第85話 今更
次の日、東京駅に俺達は集合する。俺達四人は陰陽師服である狩衣を羽織っている。だが、代表者である佐渡さんは昨日と同じグレーのスーツを羽織っている。
「これが私の正装です。もう私が狩衣を羽織ることはないでしょう。私はただのサラリーマンですから。行きましょう」
そう言って、佐渡さんは新幹線に乗り込む。
「佐渡さんは陰陽師を辞めてから六年間、大手企業の営業として働いていたんだよ。今も有休をとってきているんだって。芽が出なくて一般人になる陰陽師は居るんだけど、二級陰陽師にまでなって一般企業で働く人は珍しいんだ。なんでなんだろうねえ」
と隣にいた一緒に今回の依頼に参加する錦さんが教えてくれた。三十代三級のおじさんだ。
「もうサラリーマンが本業ってことか……」
適当に副業で来るような人ではなさそうだし、まあ変な心配は必要ないだろう。俺達も佐渡さんに続いて、新幹線に乗り込んだ。
京都駅に着いた後、電車を乗り換え理伝村へ向かう。京都でも栄えた部分から、段々と木々と田んぼしかない田舎へと景色が変わっていく。
京都は歴史もある都市であることもあり妖怪も多い。一級以上の妖怪も多く、立入禁止地区もそこら中にある。
妖怪にも縄張りがあり、周囲を統べる大妖怪もいるだろう。
京都か……行きたいところもあったしちょうどいい。依頼後に会いに行くか。
『京は強い妖怪も多いですなあ。そこら中から感じます』
真が珍しくどう猛な声で言う。最近戦闘らしい戦闘がないから寂しいのだろうか。
車窓から見えるのどかな田園風景と、これからの血生臭い案件のギャップに俺は笑みを浮かべた。
そして東京を出て四時間半。遂に自動改札すらない無人改札駅に辿り着く。
「何もないな……」
俺は人っ子一人居ない駅前を見て呟く。
「では、行きましょうか」
佐渡さんは先陣を切って、すたすたと歩き始めた。
迷いそうなほどの細道を二十分程、俺達は今話題の理伝村に辿り着く。
のどかな村に見えるが、妖怪の被害のせいか村を歩いている人は少なく見える。
ふくよかな中年男性がこちらに気付く。一瞬、眉をひそめたような気がしたが、すぐさま笑顔に変わる。
「依頼を受けてきてくださったんですね! 大変助かります! 私は理伝村村長の長谷川です。佐渡様、どうかよろしくお願いします」
「早速仕事に入ります。状況を念のためもう一度お伺いしたい」
「実は、今日四人目が誘拐されました。二十歳の女性です……。昼に買い物のために外に出た時、妖怪に連れ去られたと。現場を目撃していた子供の言葉では、角があったと聞いています。女性を担ぎ上げると北の山に逃げていったようです」
そう言って、村長は北の山を指さす。
「角……鬼の一種かしら」
そう言ったのは三級陰陽師の
年は二十前半程。黒髪を肩程度で切りそろえており、百五十センチないくらいの小柄な体系である。一見、中学生くらいに見える。
「時は一刻を争うようですね。このまま山へ向かい、被害者達の捜索を行います」
「はい!」
俺達は早速山へ向かうために村の中を歩く。
「陰陽師だ! 来てくれたのか! なんとか連れ去られた子達を助けてくれ!」
「助かった! どうかよろしくお願いします」
村の人達はまるで救世主に会ったかのようにこちらを見て喜び歓迎した。
「どうやらかなり困ってたみたいね」
未希が呟く。
だが、ある一人の女性はこちらに気付くと大きく顔を歪め、迫って来た。
女性はそのまま佐渡さんの目の前にまでやってくると、佐渡さんを睨みつける。
「呉斗! 今更何しに来た! とっととこの村から出ていきなさい!」
「仕事です。貴方には関係ありません」
怒りの表情で叫ぶ女性とは対照的に、佐渡さんは淡々と答える。
「このっ……! 帰れ、って言ってるでしょう!」
女性は右手を振り上げると、そのまま佐渡さんめがけて振り下ろす。だが、それは佐渡さんにあっさりと止められた。
「仕事が終われば帰ります」
淡々と答える佐渡さんに嫌気がさしたのか、女性はそのまま去っていった。
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