タイムスリップしたら文房具王になり損ねる少女に出会った!?

ポソ

第1話 ガラスペンの世界

「有隣堂しか知らない世界〜。」


自分のタイトルコールで、いつもと変わらない収録が始まる。ミミズクなのにYouTuberになんかなれるわけない、なんて嫁には反対されたが、もう慣れたもんだ。

ブッコローという名前もそこそこ有名になってきていて、街を飛んでいると声をかけられるほどだ。


「今回のテーマはこちら!もっと知ってほしい!ガラスペンの世界〜。って!またガラスペンじゃないですか!?」


隣を見ると文房具王になり損ねた女こと、岡崎弘子が優しい笑顔を作りつつ、内容を間違えないようにと台本を確認しながら座っていた。


「はい。ガラスペンにはまだまだ伝えきれていない魅力がたくさんありますので、今回の動画でもっと好きな人を増やしたいと思います。」


机の上にはこれから紹介するであろう、色とりどりのガラスペンが綺麗に並べられている。


「いやいやいやいや、いくらガラスペンの動画が再生数多くても、何度もやっちゃダメでしょ〜。岡崎さん、ネタ切れってことなんじゃないですか??」


「えぇ〜違いますよ。今日はですね、ブッコローに手紙を書いてもらおうと思いまして、いくつかガラスペンを用意しました。」


そう言って岡崎さんは返事を待つこともなく、インクや便箋をいそいそと机に並べ出した。


「え〜、俺が手紙を書くんですか?

いや、書かないっすよ。だって思ったことがあれば直接伝える派なんでぇ〜。」


そんな素っ気ない回答に、岡崎さんの表情が曇ったのがよくわかった。

そして何もわかっていないのね、と言わんばかりの困った生徒をみる教師のように優しく微笑む。


「わかってないです。手紙は思いを伝える宝箱なんですよ!」


「いや、宝箱って彦摩呂さんじゃないんですから。文房具界の宝石箱やぁ〜ってことっすか?」


冗談半分に言ってみたが、岡崎さんの目は真剣そのものであった。


「 手紙の一文字一文字には、書いた人の気持ちが詰まっているんです。

綺麗な文字だから真剣に書いてくれたんだろうなぁとか、いろんな色を使って楽しませてくれてるとか、文字を途中で間違えて毛虫の落書きが入ってたりとか。 」


視線をガラスペンへと移し、ふぅと息をついた。


「そんな全てが愛しくて、素敵なんです。」


岡崎さんは少し遠くを見るように呟いた。

この人は本当に文房具が好きなんだなぁ。

そんなに好きなものがあるなんて、羨ましい限りだ。


「そういうもんですかねぇ〜。」


「ブッコローは気持ちを伝えたい相手とかいないんですか??」


「明日、競馬の皐月賞っていう大会の日なんですよぉ。どうせ勝てないんで主催者に中止にしてくれって伝えたいです。」


これは本音だ。どんなに負け続けようと、自分からはやめるつもりは毛頭ない。だからこそ伝えたい。中止にしてくれと。


「はは。。じゃあやめたらいいのに。」


予想の斜め上、いや、斜め下?の回答に岡崎さんはがっくりと肩を落としたのが見えた。


「とにかく!こちらのガラスペンで書いてみましょう。内容はなんでも大丈夫です。」


その手には緑色に輝くガラスペンがあった。

一見、よくあるガラスペンのようだが、所々に細かな気泡のような物が入っていて、黄色や青色になって光を反射する。きっと良いものなのだろう。


「このガラスペンにはですね、名前が付いてるんですよ。」


「え?岡崎さん、とうとう文房具に名前付け出してるんですか?

やべぇ女じゃないですか。」


「違いますよ。ガラスペンの作者さんが付けているんです。こちらのガラスペンはですね、『少女の夢』という作品名なんです。」


「少女の夢!オシャレですね。

ただ、知らないおっさんが、付けていると思うと気持ち悪いっすね。」


スタッフから笑いが漏れる。

ガラスペンを受け取ると、身体中が毛羽立つのを感じた。

これは何かやばいんじゃないか?


「光にかざしてみてください。とっても綺麗なんですよ。」


少し違和感を覚えながらも、岡崎さんの言う通りにガラスペンを天井の蛍光灯に重ねた。



その時だった。



ガラスペンは異様な輝きを放った。


視界は緑の光で埋め尽くされ、体が浮くような感覚が襲う。


やばいと思った時には意識は遠くなり、岡崎さんの呼ぶ声がだんだんと小さくなることだけがわかった。



あれ、なにこれ?

おれ、死んじゃうの??






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一瞬だったのか、長い時間が経ったのもわからない。

遠くで声が聞こえる。

自分に話しかけている。



そっか。収録中に倒れてしまったんだ。

スタジオで意識を失ったから、きっと心配しているんだろう。



その声はだんだんとはっきり聞こえるようになってきた。

だが、あまり聞き覚えのない声だ。

知っているような、知らないような。



「鳥さん、大丈夫??」



ゆっくり目蓋を開けると、そこには女の子がいた。小学生くらいかな??



まだ、頭が朦朧としているのだろうか。

その姿を見て、全く似ても似つかない名前が頭に浮かんだのだから。




「 ... 岡崎さん? 」

























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