第133話 お昼
アイリスが自分の席へと座ると、それから少しして教師たちが教室へと入ってきた。
「皆さん初めまして。今回はシュゼット帝国学園の入学試験を受けてくださり感謝いたします。では早速ですが、まずは筆記試験の注意事項についてご説明いたします」
教壇に立った初老の男性教師はそう言うと、魔法でチョークを浮かせて注意事項を書いていく。
「試験時間は二時間で、途中退出は認められません。仮に早く終わった場合でも、席から立たないようお願いいたします。
また、この教室には不正がないよう魔法封印が施されております。魔道具型の時計をお持ちの方は、同様に使用ができなくなるので、時間の確認は正面にある時計で確認をお願いします。万が一、試験の最中に不正が確認された場合には、その時点で不合格となり他の試験も受けることはできなくなります。
最後に、途中で気分が悪くなったり体調が悪くなった場合にはすぐに手をあげてください。私たち教師がその場へと向かい対応させていただきます。ここまでの内容で質問のある方は?……いないようなので、問題用紙を配った後、答案用紙をお配りします。皆さんは席から動かないようにお願いします」
教師が説明を終えると、そばにいた他の2人が魔法で問題用紙と解答用紙をそれぞれの机へと配り、教壇に立った教師が全員に配り終えたのを確認する。
「では、これより試験を開始します。皆さんが全力を出せることを願っています。では、始めてください」
教師の開始の言葉を合図に、俺を含めた全員がペンを手に取り問題を解いていく。
(はぁ。いつも同じ問題ばかりで飽きるな)
周りを見れば、見慣れたやつらが得意気にペンを動かしていたり、問題が分からず苦悶の表情を浮かべていたりと、こちらもいつもと変わった様子は無かった。
(さっさと終わらせよう)
俺は何度も解いてきた問題に改めて目を向けると、満点を取らない程度に問題を解き、20分ほどで終わらせると眠りにつくのであった。
「そこまで。皆さんペンを置いてください」
教師の声で目を覚ました俺は、周りがペンを置くのに合わせて体を起こす。
「では、問題用紙と解答用紙を回収いたします」
紙がまた宙へと浮かぶと、それらは教壇にある机の上へと集まっていき、全てが集まり終わると教師が周りを確認する。
「これにて筆記試験は終了となります。これから一時間の休憩を挟み、この教室にいる皆さんは実技試験へと移ります。
場所は訓練場となりますので、遅れないように移動してください。場所がわからない場合には、近くにいる教師に確認してください。では、私たちはこれで失礼します」
3人はその言葉を最後に教室を出ていくと、周りからは諦めの声や喜びの声、それと安堵したような溜め息などが聞こえてくる。
「ルイス様。お疲れ様です」
「ん?あぁ、お疲れ」
そんな中、俺は椅子に座ったままフィエラたちがくるのを待っていると、同じ教室にいたアイリスがまた声をかけてくる。
「試験の方はいかがでしたか?」
「そんなに難しくは無かったかな」
「さすがですね。私は魔法理論で分からないところがいくつかあり、少し不安です」
「そうなんだ」
「あ、この後はどうされるのですか?お昼はどちらでお召し上がりに?」
「それなら…」
「お待たせ。エル」
アイリスの質問に答えようとした時、ちょうどフィエラたちが教室へとやってきた。
「フィエラさん?」
「ん。アイリス。久しぶり」
「お久しぶりですね。どうしてこちらに?」
「エルとお昼を食べるため」
フィエラとアイリスはお互いに向かい合うと、まるで俺のことを忘れたかのように会話を始めた。
「そうだったのですね。ですが困りましたね。私もルイス様をお昼にお誘いしようと思っていたのですが」
「残念。先約は私たち」
「んー。なら、私もご一緒させていただいてもよろしいですか?他の皆さんともお話ししてみたいですし」
アイリスはそう言うと、フィエラの後ろにいるシュヴィーナと、俺もずっと気になっていた1人の少女へと目を向けた。
「わかった。シュヴィたちもいい?」
「私は構わないわ」
「えぇ。あたしもいいわよ」
「エルもいい?」
「断ったらどうなる?」
「別に何も。その場合、エルがどちらかを選ばないといけないだけ」
(それ、どっちを選んでも地獄じゃん)
仮にどちらかを選ぼうものなら、後から選ばなかった方に何か要望されそうだったので、俺は溜め息を一つ吐いて諦めた。
「みんなでいいよ。それに、俺も一つ聞きたいことがあるし」
俺はそう言ってシュヴィーナの隣にいる少女を見ると、彼女は何故か嬉しそうに微笑んだ。
「わかった。なら食堂に行こう」
「わかりました」
フィエラの提案で食堂に行くことが決まった俺たちは、アイリスも了承したことで食堂へと場所を移すことになったのだが、教室を出る時、何故か聖女のいる方から視線を感じるのであった。
5人で食堂へとやってきた俺たちは空いていた席へと座り、まずはお昼を食べるために準備をするのだが、美少女4人と男1人のせいか周りからの視線が凄かった。
「ルイス様。何をお食べになりますか?ここはいろいろな物が食べられるそうですが、よければ私がお待ちいたしますよ?」
「その必要はない。もう食べ物はある」
アイリスが俺に何を食べるのか聞いてくるが、フィエラはマジックバッグから料理を次々と取り出すと、テーブルの上を埋め尽くすように並べていく。
「それは、まさかマジックバッグですか?」
「そう。もらった」
「まさか、ルイス様が?」
フィエラはアイリスにそう聞かれると、少し得意気な表情へと変わり胸を張る。
「くっ。まさかそんな…」
「いや、元々は冒険者ギルドのギルマスにもらった物だからな。今は俺には必要ないからフィエラに渡しているだけだ」
「そう…なんですね…」
俺は何故か悔しそうにしているアイリスに一応説明をするが、彼女がフィエラから視線を外すことはなく、未だ悔しそうにフィエラのことを見ていた。
「まぁ、そんなことはどうでも良くて。俺が気になるのはお前だ。なんでお前がここにいるんだ?ソニア」
「あ、ようやくあたしの話になったわね」
こんな空気の中でも、マイペースにシュヴィーナと2人で料理を食べようとしていたここにいるはずのないもう1人の少女。
魔導国で別れ、もう会うこともないだろうと思っていた少女。
ウェーブがかかり、毛先にいくにつれて紫から赤に変わる特徴的な髪にルビーのように綺麗な赤い瞳。
前にあった時よりも少し妖艶さが増し、さらに綺麗になったその少女は、間違いなく俺の知っているソニア・スカーレットだった。
「久しぶりね、エイル。あれ、本当はルイスなんだっけ」
「フィエラたちに聞いたのか?今は学園だからルイスでいい」
「わかったわ、ルイス。それで、何であたしがここにいるのかって話だけど、それはもちろんあなたたちを追いかけて、この学園の入学試験を受けにきたからよ」
「は?俺たちを?」
「そう。あなたたちを」
ソニアはそう言って頬杖をつきながら笑うが、その仕草はフィエラたちよりも様になっており、彼女がより大人びて見えた。
「どうやって俺たちを見つけた。お前には行き先も俺たちの出身地も話していなかったはずだが?」
「ふふ。そんなに警戒しないで?ただ、鳥たちを使役して情報を集めただけだから」
「まさか…」
「そう。闇魔法よ。あたし、頑張ったんだから」
闇魔法には魔物や動物たちを操る使役魔法があり、過去には俺もその魔法を使って帝国を滅ぼそうとしたことがある。
その魔法の一番の特徴は、使役した生き物が見たり聞いたりした情報を使役者に距離関係なく伝えることができるというもので、情報を集めるためには最適な魔法とも言えた。
ただし、自分より強い魔力を持った魔物は使役できなかったり、体の大きさに比例して使用する魔力も多く必要になったりと、デメリットもあったりする。
「ルイスたちは確かに次の目的地もどこの国出身なのかも教えてくれなかったけれど、あなたの特徴的な容姿と喋り方で見つけることは簡単だったわ。あなたの喋り方は少し帝国訛りのところがあったし、銀髪金眼なんてそうそういないもの。
それに、貴族だってことは仕草でわかっていたから、そこまでわかればあとは帝国でその容姿に当てはまる貴族の情報を鳥たちに集めてもらうだけ。ね?簡単でしょう、ルイス・ヴァレンタイン様?」
ソニアがそう言って笑った瞬間、何とも言えない恐怖が俺を襲い、背中がゾワりとする。
(こいつ、やばい…)
フィエラとシュヴィーナの依存度もやばいとは思っていたが、ソニアの感情も彼女たちに負けないほどの危険性があり、俺はこの場に来たことをさっそく後悔していた。
しかし、この昼食会はまだ始まったばかりであり、これからさらに俺の精神は彼女たちによって削られていくことになるのであった。
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