第21話 契約破棄
落ち着け。
俺は沸騰するような怒りをなんとか押さえつける。
まだ、父は死んでいない。
「おい、お前が足蹴にしているのはうちの父だ。とっととその汚い足をどけろ」
俺は怒気を抑えられていない声色で雷獣に告げる。
雷獣は、俺のことを相手にもならないと判断したのか、その前足を上げると、父に向けて振り下ろす。
俺は父に向けて、護符を投げる。その護符から放たれた結界が、雷獣の一撃を受け止めた。
驚いた雷獣の動きが一瞬止まる。
その間に、俺は雷獣へ距離を詰める。
「失せろ」
俺は雷獣に向けて、手を一振りする。
雷獣はその一撃で粉々に消え去った。陰陽術すら必要ない圧倒的な力の差がそこにはあった。
「痴れ者が……お前如きが俺を倒せると思うとは」
俺は倒れた父に駆け寄る。
傷は深い……がすぐに死ぬことはなさそうだ。
「三級妖怪を一撃で……道弥、本当に何者なの?」
「ただの芦屋家だ。夜月、救急車を呼んでくれ。俺は少しここを離れる」
「どこに行くの?」
「ゴミの……処分だ」
俺はそう言って、ある男の元へ向かった。
鉄平は真っ青な顔で、自宅への道を歩いていた。どこか周囲を警戒しながら、人の居ない道を歩く。
「おい、父を見捨ててどこへ行くつもりだ?」
そんな鉄平に声をかける。
鉄平はびくりと一瞬体を震わせ、後ろを振り向く。
「だ、誰だ……? 父ということはお前は悠善のガキか! 見ていたのか。じゃあ、死んでもらうしかねえな」
鉄平は相手が子供と知ると、余裕そうな笑みを浮かべた。
「屑が……」
「勝てねえんだ。逃げることは何も悪いことじゃねえ。あのおっさんが弱いのに、正義感だけ強いからこうなったんだ。クソガキ、父の最後の姿は見れたか?」
「もう口を開くな」
「知ってるか、クソガキ。陰陽術ってのは暗殺にも向いているのさ。なぜなら、式神に殺させたら、証拠も残らねえからなあああ!」
そう言って、男は中鬼を召喚する。
霊力は全盛期の二割程度で、式神も居ない。昔とは程遠いな、今の俺は。だが、こんな雑魚相手なら、十分すぎる!
「お前ら親子の葬式にはちゃんと行ってやるよ! 殺せ!」
鉄平の叫びとともに、中鬼がこちらへ向かって走る。
俺はそんな中鬼に軽く触れる。
それと同時に、中鬼の姿は光の粒子となって消え去った。
鉄平は目の前で起こったことが理解できなかったのか、呆然としている。
「なっ⁉ 何がどうなってやがる! なぜ消えた。霊力は十分に足りていたはずだ。中鬼との繋がりが……感じられねえ!」
鉄平は、両手を見ながら叫ぶ。
陰陽師は自分の式神との繋がりを感じることができる。それにより、自分の式神が今、どういう状況か把握するのだ。
それが感じられない。それはすなわち、式神との契約が解除されたことを示している。
「契約が、解除されている……のか?」
震えた声を上げながら、俺を見つめる。
「どうした? 自慢の式神はもう終わりか?」
「偶然だ……! まだ式神は居る! いけ、小鬼、鬼火!」
そう言って、鉄平は小鬼と鬼火を召喚する。二匹とも、六級妖怪。戦力とは程遠い妖怪だ。
俺は襲ってくる二匹に軽く触れる。二匹は再び、粒子となって消えていった。
「で、出ねえ……! 契約破棄⁉ う、嘘だろ……戦闘中に契約破棄なんて……」
鉄平はすっかり怯えた顔に変わる。得体の知れない生物を見る顔だ。
陰陽師にとって、契約破棄は最も重い攻撃だった。信じる仲間との繋がりを断ち切られる。そしてなにより圧倒的な実力差がないとできない。
それは俺が圧倒的格上であることを示していた。
「う、嘘だ……芦屋家の、しかもガキに。俺が契約破棄されるなんて……」
鉄平は腰を抜かし、倒れこむと怯えた顔で後ずさる。
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