作者が自分の世界にトリップしたので生き返るために最高のハッピーエンドを目指す事になりました!!
華創使梨
イレギュラーと希望の始まり。
私も中学生からコツコツ書いてきて今や作家。The普通を極め、凡人の行ける限りの極地まで来たろう。売れない訳でもなく、爆発的ヒットでもないひたすら普通。
ただの面倒くさがり。
だからつい、油断していた。
朝の混みあった電車、ぎゅうぎゅうのホーム。私のこれから乗る電車が近づいて来た時、転んだ誰かが私を押して体感などまるで無い私はそのまま黄色い線の外側へ投げ出された。
「あ」
気づいた時には、電車が目の前にあった。
私の人生はここで呆気なく終わった。はずだ…
「ぎゃァァァァ!!」
何故、私は落ちている!標高1万m辺りに私の体はある。
「説明しよう!」
「ぎゃあ!誰!」
隣にピンク髪の明るくて可愛らしい風貌のバニーガールが居た。普通のバニーガールの服よりも腹が出ていて、生足で確実に布面積が少ない。陰キャで喪女な私には絶対に着れない代物だ。
「どーもパニエです。アスカさん」
「誰ソレ!」
「貴女の仮の名前です!そしてこの世界は貴女の生み出した作品の中です!」
「はぁ?!どの作品だよ!」
「ストレインシリーズです!」
「一番入りたくない世界すぎる!」
先に説明しとくが、魔法と異常と呼ばれる超人的能力が混在する世界で記憶がかけた軍人の主人公が魔女共に記憶の欠片を探しながら問題や任務をこなしていく話だ。貧富の差とか人間の汚さとか結構しっかり書いている上に物語序盤はつい最近まで戦争してた。
「私は許せません!どうしてガルくんがあんな結末になるんですか?!私はあんな結末認めません!」
「知るか!そういう話だ!そもそも!ガル達の話は公表してないぞ!」
「それは神パワーです!」
「最悪だ!!」
「では」コホン、と可愛らしい咳払いをして、長くて可愛らしい髪をなびかせながら私をじっと見る。
「アスカさん、あの悲しい終わりをハッピーエンドに変えて下さい!それが貴女に対するお仕事です!」
「はぁ?!」
ほかの木々と同じぐらいの高さまで落ちたあたりで体が無重力になった様にふわりと浮いた。
「ハッピーエンドにする事。貴女の悲劇で捨てた物語を喜劇に書き換えて下さい」
地面に下ろされ、パニエと名乗ったバニーガールを見る。その表情は可愛らしい少女と言うより、慈愛のある女性の様だ。
「…それしたらどうなる?」
「時間を戻して生き返らせてあげます。本来のイレギュラーな死は矯正され、普通の日々に戻ります」
イレギュラーだったんかい。
「ホントに?」
「はい。保証します。第六天使、パニエの名にかけて」
「…はぁ、分かった。元々書き直す気でいたしね。生き返る為なら条件飲んでやろうじゃない」
「ホントですか!私は楽しみにしてますね!で…イテテ!」
私はパニエのうさ耳を引っ張って
「何帰ろうとしてんのよ。ほら、転生者にはギフトがあるのがお約束だろ。よこせ」
「ひぃぃ!なんでも…」
「早く」
「は、はい」そう言ってバニー服の溢れそうな胸から出てきたのは小さなペリドット
「それを飲んで下さい」
谷間から出てきた…
「もぐ…何も起こらないけど?」
「それはスキル…この世界では異常と呼ばれるんでしたね。それを付与しました。能力は綴る者(デウスマキナ)。物語を書き換える能力です」
「メタな能力…」
「んじゃ、頑張ってください!」
「まっ…」止める間も無く消えてしまった。パニエと名乗ったバニーガールはどうやら本当に超常現象的存在なんだろう。
「て事は本当に小説の中…ヤレヤレ」
出来れば悪い夢であって欲しいが…そうでは無さそうだ。
その証拠に、今私の首筋には、のたれ波紋の刀があてがわれている。
「気配なく来るのはどうかと思うよ?」
「黙れ」
低温火傷しそうなほど冷たい声に私は背骨を震わせた。意外と私は優しい声をしてるのかもしれない。そう思ってしまう。チラッと後ろを顔を見ると、本作主人公。ガル君だ。純タンザナイトの青い瞳にシリコン人形の様な透明な肌。夜の海より真っ黒なさらさらな荒い長めのくびれショートの黒髪。深緑の軍服に金色の飾緒、紋章バッチ。軍服には赤い差し色がありまあまあまゃれている。身長も高く、一般女性の身長である私の頭二個分は大きい。威圧的で、普通の私じゃ震え上がっちゃうね。
「は、話し合おう。私はアスカ、一般人だよ?何の能力も無いよ」
出来る限り刺激激しないように、笑顔で振り返る。
「アスカ、何故一般人が立ち入り禁止区域に何故いる」
立ち入り禁止区域?!なんて所に下ろしてくれたんだあのウサギ!
「そ…それは…そう!たまたま迷ってしまって…」
「…」
ガルは冷静に私の首から刀の刃先を離す。私は安心して大きく息を吐いた時、胸に置いた手が落ちた。
「は」
滝のように溢れ出る手首に私の思考は止まった。
「う、うあああぁぁぁぁ!!手!!手がっ!!」
恐怖心と動揺でその場に蹲った時、パニエの明るい声が頭に響いた
(アスカさーん!言い忘れてました!貴女の異常、綴る者(デウスマキナ)は現状を文字化して書き換える能力です!使い方は頭に文字を思い浮かべて、口に出して読んでください!)
「そ、そんな状況じゃ!」
(貴方の体に痛みはありませんよ!)
「手が!!手がっ!!死んじゃう!!」
(落ち着いて。貴方の腕は痛くありません。体だってあまり血の消耗をしてないはずで…)
サクリ。ガルの青みがかった刀の歯が胸を刺し貫いた。ごぼっと逆流した血が喉遠くからせり上がり、唇から溢れ出る。
「手を切り落としただけでは死なない。こういう風にトドメを刺さなければな」
ガルは冷静に冷たく言う。ガルからしたら私の処分なんて仕事の内だ。感情を一切動かしていない。それが彼の生きるすべであり、そうでなくては生きていけないからだ。だから彼には若いながらに実力がある。
「ゴホッ…我ながら…ヤバい世界観だこと…」
けれど刺されたことで変に冷静になった。衝撃の上に衝撃が重なれば冷静になるのか…いいこと知った。
頭の中に文字を思い浮かべ、言葉に出す。
「離れろ!」
ガルはなにか見えない物に殴り飛ばされ、地面に転がった。
「ッ…なんだ?どういう事だ?」
「やった…成功した!勝ち方がどっかの呪言師見たいだけど!!成功した!ふ〜ゴフッ」
血を吐いて無いはずの痛みに悶える。
(怪我治して無かった…忘れてた…)
「怪我治れ。手戻れ」
胸の熱い感覚は消え手首から組上がるように手の形がなされて行く。
(おめでとうございます!アスカさん!今はこの世界に体が馴染んでなくて本領発揮出来ませんが、いずれは世界の理を塗り替えるほどの力に成長しますよ!)
と、パニエの声が聞こえた。
「謎のゲーム式…まぁいいや。ガル!止まれ」
「ッ…動けない。俺に何をした」
這いつくばった状態のガルの前に膝を下ろした
(この状態でも反骨精神見せてくるとは…さすが軍人エリート)
「交渉だ。君は私に危害を加えない。攻撃しない。そう約束したらそれを解いてあげる」
「…。俺に利益がない。引き受けられない」
「いや、ある。君に確実な利益…君の記憶を蘇らせる手伝いができる」
「なぜ知っている。俺の記憶が無い事はヘレナにしか…」
「知ってるさ。君が心無き哀れな氷の軍人。そんな君が不器用に頑張る姿を書きたかったんだ。ま、ハッピーエンドがいいってオーダーが来ちゃったけどね」
「?何の話だ」
「こっちの話。君の記憶を確実に引き出す事が私には出来る。その代わり…私の衣食住と攻撃しないって約束して」
「…」
「…」
お互いの視線がぶつかり会う。
「は?要求が増えている。どれか無くせ」
「嫌だ!これだけ協力するんだから、私も恩恵を受けるべきだ!衣食住はしっかり欲しい…あ!君の家に居候したら万事解決じゃん?どう?」
「どう?じゃない。何一つ解決していない。この場で決めるには要求が多すぎるし、割に合わない。記憶がかけているなんて、もう諦めている。だからもう掘り返すな。もう…考えたくないんだ」
「それはダメだよ。考えなくちゃいけない。それがあの魔女との約束だから。それに、君にとって、その記憶は最も大事なものだよ。君の掛けたものを埋めるには確実に必要なピースだ」
「なら今教えれば済…」
「ダメだよ」
自分の地を這うような低い声がガルに向けられる。
「確かに確実に必要なものだ。でも、ほかのピースが揃ってない。何より…ガル自身が気づかなくちゃ行けないものだから」
「…」
ガルは大きく目を見開きて呆然としたような顔で私の話を聞く。私は彼の頬に手を置いて
「君は私に安全を提供して、私は君がハッピーエンドになる手伝いをする。こう考えれば、釣り合っているだろ?」
ガル瞳の中である女性と重なった。二度と会えないと分かりきっている彼女。大切なはずなのに名前が出て来ない彼女。その面影に縋るように、あるいは振り払う様に、大きく息を吐いて
「はぁ…分かった。交渉成立だ。お前は俺に確実に前に進む方法を教えろ。いいな?」
「ホント?絶対だよ!約束守ってくれる?騙し討ちとかしない?」
「今は確実に何もしない」
「やったーーー!!やばぁ、嬉しすぎて涙が…ありがとう!ガル!」
「早く外してくれ。そろそろ起き上がりたい…」
「…」
「…」
「…」
「外し方分からないとか言うなよ」
「正解その通り!」
「…やっぱり死にたいか?」
「ごめんじゃん!パ、パニエ!パニエー!」
(はい!何でしょうか?)
「外し方どうするの?」
(簡単ですよ。指パッチンとか、能力解除とか思えばいいんです!)
意外と簡単。私は指パッチンを鳴らして
「能力解除!…どう?解けた?」
「嗚呼」ガルは立ち上がりながら手袋をはめ直して軍服に着いた土を払う。
「とりあえず…帝国まで来い。詳しい話はそれからだ」
「へ?話す事ある」
「沢山な」
前を歩こうとするガルを呼び止め、私は手を差し出した。
「改めて、私はアスカ。これから色々よろしく。ガル君」
嫌そうに私の手を見つめたあと、握り
「帝国軍第六部隊隊長、ガルーラ・クチサイト。よろしく頼む。アスカ」
「アイ!よろしく!」
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