第16話 妖狸
(私が勝てるのか……? だが、戦うしかない!)
夜月は覚悟を決める。
一方、正体がばれたためか、妖狸は動揺していた。
妖狸。
狐と並んで有名な狸の妖怪である。
人をたぶらかしたり、化けて騙すと言われている。
狸の妖怪の強さは幅広く、六級程度から有名で強い妖狸となると一級並の強さを持つ。
強い念動力と化かす力を用いて敵を翻弄する。
「
夜月は自分が作成した護符を使い、今まで一番大きいバレーボールほどの火の玉を生み出し、放った。
夜月の渾身の一撃である。
だが、その一撃は妖狸の神通力により方向を変えられ違う方向に飛んで行った。
「嘘……」
夜月は呆然と呟いた。
夜月は敗北を覚悟する。
淡々と近づいてくる妖狸に涙が出そうになる。
「助けて、道弥!」
夜月はただ声を上げた。
「探したぞ、夜月」
雨の中現れたのは夜月の呼んだ、道弥だった。
夜月が消えたことに気付いた瞬間、俺は手持ちの人形ひとがたを全て鳩に変える。
陰陽師は人形を依代に、様々な生物を式神として生み出す。
これは擬人式神といい、紙や藁、草木でできた人形に霊力を込め作られた式神で、妖怪を調伏して使役する式神とは異なる。
放った鳩の視界から、周囲を捜索しすぐに夜月を補足し、夜月の元へ走った。
見つけた夜月は不安そうな顔で、妖狸相手に鬼火を放っていた。
「落ち着け、夜月」
「道弥、妖狸だ! しかも強いぞ」
パニックになった夜月がしがみついてくる。普段はしっかりしているが、まだ六歳だからかすっかり怯えている。
これは俺のミスだな。一瞬でも目を放したのが良くなかった。
俺の護符を持たせてあるから、たとえ三級妖怪が襲ってきても夜月に傷一つつけることはできないだろうが。
「大丈夫だ、この妖狸に悪意はない。そうだろう?」
俺の言葉に妖狸は頷く。
「けど、人間に化けて出てきたぞ?」
「おそらく人間の方が安心させられると思ったんだろう」
妖狸は再び頷くと、変化を解く。
そこには小さい狸の姿があった。
狸は手に小さな葉っぱを持っている。
狸はてくてくと歩くと、夜月に葉っぱを渡す。
「なにこれ?」
「おそらく怪我に効く葉っぱだな。足を怪我しているから、持ってきてくれたんじゃないか?」
その言葉に子狸は何度も頷く。まだ子狸だから人語を話せないのだ。
夜月は怪我した膝に葉っぱを当てる。すると、擦りぬいた膝が少し回復する。
夜月は子狸の優しさに喜んだあと、申し訳なさそうな顔をする。
「さっきはごめんなさい。思いっきり鬼火撃ってしまった……」
夜月は頭を下げる。
子狸はいいよいいよと、夜月の頭を撫でた。
「ありがとう!」
夜月は珍しくこぼれるような笑みを浮かべていた。
妖怪は人に仇なす妖怪も多いが、人と共存している妖怪もいる。
現在では高い知能を持ち、世間に順応した妖怪は戸籍をとって日本人として生活している妖怪も居るくらいだ。
「けど、これで妖怪は怖いことも分かっただろう?」
「ああ。私は少し調子に乗っていたんだと思う。ごめんなさい」
「良い返事だ。けど、俺も夜月から目を放してしまったから、そこはすまん。師匠としては失格だ」
「道弥、保護者みたい」
「今日は保護者としてきているんだよ。ほら、帰るぞ」
俺はそう言って、手を伸ばす。
夜月もその手を取った。
ちょうど雨も止んできた。そろそろ帰らないと、親も心配するだろう。
「狸さん、また来るね!」
夜月は子狸に手を振る。
子狸も小さい体で必死に手を振っていた。
こうして夜月の初めての妖怪退治は幕を閉じた。
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