第55話 勘違いしやがって
翌日。
俺達は再び森を探索する。
「ねえ、今日はあっちに行ってみませんか? コムギがあっちに強い妖怪が居るって、言ってます」
ゆずが明るい声色で西を指さす。
「分かった」
ゆずが言う方向に向けて、俺達は歩き出した。
それから歩くこと一時間程。
「す、すみません。お手洗い行ってきます」
そう言って、再びゆずが森の中へ姿を消す。だが、しばらくしても帰ってこない。
「遅せえな。今日のあいつ、なんか変じゃねえか? 前より少し明るすぎるっつーかよ」
リーゼントが首を傾げる。
「ゆずは今、初日に会った宝華院家の男と会ってるみたいだな」
「なっ⁉ どういうことだ? 俺達を……裏切ったってことかよ!」
リーゼントが叫んだ。
ゆずは草木をかき分け、陸を探す。
(確か不測の事態には、ここにある大岩に来いって言われていたはず……)
ゆずは道弥達と数百メートル離れた大岩を目指していた。
「おい、当日は会わない手はずだったはず。ばれたらどうするつもりだ?」
ようやく見つけた大岩には不快そうに陸が腰かけていた。
「ご、ごめんなさい……」
「まあいい。何かあったのか?」
陸の問いかけに、ゆずはしばらく悩んだ後に口を開く。
「あの……や、辞めませんか?」
「ああ?」
その言葉を聞いた陸の顔が般若の如き顔に変わる。
「陸様の実力ならご自身の力で合格できるはずです。なにもこんなことをされなくても……」
「てめえ如きが俺に意見すんの? 合格なんて余裕に決まってんだろ? 狙うのは圧倒的一位だ。二位じゃ意味ねえんだよ。てめえは黙って連れてこりゃいいんだ!」
陸がゆずの胸倉を無理やり掴み、持ち上げる。
「む、無理です……。私には裏切れません」
「ああ? ほだされたか? てめえ、俺に逆らうってことはこれからは宝華院家全体を敵にするってことだぞ? お前の母の治療費は本家への借金だろうが。母を捨てるってのか?」
「お金は必ず働いて返します。だから!」
「てめえみたいな雑魚陰陽師がなに勘違いしてんだ? 芦屋の近くに居て、強くなったつもりか? 勘違いしやがって。中鬼、ぶん殴れ」
陸はそう言うと、四級妖怪である中鬼を召喚する。
太いこん棒を持ち、体は鍛え上げられおり人とは比べものにはならない。膨れ上がった筋肉は、人間など簡単に殺せそうだ。
「やめっ――」
次の瞬間、中鬼の拳がゆずの柔らかい腹部に突き刺さる。
骨が折れる鈍い音と共に、ゆずは近くの木に叩きつけられた。
「雑魚が勘違いするからこうなるんだよ。仕方ねえ、この馬鹿を使って結界の場所まで芦屋をおびき寄せるか。流石のあいつもチームの女が捕まってりゃくるだろ」
陸はゆずの持つ白勾玉を取るためにゆずに近づく。
すると、コムギが自らの意思で顕現し、陸に襲い掛かった。
「中鬼」
陸の言葉で、中鬼がこん棒でコムギを殴り飛ばす。
「キャイン!」
コムギが鳴き声と共に、何メートルも吹き飛ばされた。
「コムギ!? に、逃げて……!」
ゆずは蹲りながらも、声を振り絞る。
コムギはぴくぴくと痙攣しながら、倒れていた。
「中鬼、とどめをさせ」
陸の言葉を聞き、中鬼がコムギの元へ歩く。
コムギは血塗れで震える体を無理やり起こすと、そのまま中鬼とは逆方向に走り出した。
陸は一瞬ぽかんとした後、笑い出す。
「ハハハハハ! 犬にも見捨てられてんじゃねえか! こりゃあ芦屋も来ねえかもしれねえなあ。まだ全員そろってねえが、始めるか」
陸はゆずの髪の毛を掴み、無理やり引き摺りながら歩む。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます