お姫様抱っこ
茂由 茂子
筋トレ頑張るよ!
高校二年生になってから、僕にとっては勿体ないほどの素敵な彼女ができた。名前は
きっかけは席が隣になったことだった。僕が読んでいる本を指差して「これ、面白いよね。私も持ってる」と話しかけてくれた。そのうちに一緒に出掛けるようになり、付き合うようになったのだ。
「ねえ、ねえ。トシくん。私がちょっとだけ話してもいい?」
ある日の昼下がり。中庭の一角で一緒にお昼ご飯を食べているときだった。ビニールシートを敷いて気分はピクニックだ。そんな中、潤んだ瞳で僕を見つめる麗華ちゃん。完全にノックアウトです。
「うん。どうしたの?」
「あのね。私ね。お姫様抱っこに憧れてるんだあ。いつかトシくんにやってもらいたいなあ、なんて」
麗華ちゃんは「うふふ」と桃色の唇で笑った。お、お姫様抱っこだって!?お姫様抱っこだなんて……!目はにんまりと笑いながらも、口端をひくひくとさせた。
「お姫様抱っこ?」
「うんっ。ほら、すごく素敵じゃない?好きな人に軽々と持ち上げられたら。トシくんにひょいって抱きかかえられたら、想像しただけで胸の奥がきゅんってするもん」
きゅんって鳴ったのは僕の胸だ。そんなに言われちゃあ、麗華ちゃんをお姫様抱っこしないわけにはいかない。ちらりと自分の細腕を見る。自慢じゃないが、僕はこれまで運動をしてきていない。運動部に所属したこともないし、今のところもやしのような体つきだ。これじゃあ、麗華ちゃんを軽々とお姫様抱っこなんてできないことは明白だ。
麗華ちゃんに視線をやると、にこにこと期待の笑みを浮かべていた。彼女の笑顔を裏切るわけにはいかない。よし!!!今日から筋トレをしよう!!!麗華ちゃんをお姫様抱っこするために!!!
「麗華ちゃん!僕、頑張るよ!今日から筋トレ頑張って、麗華ちゃんを軽々とお姫様抱っこするために!!!」
僕は立ち上がった。そして拳を突き上げる。麗華ちゃんも「本当に!?」と声を弾ませながら立ち上がった。
「もちろん!麗華ちゃんのためなら頑張るさ!」
「嬉しい!!!」
うさぎのようにぴょんぴょんと跳ねながら、麗華ちゃんは僕に抱き着いた。
「れ、れいかちゃん……!」
「人が見てるから」と慌てる僕とは対照的に、麗華ちゃんはぎゅうっと僕を抱きしめる。
「待ってるからね。楽しみにしてるからね」
つぶらな瞳で見つめられれば、周りの人からどんな視線を浴びていようと関係なくなる。彼女のためなら頑張れる。その日の放課後、麗華ちゃんと一緒に本屋さんへと向かった。もちろん購入した本は「正しい筋トレの方法」だ。
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