第116話 依頼
翌日、奥大池周囲一帯の山は全て立入禁止となり、再び陰陽師協会本部は蜂の巣をつついたような騒ぎとなっていた。
「兵庫県支部長と土地神様がやられたなんて。敵は間違いなく一級妖怪以上だぞ!」
「敵戦力も不明です。いったい誰を派遣させればよいでしょうか?」
「一級陰陽師しかいないだろう……。これ以上徒に二級陰陽師を減らすことはできん」
だが、現実問題として人手が足りなかった。
「幸いにもまだ民間人への被害は出ていない。下手に手を出さない方が良い」
「一級陰陽師の方に連絡は済んでいるのか?」
「はい。菅原様と宝華院様、二名がもうじきお越しになると伺っています」
「なんとしてもどちらかには最低行ってもらうことになるぞ」
その言葉の通り、しばらくした後二人が本部を訪れる。
「一級会議以来か? これはまた大きな騒動になったもんだ」
会議室に菅原岳賢が顔を出す。
「岳賢さん、お久しぶりですね。状況は伺いました。他の六人は仕事中のようで」
宝華院家現当主である宝華院詠未は既に椅子に座っていた。
「今状況を聞いて来たが、どうやら敵は群れのようだな。人ではない足跡が大量に奥大池に向かっているのを先遣隊が確認している」
「群れ故に土地神様が負けたのであれば、そこまで警戒の必要はないでしょうが……」
「単体でも土地神様以上と思った方が良いだろうな」
「本来は複数人で当たるべき案件です。私は今別の依頼を受けておりまして、一か月後であれば同行できるのですが……」
「一か月も放置する訳にはいかんだろう。俺はもう今受けている依頼がもう終わる。その後うちの者を連れて奥大池に向かおう」
岳賢がため息を吐く。
「岳賢さん、気を付けてくださいね。危険な場合はすぐに撤退して下さい」
「分かっているさ。俺も死にたくはないからな」
こうして菅原岳賢の依頼が確定した。
◇◇◇
「素晴らしい事務所ですね! 道弥様の事務所に相応しいです!」
莉世が喜びながらソファの上で飛び跳ねている。
今俺達は二条さんが用意した新しい事務所に居る。
家から徒歩十分ほどの築五年のビルの一階を丸ごと借りることができた。
以前このビルの前を通ったが、他の業者が入っていた気がする。
まさか二週間でこんな良物件を用意してくれるとは流石大企業の社長だな。
広々としたエントランスに、執務室。個室の応接間やもしっかり用意されている。
事務所の前には二条さんからお祝いとしてスタンド花が置かれている。
既に椅子や机等も準備されておりすぐにここで仕事ができる状況である。
「それほど二条様が主を評価したということでしょうなあ。こんな場所をすぐ用意するなんて」
神狼である真が、子狼の姿でカーペットの上に寝そべっている。
「道弥様、僕の席はここですか?」
黒曜がきらきらした目で、事務員用の机を見て言う。
鞍馬天狗が事務作業しているの悲しすぎるだろ。どれだけうちは人手不足なんだ。
「そこは事務員用の机だ。まあ今そんな仕事も人員も居ないから不要だけど」
確かにこれから規模が大きくなってきたら事務員も雇わないといけないだろう。
芦屋家の復興という観点からも、事務所の規模は大きくしなければならないのは間違いない。
だが、来るもの拒まずでは勿論駄目だ。
芦屋道弥陰陽師事務所の名声があがることはすなわち芦屋家の復興につながる。
質も考えると、少数精鋭でなければならないだろう。
だが、まずは俺が上級陰陽師になることが先だ。
三級陰陽師になるには二つの条件がある。
三級陰陽師以上の者の推薦を貰うこと。
三級以上の妖怪の討伐依頼を陰陽師協会経由で五回以上受けること。これは不正を防ぐという意味と、協会の任務は価格が安いため人気がないから条件に入れているという事情がある。
この二つをクリアした後、試験を受けて合格した者が上級陰陽師である三級陰陽師になれる。
試験内容として多いのは推薦者以外の三級陰陽師同行の元、単独で三級妖怪を祓うというものだ。
試験は年に二回。時によって違うらしいが、まあどれも問題ない。
仕事をこなせば自然とあがっていくだろう。
すると突然、ノックの音が響く。どうやら来客らしい。
「すみません、芦屋道弥陰陽師事務所でお間違いないでしょうか?」
そう言って現れたのは陰陽師と一般人二人の組み合わせ。
「はい、間違いありません。芦屋道弥です。ご依頼でしょうか?」
「二条さんの紹介で来ました、夕日テレビディレクターの小池卓也と申します。連れの者は夕日テレビ専属陰陽師の山下です。ご依頼で間違いありませんが……純粋な依頼と言うより出演依頼に近い形でして」
そう言って、小池さんから名刺を渡される。
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