第22話 二度と汚ねえ面みせるんじゃねえぞ?

怯える鉄平に追い打ちをかけるように俺は印を結ぶと、呪を唱える。


木行もくぎょうもく縛り」


 俺の言霊と共に、地面から勢いよく木が生え鉄平に絡みつく。

 少しずつ締め付ける力は強くなり、遂に鉄平を右足を砕く。


「がああああっ!」


 叫ぶ鉄平の口に轡くつわをはめる様に木が巻き付く。


「しー、静かに。人が来ちゃうだろ?」


 俺は口元に人差し指を当て、静かにするように伝える。

 怯えた顔で暴れる鉄平を更に締めつける。鉄平の全身が、めしめしと音を立てる。


「そろそろさよならだな」


 俺の言葉を聞いて、鉄平の顔が真っ青に変わる。


「最後の言葉を聞いてやろう」


 俺が口に巻き付いた木を外す。


「た、助けて下さい……。全て言う通りにしますので、命だけは……」


 すっかり怯えた顔で懇願する。

 俺は顔を鉄平に近づけるとその頭を掴む。


「てめえ、二度と汚ねえ面みせるんじゃねえぞ? お前の罪を正直に、陰陽師協会に告げろ。逃げたら……分かるな? 後、俺のことは誰にも喋るなよ? まあ、六歳にやられたと言っても誰も信じないとは思うがな」


 鉄平は首を何度も、上下に振る。

 俺は頭を放すと、鉄平から離れた。

 鉄平から少し距離が開いたとき、俺は振り向く。


「俺も一つだけ、お前に同意できることがある。式神は、暗殺にぴったりだよな。証拠も残らない。お前が死んだとして、六歳の俺は疑われるかな?」


 俺の言葉を聞いた鉄平の顔が死人のように真っ白になった。


「一体何者なんだ……」


「お前が侮った、芦屋家だ」


 俺はそう告げると、その場を去った。

 家に戻ると、母の書置きがあった。父の入院している病院に向かったらしい。

 病院は割と近かったので、そのまま病院に向かう。

 大きな病院の大部屋のベッドで、父は横たわっていた。

 だが、その顔を見るにどうやら大丈夫そうだ。俺の姿を見ると、体を起こして笑った。


「道弥! すまないな。妖怪にやられてしまったよ。偶然近くを通りかかった道弥の友達が、救急車を呼んでくれて助かったんだ。また、道弥からも礼を言っておいてくれ」


「そっか。また言っておくよ」


「だが、不思議なことに、助けが来た時には既に妖怪は居なかったらしい。他に目撃情報も出ていないらしいし、どういうことなんだろうか?」


 父はそう言って、首を傾げた。


「通りすがりの陰陽師が倒したんじゃない? 大怪我なんだから、しばらく休んでて」


 俺は父を無理やりベッドに寝かせる。


「……母さんにも叱られたよ。もう辞めたらどうですか、ってさ。道弥はどう思う?」


 珍しく父が弱気で尋ねてきた。


「父さんが好きなように。たった一度の人生ですから」


 俺の言葉を聞き、父は笑う。


「そうだな! まるで大人のようなことを言うな、道弥は。まだ、陰陽師で居たいんだ俺は。こんな目にあってもな。懲りない大人と言う奴だ」


「まだ陰陽師について教えてもらわないといけないから、元気でいてよ」


「今回のような無理はしないさ」


 父は俺の頭を優しく撫でた。

 父が大丈夫なことを確認し病院から出ると、すぐそばの木の下に夜月が立っていた。


「本当に何も伝えないのか?」


 俺が父を助けたことだろう。


「知らなくてもいいことだ」


「せっかく道弥が頑張ったのに……」


「夜月が知ってくれているだろう? それに……後、十年後俺は陰陽師免許を取る。そうしたら、すぐだ。俺の名が全国に知れ渡るのはな。だから、なんの問題もない」


 俺の言葉を聞いた夜月が呆れた顔をする。


「凄い自信だな……呆れた」


「口だけじゃないから問題ない」


 俺ははっきりと言った。


「流石。では師匠。今日の訓練をお願いします。色々あってできなかったからな」


 夜月はからかうように笑う。


「仕方ないな。今日は五行の関係性について教えようか」


 俺は陰陽術について夜月に話す。

 子供からしたらつまらない話だろうに、夜月は笑顔で話を聞きながら頷く。

 彼女はいい陰陽師になる。

 夜月は今世において俺の初めての弟子となった。

 随分幼い、芦屋家でもない弟子だ。だが、この奇妙な師弟関係が嫌いではなかった。

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