第80話 嘘つき
「邪魔をするな、夜月。こいつは俺の家族を……一族を殺したんだ!」
「落ち着け。何かの間違いだ。兄さんはそんなことしない!」
夜月は必死で訴える。お前は何も知らないだけだ。
俺の殺気を受けても、晴明は口元に笑みを浮かべている。
「ふふ、彼は何か勘違いをしているようだね。一族だなんだ言っているが、彼の父も母も生きているじゃないか。夜月も知っているだろう?」
こいつ……!
「晴明……! お前が、お前がそれを言うのか! 俺に! 俺の妹も、父も母も全て殺したお前が! どけ、夜月!」
「どかない。私は道弥が嘘をつくような人間じゃないことを知っている。だけど、兄さんも信じているんだ。どういうことなんだ、教えてくれよ。道弥……」
夜月は辛そうに顔を歪ませる。
「あいつは俺の一族を殺した。本当だ。それ以上は言えん。あいつは、人を人とも思わない人殺しの屑野郎だ」
「何も教えてくれないんだな」
夜月はそう言うと、こちらに近づいて、そして俺に平手打ちを叩きこんだ。
「嘘つき。祐善さんも、由香さんも生きてるじゃないか!」
夜月はそう言うと、そのまま公園を去っていった。
「ばいばい、道弥君」
と晴明は薄笑いを浮かべてその後をついていった。
あいつ、俺がここに居ることを知ってて来やがったな。
俺は夜月に叩かれた右頬を抑えながら考える。
「道弥様、大丈夫ですか? だから殺せばよかったのです! あのアマ……よりにもよって道弥様を嘘つき呼ばわりなど。万死に値します!」
宙から莉世が顕現する。その後を追うように宙から真も顕現した。
「いいんだ。これで夜月とも離れられる。嘘つきだと、思われた方がいいのさ。これからきっと、顔向けもできない状況になる。兄を殺すんだからな」
俺はそのまま何するでもなく自宅へ戻る。
すると、父が玄関前に立っている。
「道弥、八百さんというから電話来ているぞ」
試験でお世話になった八百さんからの連絡だった。
「もしもし、芦屋です。八百さん、お久しぶりです」
「芦屋君、久しぶりだね。突然の連絡すまない。今、時間大丈夫かい?」
「はい、大丈夫です。仕事も来なくて暇なので」
「ネットの誹謗中傷のせいか。すぐに収まるだろう。宝華院家も四条家の不祥事が公になって、その対応で忙しいだろうからね。だが、暇ならちょうどいい。君に仕事……いや頼みの方が正しいかもしれないが、お願いしたくて電話したんだ」
「仕事?」
どっちなんだ?
「君は京都少女失踪事件を知っているかい?」
「テレビで話題になっているものですよね。知ってますよ」
「実は私の友人が、その事件の討伐依頼を村から受注したらしくてね。その依頼に参加してほしいんだ。勿論四級陰陽師としての参加だから、おそらく索敵のみだろうけどね」
「なるほど。ですがなぜ私に?」
索敵のみならば、俺でなくてもよいはずだ。
「実はこの依頼は二級陰陽師以上に出された依頼だった。それを受けた私の友人はここ六年実は陰陽師を引退していたんだ。だが、今回、この依頼を受けるために陰陽師を復帰したんだよ。元二級陰陽師とはいえブランクも長い。少し心配でね。君がいてくれたら安心だと思ったんだ」
友人が心配だから俺にも参加してほしいと。
「なるほど。ですが、給料分の支払いしかしないですよ?」
「勿論それで構わない。強い男だからな。では、君も参加ということでいいかい?」
「八百さんには色々世話になりましたから、私で良ければ参加させて頂きます」
「ありがとう。明日には顔合わせがあるだろうから、君の連絡先を先方に送っておくよ。この礼はいつか必ず」
八百さんはそう言って電話を切った。その夜、営業メールのような丁寧なメールが仕事用アドレスに届いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます