チカラコブが羨ましい

花月夜れん

だって、何だか悔しかったんだもの

 私の筋肉ぱわーはゼロに等しい。

 不破瞳ふわひとみ高校三年の夏。彼氏の江田遥輝えだはるきと二人でいるときに自覚させられた。

 遥輝の力こぶを見て、すごいなと思った。そして、負けじと私も力こぶを作った。

 ぽよんとした小さな小さな山が出来た。やった、私にも少しは筋肉ぱわーがっ!

 だけど、遥輝が無情にもその小さな山をぷにぷにと揉んできた。


「おぉー、ぷにぷに柔らか。可愛いなぁー!!」


 私はこの日、決めた。見返してやる!!と。

 腕立て、腹筋背筋、スクワット。筋肉全体を鍛える。腕だけじゃ駄目だ。

 一ヶ月、少しは鍛えられただろうか。

 自分で力こぶを作って確かめた。ぷにぷにだった。

 二ヶ月、だいぶ鍛えられたんじゃないだろうか。

 ぷにぷにだった。


 遥輝に途中何度も何度も変わった? 何かあったの? と確かめられた。

 少しずつでも変わっていると思いたい。


「ひーちゃん。せっかくの可愛いぷにぷにが何だかだんだんかたくなってるよ!?」

「ほんと!! やったー!!」


 成果が出てきた。嬉しい。もっともっと頑張ろうと思ったのに遥輝は嫌そうな顔になっていた。


「僕は柔らかいひーちゃんがいいのになぁ」


 むっとなる。せっかく筋肉ぱわーがついてきたのにカッコいいって思ってくれないのかぁ。


「じゃあ、ぷにぷにの彼女を作ればいいじゃない。私は筋肉ぱわーをわかってくれる人を見つけるわ!!」

「ちょっ、それほど!?」


 遥輝ががくっと首をさげ、ため息をついた。


「わかった」


 私、なんて事を言ってしまったんだろう。それに、わかったって……。もしかして、本当に。


「僕はひーちゃんが好きだから、応援する」


 え?


「全力で甘やかしてぷにぷにに戻す」

「な、なんで!?」

「僕の甘やかしに負けるようなら、筋肉つけるなんて無理だと思うよ」

「……負けないもん」


 一体私は何にムキになってるんだろう。

 私はこの日から遥輝に甘やかされ(手作りお菓子の波状攻撃)、――無事負けてしまった。

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チカラコブが羨ましい 花月夜れん @kumizurenka

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