんと座り込む某。俺はそのオッサンには目もくれず、王様に笑いかけた。

 

「で、宴会は?」

 

 ──────

 

「ガッハッハッ。ちこうよれ。ちこうよれ」

 

 勇者たる俺の歓迎パーティー兼祝勝会。俺は両脇に美女を侍らせながら出された豪勢な食事を楽しみ、ついでにメイドに左後ろから大きな団扇で仰がせている。

 両手に花で酒池肉林で左団扇だ。まさにこの世の春。

 

「いやーそれにしても素晴らしいご活躍でしたな勇者様」

「ええ。もはや勇者様さえいれば魔王など恐るるに足らず」

「この調子でお願いしますぞ。我らナーロップ王国、支援は惜しみませんので」

 

「そうだろうそうだろう!  このレベル999の勇者に万事まかせない!  ガッハッハッ」

 

 挨拶に来た貴族達がヘコヘコするのを肴に、よく分からない緑色の果実にかぶりつく。思ったよりも糖度の強い汁が顔に飛び散るが、両脇の美女が甲斐甲斐しく拭いてくれる。

 

 棚ぼた的な力で無双した結果とはいえ、こうもチヤホヤされるのは悪い気はしない。むしろいい。

 

 だが・・・・・・

 

 笑顔でヘコヘコする貴族達を一瞥する。

 彼らは表面上は純粋に魔王に対抗できる力を得たことを喜んでいる。だがその態度とは裏腹に、俺の精神に、彼らから向けられた敵意や恐怖のトゲがチクチクと刺さるのを感じていた。

これも勇者の力の1つなのか、どうも周囲から俺に向けられた負の感情が分かるようになっているようだ。

 

 国を救う英雄になぜ、と思う感情もあるが、彼らの立場に立ってみれば理解もできる。

 なにせ目の前にいるのはレベル999の人の形をした怪物だ。もし何か機嫌を損ねてその場で殺されても、誰も俺を裁くことが出来ない。

 誰も俺を裁けないという事は、極論を言えば、俺が王様や貴族をぶっ殺して力による独裁政治を始めても止められないという事だ。

 今彼らが恐れているのはそれだろう。すなわち、俺が第二の魔王になる事。

 

 まあやらんけどね。

 こちとら平和な日本で育った小市民。俺は適度に活躍して、みんなからチヤホヤされつつ、安心安全子供も楽しめるマイルド勇者になるぜ。

 

「あ、そういえばさ」

「はい!  なんでしょう」

「魔王を倒した後って俺の扱いどうなるの?  元の世界に帰るの?」

「あー実はですね。現在送還用の魔法を開発中でして。勇者様が魔王を討伐するまでには完成させますので」

「いやいや。いいよ別に無理して帰そうとしなくて。俺は別に向こうの世界に未練はそんなに無いし」

「いえいえ。世界を救う英雄に里帰り1つさせられないとはナーロップ王国の名折れ。現在国中の魔法使いが研究を進めておりますので」

「いやいや・・・・・・」

「いえいえ・・・・・・」

 

 ・・・・・・どうもこの国はよっぽど俺に帰って欲しいらしい。まあ強すぎる力は軋轢を生む。獅子身中の虫ならぬ獅子身中の勇者ってか。いつ爆発するとも知れぬ爆弾を世界が平和になってからも持ち続けるつもりはないようだ。

 

 まあ何とかなるだろ。

 なんせレベル999だ。俺の力なら目の前でいきなり送還魔法を使われても片手間で抵抗できるんじゃないだろうか。

 今はとりあえず目の前の快楽を貪るとしよう。

 

 ────

 

「んがっ」

 

 ベッドからずり落ちて目が覚めた。

 周囲は真っ暗でよく見えない。一瞬今までの幸せな出来事が全部夢だったんじゃないかと不安になる。

 

 あ、いやそうだ。1つこれが現実だと確かめる方法があるじゃないか

 

「『ステータス』」

 

 魔法の言葉を唱えれば、俺の脳裏に輝かしいステータスが

 ────

 名前:荼毘龍斗

 年齢:16

 種族:人間

 職業:勇者

 レベル:898

 特性:【竜頭蛇尾】

 

 ──

 

 輝かしい・・・・・・ステータスが・・・・・・?

 あれ、なんか変だな。俺の記憶と一部ステータスが違うような?

 主にレベルの部分が。

 

「?????????」

 

 あ、そうか。まだ寝ぼけているのか。

 いかんいかん。異世界に召喚されたからって浮かれすぎた。寝不足は万病の元。

 しっかり寝て、明日からまた頑張ろう!

 

 俺は布団を肩まで掛けて、再び夢の世界へと落ちていった。

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