第124話 旅の終わり

 翌日のお昼頃。荷物をまとめた俺たちは、最後の挨拶をするためセシルたちと向かい合っていた。


「エイルくん。今回は本当にありがとう。君たちのおかげでこの国は救われた。国の代表として君に深い感謝を」


 ケイリーがそう言って頭を下げると、セシルやペイルも頭を下げ、俺たちに感謝の気持ちを伝えてくる。


「気にしないでください。俺はヒュドラと戦いたかっただけですから。国が助かったのはそのついでだと思ってくれればいいです」


「はは。君は最後までブレないな。そうだ、最後にこれを持って行ってくれ」


 ケイリーはそう言って苦笑いをした後、懐から綺麗な紋章が彫られたブローチを取り出す。


「これは?」


「この国に入るための許可証みたいなものだ。また来た時には門の前でこれを見せてくれ。そうすれば、私の客として丁重に扱われる。それと、これは我々王族の誓いでもある」


「誓いですか」


「あぁ。我々王族は君が困った時、何があろうと全力で助けるという誓いだ。この誓いでは、例え我々の命が失われようとも、何よりも君を優先して助ける。そんな誓いだよ」


「うーん。何だか重いですね」


「はは。まぁそんなに深く考えないでくれ。ただ私たちがそれだけ君に感謝しているというだけだ。是非とも受け取ってくれ」


「…はぁ。わかりました」


 俺はケイリーが引く気がないことを察すると、彼からブローチをもらい、それをストレージへとしまう。


 すると、今度はセシルが前に出てくると、彼女は笑顔で俺に話しかけてきた。


「エイルさん。シュヴィのこと、どうかよろしくお願いしますね。この子はドジだし少し抜けているところはありますが、実力は確かなものを持っています。なのであまり迷惑はかけないと思います」


「ちょっと、お母さん!」


 シュヴィーナは母親に言われた言葉が恥ずかしかったのか、顔を赤くしながら突然大きな声を出してセシルに詰め寄る。


「まぁ、こうなった以上はほどほどに面倒は見ますよ。あとは彼女次第ですが」


「えぇ。それで十分です」


「それじゃあ、俺たちはそろそろ」


 俺はそう言って地面に置いていたバッグを手に持つと、フィエラとシュヴィーナに視線を向ける。


「わかりました。どうかお元気で。またいらしてくださいね」


「ありがとうございます」


 こうしてセシルたちに見送られた俺たちは、来た時と同じように東門から国をでて次の目的地へと向かう。


「さてと。帰るか」


 次の目的地は帝国にある自分の領地で、その後はいよいよシュゼット帝国学園へと向かうことになる。


「ふふ。これから何が起こるのか本当に楽しみだな」


 俺はすっかり変わってしまった今回の人生に疑問を抱きながらも、逆に過去とは全く違う今の状況が楽しくて仕方がなかった。


 こうして俺は約二年ぶりとなるヴァレンタイン公爵領へと戻り、シュゼット帝国学園へと向かうための準備を進めるのであった。






〜side魔族〜


 時は少し遡り、ルイスたちが魔導国を出て少し経った頃。


 魔導国の王城から魔族国家インペリアルへと戻ってきた男は、身なりを整えてから自身の主人に会いに向かった。


「失礼致します。ウィルエムです」


「入れ」


 自身をウィルエムと名乗ったのは、魔導国で国王のそばにいた男であり、ルイスが自分の中にある謎の力の正体を知るために泳がせた男でもあった。


「ただいま戻りました」


 ウィルエムが部屋の中へと入ると、そこには短く切り揃えられた赤い髪に褐色の肌、そして獣のように鋭い目をした男がおり、その男はワインを片手に椅子に座りながら寛いでいた。


「どうした?予定より帰ってくるのが早いな」


「申し訳ございません。実は想定外の事態が起きまして」


「あ?それはなんだ?」


 男はウィルエムを鋭く睨みつけると、それだけで部屋の空気が一気に重くなり、長年この男と一緒にいるウィルエムですら冷や汗を流す。


「はい。それが、バギラ様より仰せつかった王族の支配および賢者の子孫を滅ぼす作戦を行なっていたのですが、あと少しというところで1人の人間に邪魔をされてしまいました」


 ウィルエムが報告を終えた瞬間、彼の顔の横を何かが通り過ぎ、後ろの扉でグラスが割れるような音が部屋に響いた。


「おい、もう一度言ってみろ。今なんて言った?」


「人間に…邪魔をされた結果、今回の作戦は失敗に終わりました」


「おいおい。人間ごときに邪魔をされただと?そりゃあなんの冗談だ」


「申し訳ございません。ですが、それよりも得られるものがございました」


 バギラと呼ばれた男の放つ殺気に冷や汗が止まらないウィルエムではあったが、それでも何とか気を失わずに報告を続ける。


「実はその人間についてなのですが、どうやらバギラ様たちと同じ力を持っているようでした。おそらくあれは、未だ空席だったあの力だと思われます」


「なんだと?それは本当か?」


 先ほどまで機嫌の悪かったバギラであったが、ウィルエムからの報告で全てがどうでも良くなり、話の真偽を尋ねる。


「本当でございます。バギラ様たちのお力を近くで見てきた私が間違えるはずがありません。あれは間違いなく…」


「はは。あっはははは!そうか!ついに見つかったか!くはは!」


 バギラは顔に手を当てながら肩を振るわせてその後も笑い続けると、しばらくしてようやく落ち着きウィルエムへと話しかける。


「それで?その人間をお前はどう見た?」


「対応によっては我々側に付いてもらえるかもしれません。魔導国の国王にも容赦ありませんでしたし、同族である人間に興味が無いように思えました。


 なので、まずは勧誘をしてみるのもよろしいかと。


 また、まだ能力の方は制御が上手くできていないようで、力の流れや扱いに無駄がございました」


「なるほど。随分と面白そうな人間じゃないか」


「いかが致しますか?」


「そうだな…」


 バギラは腕を組みながらしばらく考え込むと、閉じていた目を開いてウィルエムに指示を出す。


「とりあえず今は放置でいい。もう少し様子を見ることにしよう。ウィルエム」


「はっ!」


「お前に次の任務を命じる。その人間を監視しろ。どんな性格か、強さはどうか、弱点や取引に使えそうな情報も全て見つけ出せ」


「かしこまりました。ただ、バレた場合にはどうしますか?」


「その時点で任務を放棄し帰ってこい。命より情報の方が大事だからな」


「かしこまりました」


 ウィルエムはそう言って一礼してから部屋を出ていくと、部屋に残ったバギラはニヤリと笑った。


「これから楽しくなりそうだな」


 ウィルエムに任せていた作戦とは、魔王を復活させるために魔法使いが多い魔導国の国民全員を贄にするというもので、まずはその作戦で邪魔になるであろう初代賢者の一族を国王を使って滅亡させるというものであった。


 しかし、その作戦はルイスの登場により失敗に終わったわけだが、それよりも魔族としては得られるものの方が大きかった。


 そして、バギラはついに魔族の全員が待ち望んでいた最後の1人が見つかったことに心を躍らせ、これから訪れるであろう未来を予想しながら新しいグラスに入れたワインを楽しむのであった。





〜side???〜


 それは何もない白い部屋の中で、ルイスの行動を観察していた。


「うーん?なんかおかしいなぁ?ルイスくんがヒュドラを倒しちゃったよ?エルフの国も滅びなかったなぁ」


 それは何もない空間で浮きながら、考えるようにくるくると回り始めた。


「なんか、前にも似たようなことがあったよねぇ?もしかして、誰かがボクのルイスくんに何かしたのかな?」


 帝国に向かっているルイスを眺めながら、それは色々な可能性について考える。


「きゃはは!!まぁいっか!これはこれで楽しそうだし、今回のルイスくんがどんな表情を見せてくれるのか楽しみだもんね!あぁ…早く会いたいなぁ」


 それはまるで恋する乙女のように恍惚とした表情でルイスを眺め続けると、今度は近くにいるフィエラたちのことを冷え切った表情で睨む。


「でも、やっぱり女の子は邪魔だよね〜。何とかしないとなぁ。ルイスくんにはボクだけがいればいいんだから」


 ルイスを眺めることをやめたそれは、まずはフィエラたちを消すことに決め、そのための準備を始める。





 こうして、様々な思惑が渦巻く中、いよいよルイスと主人公の再会が近づくのであった。





◇ ◇ ◇ ◇ ◇

 これにて、冒険編が終了となります。


 次はいよいよ学園編が始まります。ようやく主人公くんの登場です。


 ただその前に、幕間として過去のルイスのお話を書いて、登場人物紹介も書ければと思っており、新章はその次にスタートする予定です。


 過去のルイスたちについて知っていただき、よりキャラに親しみを持ってもらえればと思ってます。


 予定では一周目から三周目のアイリスとの過去について書く予定です。


 楽しんでもらえるように頑張って書きますので、更新した際には読んでいただけると嬉しいです。


 よろしくお願いします。






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