第78話

 三日後、京都のとある村に派手な服を着た若者がカメラを前に大声で話していた。


「こんにちは~! ヤムちゃんねるでーす! 今回は今話題の京都の理伝村に来てまーす! 少女失踪なんて痛ましいニュースが流れていますが、未だにその原因である妖怪に関しては全く情報が出ておりません。二級陰陽師ですら倒す怪物、周囲の皆様の安全のためにもなんとか暴いていきたいと思います!」


 コメント欄に彼の配信している視聴者からコメントが流れる。


”ヤム君、本当に行ったのかよ!”


”危なくね?”


”すげー。噂の妖怪見れるかも!”


”まだなんの妖怪かも分かってねーんだよな、確か”


”護衛雇ったのか?”


「皆さん、ご心配なく。四級陰陽師の中田さんに護衛をお願いしております! 直接戦う訳ではありませんからね。ただ、妖怪の正体を暴くだけですから!」


 ヤムと呼ばれる若者は、カメラを移動させ、中年の陰陽師中田を写す。中田は何をやっているのか理解できないと言った顔でただ苦笑いしていた。


”四級か……大丈夫かな?”


”余裕だろう! 別に戦う訳じゃねーんだし”


”そうそう。萎えるこというなよ。楽しみにしてます!”


「じゃあさっそく妖怪の住処と噂されている山の中に入っていきたいと思います! 中田さん、護衛お願いしますね」


「ああ」


 ヤムはそのままカメラを回しながら山の中へ向かう。

 山の周囲は簡易的な柵で覆われているも、所々壊れており柵として機能しているとはとても言えなかった。

 今にも壊れそうな立入禁止の看板が悲しく立っていた。

 ヤムは立入禁止の看板を無視しそのまま山へ入っていった。


「うーん……山の中は思ったより険しいですねえ。思ったより雰囲気があります」


 ヤムは実況しながら、奥へ進んでいく。すると前方から、一本足で立っている古びた傘を発見する。

 一つの大きな目がヤムを見つめており、傘地の部分からは二つの腕が生えていた。


「ひいっ! で、出た!」


 ヤムが悲鳴を上げる。


”おお! 本当に出た!”


”やらせじゃねえのか……生妖怪やっぱ気持ち悪いな”


”雑魚そう”


 ”こりゃ本当に、噂の妖怪にも会えるかもな!”


 コメントが流れる速度が上がり始める。


「からかさか! りんぴょうとうじゃかいじんれつぜんぎょう! 悪を祓え! 急急如律令きゅうきゅうにょりつりょう!」


 中田は呪を唱えると、そのまま護符をからかさに放つ。護符を当てられたからかさは一発で消し飛ばされた。


「おおー! 中田さんつえーっすね!」


 その様子にヤムは歓声を上げる。


”中田さんつえー!”


”なかた! なかた!”


”中田無双くるか?”


 中田の奮戦にコメント欄も盛り上がり始めた。からかさは五級妖怪でも弱い方であるのだが。


「ふん……四級陰陽師を舐めるなって、ことだ」


 中田も自信を持ち始めたのか、どんどん進んでいく。

 三十分程進んでたところで、ヤムは額の汗を拭う。からかさとの遭遇後、特に何も起こっていないため、どこか気が抜けていた。


「何も出ませんねえ。中田さん、何か感じませんか?」


 ただの世間話程度のつもりで、ヤムは横にいるであろう中田に声をかける。

 だが、横で立っていたのは、首から上が失われた中田の死体だった。


「あ? え? なか、た、さん?」


 突然の状況にヤムは声を出すのが精いっぱいだった。

 中田の死体は安定感を失い、そのまま地面に倒れ込む。


”え? まじ?”


”流石にどっきりでしょ?”


”本物にしか見えなかったけど……”


 先ほどまで笑っていたヤムの顔は真っ青に変わっていた。ようやく自分がいる場所が危険だと気付いたのだ。


「うわああああああああああああ!」


 ヤムは必死で走り始める。

 もはや実況する余裕など一つもない。ただ、走った。


「見えたっ! 助かっ、た!」


 ヤムは立入禁止の柵を発見して喜びの声をあげる。


”助かった!”


”しぶといな!”


”やっぱ正体を暴くなんて無理なのかよ”




 だが、次の瞬間、ヤムが持っていたカメラは大きく揺れ、地面に転がり落ちる。

 カメラはただ、地面だけを映していた。


”ヤム?”


”なんか変な音しなかった?”


”ばか、どっきりに決まっているだろ。こういう演出だよ”


”けど、カメラ置いていくか?”


”何も映らねえなあ”


”これ、死んでるだろ……”


 コメントが凄い勢いで流れていく。

 翌日、テレビでは四級陰陽師と動画配信者の理伝村の山での死亡が報道された。



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