神様転生したけど、異世界じゃなくて日本だし、俺tueeeとか虚しいだけだし、崇め奉ってくれるのは近所のおばあちゃん

脇役C

第一話 私が神様です

 某栃G県にある那須連峰の1つに、伏山という標高300m程度小さな山がある。

 山っていうより、なだらかな丘だ。

自動車で走るぶんには、ちょっときつい坂道が続く林道だな、くらいにしか思ってもらえないだろう。


 山の威厳というものはないかもしれない。

 山の半分はゴルフ場になっているし。

 おまけに、その残りの半分の半分は宗教施設になっている。


 そんな山の神に、俺は転生していた。去年の夏に。

 駅伝のあれではない。

 ちゃんとした意味での神である。


 いや、ちゃんとしているのかは自信がない。


 神社がない。

 宮司はもちろんいない。

 小さなほこらがあるのみ。

 その祠も、切り開かれた道路の斜面にぽつんとある。


 いや、不満があるわけじゃない。決して。

 前世に比べればたいそうな今生だ。

 分不相応とも思っている。


 でもね。

 これはもう、神としてはなかなか俗世にまみれた考え方だけれどさ。


 転生したからには、異世界とかで生まれ変わりたかったよね。


 なんで日本……。

 しかも栃木……。


 餃子が有名だってことくらいしか知らない。


 なんか偉い神様が来て、一見平凡そうに見えるけど最強能力とか与えられたかった。

 死んだところで生まれ変わるとか、ただの地縛霊じゃ。


「神さんもなかなか大変だんな。独りぼっちだもんな」

 この魂だけになった御方が、俺の唯一の話し相手だ。

 たぶん、まじもんの地縛霊。

 俺が神になってずっと成仏しないでいる。


「前世でもぼっちだったんで、それはいいんですけどね」

「来世では強く生きるんだぞ」

 地縛霊になぐさめてもらった。


「俺は神なんで、別にぼっちとかいう俗世に囚われた概念なんてないですけどね!」


 一応神になったけど、俺の来世ってどうなってるんだろ。

 また人からやり直せるのか?


「お、来たべ。神さん」


 来たのは、参拝者だ。

 そう。

 こんな俺でもあがめてくれる人もいるのだ。


 その名もヨネさん(85歳)。


 祠の掃除をしてくれ、周囲の除草までしてくれる。

 毎日欠かさず。


 ヨネさん、神の俺よりよっぽどできた人だよね。

 この期に及んで、ヨネさんがJKだったら良かったのにという罰当たりなことを思う俺よりもさ。


「したっけ、今日はお菓子を置いておきますけ」

 そう依り代(石)に語りかけて、コンビニスイーツを供えてくれる。

 俺としては、朝食の残りとかで全然かまわないのに。

 神の俺にとっては、美味いものより、その食料の生命力や、供えてくれた人の思いのほうが馳走だからさ。


 つまり、ヨネさんの思いだけで十分なごちそうだってことだ。


 ここまでしてもらって、こんなしょぼい神で申し訳ないな……。

 ありがたい、本当に。


「感心なやつだな。こんな時代に、こんな小さな山にも信仰心をもって……」

 地縛霊でも感心するらしい。

「本当にこんな小さな山なんですけど、その神が隣にいるのに言いますそれ?」


 でもその通りだと思う。

 

 一度くらいは、お礼を言いたい。

 そう思いながら、もうすぐ1年になる。


 人間に関わって良いことなどないと、隣の山の神から忠告された。

 それが頭に残って、二の足を踏んでる。


 その山の神の言うとおりなんだろうな。


 山の神の本分は、山の秩序を守ることにある。

 特定の種の優遇は、山の秩序を乱す。

 特に思いが強い人間なら、なおさらだ。


 自分の山の秩序ルールも、この山に棲む生き物たちのことも、まだまだ把握できていない。

 そんな俺が、人に関わることはおこごましいよなと思ってしまう。


(ん……?)


 ヨネさんの光が、弱くなっている……?

 これは、魂から出ている光だ。

 生命力とも言える。


 ほたるのような光がぼんやりと、少し強くなったり、弱まったりを繰り返している。


 これは他の生き物たちと一緒だ。

 ヨネさんは、もう長くない。

 もって一ヶ月か、早くて2,3日のうちにヨネさんの魂は、この世界じゃないどこかにいく。


「ヨネさん、もう長くない」

 俺がそう漏らすと、地縛霊の魂が揺らいだ。

「そうか……。もう若くないものな」

 地縛霊はそう答える。


 急な狂おしさを覚えた。

 強烈な乾きを感じた。


 神になってから初めて感じた、強い感情だ。


 ヨネさんが死んだら、魂は不滅だとしても、きっともうこの山のことなんか覚えていない。

 こんなに人生をかけて詣でてくれた、この山のことを……。


 話がしたい。

 感謝の気持ちを伝えたい。


 関わる、まではいかなくていい。

ここまで、この山に敬意を払ってくれた人に謝意の一言も告げずに見送るようなことがあってはならない。


 強くそう思った。



 しかし死んでから、人前はおろか、動物の前に姿を現すことすらしてこなかった。

せいぜい祠の依り代(石)に憑依ひょういするくらいだ。


 そこから話しかけても、妖怪だと思われるのがオチだろうな。

ヨネさんを驚かせてしまううえに、余計に命を削らせてしまう。


 虫や動物に憑依するのも、ヨネさんに話を聞いてもらえそうにはないな。

 やったことないけど。


 ………。


「俺、ヨネさんに会ってきます」

「どうやって?」

 地縛霊が聞き返す。

「人型に化身します」

「できるのか?」

「分かりません」

 でも。


「やってみます」


 俺は神だ。


○○○○○○

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