第154話 クラン
冒険者ギルドに入った後、多くの冒険者たちの視線を集めながら俺たちは受付へと向かっていく。
「すみません。シーラさんはいますか?」
「シーラですか?すみませんが、ギルドカードの提示をお願いします」
「わかりました」
俺はそう言ってギルドカードを女性に見せると、彼女は少し驚いた様子を見せてから奥へと入って行った。
「ルイス様。お久しぶりです」
「お久しぶりです、シーラさん」
シーラさんは慌てた様子で駆け寄ってくると、笑顔で俺に話しかけてきた。
「まさか、こんなに早くいらっしゃるとは思いませんでした。学園の方はどうですか?」
「普通ですね。ただ、今後は時間に余裕もできたので、もう少し頻繁にここにくると思います」
「それはよかったです!それで、今日はどうされたのですか?フィエラさんたちはいらっしゃらないようですし、ミリアさんともう1人の方はどなたですか?」
「今日は2人の冒険者登録をお願いしにきました」
「お久しぶりです。シーラさん。お元気そうで何よりです」
「はじめまして。あたしはソニアです。ルイスと同じ学園に通ってます」
「お久しぶりですね、ミリアさん。それと、ソニアさんですね。私はルイス様の担当受付嬢のシーラです。よろしくお願いしますね!」
シーラは彼女が公爵家の屋敷にいた時にミリアと知り合っており、シーラの身の回りの世話をしていたのがミリアだったので、その時に仲良くなっていた。
「それで、本日はミリアさんとソニアさんの冒険者登録でしたね。ルイス様と同じパーティーで登録されますか?」
「いえ。2人は個人でお願いします」
「え、個人でですか?ルイス様がお連れになったので、てっきり新しいパーティーメンバーかと思ったのですが」
「違います。この2人は今後は個人で活動、または他とパーティーを組んで活動する予定なので、そのように手続きをお願いします」
これは冒険者ギルドに来る前に話し合って決めたことで、現在俺とフィエラのランクがSランクでシュヴィーナがAランクだが、今後はシュヴィーナのランクを一つ上げた後、Sランクダンジョンに挑戦するつもりだ。
しかし、そこに冒険者になりたてのソニアとミリアが加われば、彼女らはダンジョンに入ることもできないし、かといって彼女らのランクを上げるのにも時間が掛かる。
確かにソニアの魔法技術は優秀だし、ミリアの薬草学と諜報技術があればダンジョンの攻略も楽に進めるかもしれないが、今から彼女たちのランク上げに付き合うのは正直言って面倒なのだ。
「皆さんが同意なさっているのならわかりました。では、手続きは私の方で行わせて貰いますので、ソニアさんとミリアさんはこちらの用紙に必要事項の記入をお願いします」
シーラがテーブルの上に用紙を2枚置くと、ソニアとミリアはそれぞれ用紙に記入をしていく。
「書きました」
「あたしもです」
「はい。確認しますね……問題ありません。では、ギルドカードをお作りいたしますので、少々お待ちください」
用紙を持ったシーラが奥へと入っていくと、しばらくして2枚のギルドカードを持って戻ってくる。
「お待たせしました。こちらがソニアさんとミリアさんのギルドカードになります。お二人は今回が初めての登録になりますので、Fランクからのスタートとなります。
Fランクの依頼は薬草採取や街の掃除、あとは孤児院のお手伝いなど簡単なものがメインです。依頼は入り口から入って右側にある依頼掲示板に貼ってあるので、興味のあるものがあれば依頼書を受付まで持ってきてください。
また、シュゼット帝国学園の生徒限定にはなりますが、学園内にあるダンジョンで手に入るアイテムを納品してもらう依頼もありますので、そちらを受けてみるのもいいと思いますよ」
学園内にあるダンジョンは非常に珍しい作りをしており、通常のダンジョンはDランク冒険者以上の実力者向けに作られているのに対し、学園のダンジョンは浅い層はFランク向けで、深い層に向かうにつれてランクが上がっていく作りになっている。
(まるで、主人公を強くするために存在しているみたいだよな)
ダンジョンの作りが主人公であるシュードを育成するための場所のような感じもするが、そのダンジョンでは冒険者になりたての生徒たちでも例外として挑戦することができるため、実績や経験を積むために多くの生徒たちがいつも挑戦している。
そして、そのダンジョンでは浅い層でも稀にアイテムがドロップするため、学費を稼ぐ必要のある平民たちを手助けする意味も含め、学園とギルドが協力してアイテムの買取と特殊依頼を出しているのだ。
「ここまでで何か質問はありますか?」
「あたしはありません」
「私も大丈夫です」
「よかったです。私はルイス様たちの担当をしているので、お二人を専門的にお手伝いすることはできませんが、手が空いている時にはサポートさせてもらいますので、お気軽にお声がけくださいね!」
それからしばらくの間、俺はシーラと今後の予定について軽く話し合うと、ここでの予定も終わったので帰ろうと思い振り返る。
「はぁ。さてと、ゴミの掃除でもするか」
「ゴミ?何を言ってるの?」
「ルイス様。よろしければ私が片付けましょうか?」
俺の発言にソニアは意味が分からないといった様子で見てくるが、ミリアは俺の言葉をすぐに理解すると、袖口から短剣を取ろうとする。
「ミリア。最初に武器を抜けばこっちに非があるとみなされるから抜くなよ。抜くにしても、相手が武器を構えたからだ」
「かしこまりました」
ミリアを軽く嗜め、俺はこの後の展開に辟易しながら歩き出すと、案の定ガラの悪そうな冒険者の1人が足をかけようと態とらしく足を伸ばしてくる。
(めんどくせ。思い切り踏んでやるか)
「いっでぇぇぇええ!!!」
分かりきっていた展開だとはいえ、イラつくものはイラつくし、面倒なものは面倒なため、憂さ晴らしの意味も込めて強めに足を踏んでやったら、男は馬鹿みたいに喚き始めた。
「なにすんだガキ!」
「ん?何のことだ?」
「てめぇ!俺の足を踏んだだろ!!」
「足?あぁ、短くて気づかなかった。踏んだのなら悪かったな」
俺は相手を怒らせるために敢えて煽るようにそう言うと、沸点の低い男は腰の剣に手をかけて睨んできた。
「クソガキ。俺が誰か分かってんのか?」
「知らんよ。逆に聞くが、今日初めて会った俺をお前は知ってるのか?知ってたら気持ち悪いから詰所に自首してくれないか。男にストーカーされるのはキモすぎる」
「クソが!舐めやがって!俺はSSランクのクラン、黒獅子の断罪のメンバーだぞ!!」
「黒獅子の断罪?」
クランとは、冒険者が大人数でパーティーを組んだ一つの組織であり、パーティーが5人から6人で組むのに対し、クランは15人以上の冒険者が集まったものをいう。
クランを組むメリットは様々あり、例えば実力のあるクランであれば新しく見つかったダンジョンに最初に挑戦する権利が与えられたり、冒険者ギルドからの手厚いサポートや高ランクの依頼を優先的に紹介してもらえたりもする。
しかし、メリットがたくさんある分、制限もいくつかあり、例えばクランを作る時は最低でもSランク冒険者が1人とAランク冒険者が4人必要とされているのだ。
そして、このクランにもパーティーランクと同様にランクが存在しており、ランクはBランクからSSSランクまであるが、この男の言う黒獅子の断罪というクランが本当にSSランクならば、かなりの強者が集まったクランだと言えるだろう。
「まさか知らないなんて言わせねぇぞ!」
「ふむ。知らんな」
クランというものが存在していること自体は知っていたが、実際にどんなクランが存在するのかなどは興味がなく、もちろん黒獅子の断罪なんて名前のクランも聞いたことがなかった。
「はっ!黒獅子の断罪をしらねぇとは、とんだ世間知らずだな!!俺がその恐ろしさを教えてやるぜ!!」
男はそう言って剣を抜くと、ギルド内だというのに剣を上段に構えて振り下ろそうとする。
「あぁ??なんだ?」
しかし、その剣が俺に振り下ろされることはなく、後ろに突然現れた男の手によって刀身を鷲掴みにされると、ピクリとも動くことはなかった。
「お前か?うちのクランの名前を使って調子に乗ってるってゴミは?」
男は黒い髪に黄色い瞳をした大男で、身長は約2m半ほどで前髪を上げたオールバックに獣のように細い瞳孔。さらには胸元が開けた黒い服からは溢れんばかりの筋肉が強い主張をしており、その姿はまるで黒い獅子のようだった。
「げっ!?オルガ?!!」
「ほぉ?クランの人間じゃなくても俺のことは知ってるようだな」
「い、いや、俺は黒獅子の名を使ってなんて」
「ふーん?俺の聞き間違えか?どうなんだ?」
オルガと呼ばれた男はそう言って俺のことを見ると、分かりきった答えを敢えて俺に尋ねてくる。
「そいつはお前の部下じゃないのか?さっき黒獅子の断罪と言っていたが?」
「だ、そうだが。生憎と俺のクランにこんなゴミはいなかったと思うが…なぁ、お前はどう思う?」
自分のクラン名を勝手に使われたことが気に食わなかったのか、オルガは握っていた剣をそのまま握り砕くと、絡んできた男の顔は恐怖一色に染まる。
「ひっ!?い、いや、それは…」
「ライ」
「お呼びですか」
オルガがライという名を呼んだ瞬間、どこからともなくローブを深く被った男が現れ、オルガの後ろに控える。
「このゴミの処理を任せる。俺のクランの名を勝手に使ったんだ、相応の報いは受けてもらう」
「かしこまりました」
ライは泣き叫ぶ男の襟を掴むと一瞬のうちに姿を消し、この場には俺たちとオルガ、そしてそんな俺らの様子を窺う他の冒険者たちとギルド職員だけが残った。
「俺はオルガだ。お前は?」
「俺はエイル」
「ふむ。エイルか。少し俺と話そうぜ」
「あぁ。俺もあんたを見た瞬間、話したいと思ってたんだ」
「はっはっは!そうかよ!俺ら気が合いそうだな。ここじゃなんだし、奥に行こうか」
オルガはそう言って慣れた様子で受付嬢から談話室を借りると、俺たちについてくるよう目で合図をする。
「俺たちも行くぞ」
「わかったわ」
「かしこまりました」
俺は少し警戒しているソニアとミリアに声をかけると、先ほどの獰猛さが嘘のようにご機嫌なオルガに続き、談話室へと向かっていくのであった。
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