第77話 京都の化け物
俺はようやく陰陽師免許を受け取り、陰陽師事務所を開設した。家の前には、『芦屋悠善陰陽師事務所』と『芦屋道弥陰陽師事務所』の看板が二つ並んでいる。
「道弥も遂に陰陽師事務所を開設するくらいになったか……感無量だ」
と父が横で泣いている。
同じ四級陰陽師だから客食い合いそうだな、と思っていた自分が少し申し訳ない。
「だけど、ろくな仕事こねえな」
と俺は呟く。
依頼は来ていた。割と。だが、その依頼の質が非常に悪かった。
四級依頼として、三級妖怪や二級妖怪の討伐依頼がわんさか届いていた。
費用は勿論四級相当で。
ようするに、陰陽師協会経由で依頼すると高くなる三級以上の依頼を、俺に直接依頼することで安く済ませようというせこい魂胆が見え隠れするわけだ。
新人だから相場が分からないと思っているのだろうか。
俺は作成したメールアドレスに届いたメール一つ一つにお断りを入れていた。
まともな仕事が来ない一番の原因は、やはりネット上の誹謗中傷だろう。
一番多いのは生意気だ、調子に乗っているという意見。次に、不正に違いない、といった根拠のない決めつけである。
これも宝華院家が関わっている気がしてならないが、ネットまでは流石の俺の力も及ばない。
「誹謗中傷を気にしているのか? 大丈夫だ、すぐに収まるさ」
「ありがとう、父さん」
別に気にしてないけど。
二人で話していると、こちらに向かって人が一人やってくる。依頼人か?
「おお、道弥! 来たじゃないか! 見る人は見てるんだよ!」
分かる人は、ちゃんとわかってるもんだな。
若い男はそのままこちらまでやってくると口を開く。
「今話題の京都の化け物の動画撮りてーんすよ。護衛いいっすか?」
男は左手に撮影用カメラを持ちながら、そう言った。
「京都の化け物?」
思わず聞き返してしまった。
「知らないんすか? 遅れてるっすね。それでも陰陽師っすか?」
なんだこいつ、しばくぞ。知ってるわ、それくらい。
最近テレビでも報道されている京都府の村で起こった少女失踪事件を引き起こした妖怪の話だろう。
失踪事件自体は現代ではままある話なのだが、今回の事件解決に向かった二級陰陽師が一人意識不明の重体になっている。
村で少女を攫っているとされる妖怪は二級妖怪以上の可能性が高い。
全国でも数少ない二級陰陽師がやられて、しかも少女達が攫われているのなるとマスコミが食いつかない訳がなかった。
「知っているが、二級妖怪相手の護衛であれば三千万ほどは貰うぞ?」
二級妖怪討伐依頼の相場は五千万から一億円ほどである。護衛でも三千万程が相場となる。
「はああ!? あんた四級だよね? なら三十万もあれば十分すぎるだろう!」
露骨に不快な顔をする男。
「適正価格だ。嫌なら諦めるんだな」
「君、ちょっと評判悪いんだよね~。俺のチャンネルに出たら、少しは悪い評判も良くなるんじゃないかな~? 知名度もあがるよ? このままじゃ仕事もないんじゃないすか?」
「心配して頂かなくて結構。自分を安売りするつもりはない」
俺ははっきりと告げる。
「ちっ! 調子に乗りやがって! これだからガキは! 覚えてろよ、お前の事務所のレビューボロカスに書いといてやるからな!」
酷すぎる捨て台詞である。
昔はレビューなんて気にしなくてもよかったのに。嫌な世の中になったもんだ。
「死にたくなきゃ、素人が遊び半分で村に行かない方がいいぞ」
俺の最後の言葉は彼に届いただろうか。
ゆっくり、仕事待つか。俺はそう思いながら家に戻った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます