第47話 心の変化?
最近戦闘が多かったので、しばらくは平和的に行きます。物足りない場合には、過去の戦闘シーンやお気に入りのエピを読んでいただけると嬉しいです。
それと、本日20万PV達成しました!みなさん本当にありがとうございます!
◇ ◇ ◇ ◇ ◇
シュヴィーナという荷物を拾ってから三日。ようやく俺たちはルーゼリア帝国の南端にある湾岸都市ミネルバへと到着した。
季節はまだ冬なのにも関わらず、北のヴァレンタイン公爵領とは違って暖かく、風に乗って潮の香りが流れてくる。
ここミネルバは我が帝国の海運を一手に担っている地域で、他の大陸や国から様々な品が持ち運ばれてくる。
そのため、常に最先端の物に触れることができ、また珍しい食料や料理を食べることができるのだ。
帝国の流行はミネルバの潮風と共に運ばれる。なんて言われるくらいには、ここは帝国にとって重要な場所なのである。
そんな魅力的なミネルバに俺たちはやってきたわけだが、シュヴィーナを拾ってからの三日間は本当に疲れる日々で、何よりこいつの食事量が尋常じゃないくらいにやばかった。
スラリとした細い体なのに、俺らの倍以上食うものだから、さすがの俺も驚愕するばかりだった。
(こいつ、絶対金が全部食費に消えるタイプだ)
そんな大食いとの旅も今日までで、検問所を通った俺たちはそこで別れることにした。
「二人とも、お世話になったわ。ありがとう」
「ん。私も楽しかったから気にしなくていい」
フィエラとシュヴィーナはこの数日間でだいぶ打ち解けたのか、握手をしながら別れの挨拶をする。
俺はそんな二人を後ろから眺めていると、シュヴィーナが俺の方へと近づいてきて手を差し出してくる。
「なんだ」
「握手よ。ここで私たちはお別れなのだし、最後くらいいいでしょう?」
「…はぁ。わかったよ」
彼女が一度言い出したことをやるまで辞めないのは、この三日間で十分理解したので、俺は仕方なく彼女と握手をする。
「ふふ。またどこかで会いましょう!またね!」
シュヴィーナはその言葉を最後に、人で賑わう街の中へと走って消えていった。
フィエラはしばらくの間シュヴィーナが走っていった方を見ていると、俺の方に振り返って宿を探そうと言ってくる。
「なぁ、あいつと一緒にいたければついていってもいいんだぞ?」
シュヴィーナと別れて少し寂しそうなフィエラに、俺は思わずそんな言葉をかける。
彼女が俺のことを好きなのは知っているし、この質問が配慮に欠けた言葉なのも分かるが、俺がフィエラをこの旅に誘ったわけではないため、他について行きたいなら止める気など無かった。
「大丈夫。私はエルについていくから」
「そうかよ」
俺はそう言って宿を探すため歩き出すと、隣にフィエラが並んでついてくる。
その後、俺たちは風呂付きのそこそこ良い宿屋で二部屋取ると、それぞれ部屋へと別れて少しだけ休んだ。
お昼時を少しすぎたころ、部屋の扉をノックしてフィエラが部屋へと入ってくる。
「どうした」
「お腹すいた」
確かにちょうど良い時間帯ではあったので、俺たちは普段の冒険者装備ではなく、楽な格好に着替えて外にでる。
「エル。何食べに行く?」
「あぁ。ここにきたらぜひ食べたいと思っていたものがあるんだ。それが食べられるところに行く」
しばらく歩いてたどり着いたのは、海鮮料理が食べられる食事処で、店の前には多少の行列が出来ていた。
「ここだ」
「ここ?」
「この街の名物は新鮮な海の幸を使った海鮮料理で、特に刺身というのが美味いらしい」
「刺身…」
「どうだ?興味湧いたか?」
「ん。すごく食べたい」
「おーけー、なら並ぼう」
俺たちは並んでいる人たちの最後の位置に並ぶと、それから30分ほどで店の中へと入ることができた。
「いらっしゃいませー。注文はどうされますか?」
「今日のおすすめで」
「私も同じで」
「かしこまりましたー」
店員さんは注文を受けると、ささっと厨房の方へと向かう。
俺は何がくるのか楽しみにしていると、向かい側に座っているフィエラも楽しみなのか、耳と尻尾がふらふらと揺れていた。
(こうしてみると、耳と尻尾は正直で分かりやすいな)
普段はあまり表情が変わらず、何を考えているのか分からないフィエラではあるが、表情の代わりに耳と尻尾が感情によって分かりやすく動くため、意外と感情豊かなのが伝わってくる。
(そんなことが分かる程度には長くいるんだな)
考えてみれば、これまでの前世を合わせても、フィエラほど長く一緒にいた人はいなかったかもしれない。
そう考えると、俺は彼女に対して多少なりとも特別な何かを感じているという事なのだろうか。
(…いや、そんなことないな)
一瞬だけそんな考えも過るが、結局のところ、俺の根本的な人と関わるのが面倒だという部分は変わっていないので、人はそんなに簡単に変わらないかと結論づける。
すると、こちらを見ていたフィエラと視線が合い、彼女がじっと俺の方を見てくる。
「なんだ?」
「触りたいの?」
フィエラはそう言うと、自身の尻尾を膝の上に乗せてポンポンと叩く。
「あとで触らせてあげる」
「…そりゃどうも」
俺が彼女の尻尾を眺めすぎていたせいか、フィエラはそんなことを言ってくるが、彼女の尻尾の触り心地が良いのは事実なので、あとで触らせてもらうことにする。
それから少しして、店員さんが今日のおすすめである魚の刺身をテーブルの上に置くと、俺たちは箸というものを慣れない手つきで使うと、醤油に少しだけつけて一口食べる。
「うま」
「美味しい」
屋敷にいた時も魚料理はよく食べていたが、焼き魚や蒸した魚料理がほとんどで、こうして生で食べるのは初めてだった。
俺は刺身が乗った皿からわさびをとって醤油に混ぜ、また刺身につけて食べると、今度はちょうど良い辛さとさっぱりとした風味が口に広がり、これもまた美味しかった。
「その緑のはなに?」
「これか?これはわさびだ。醤油と混ぜて刺身につけるとうまいぞ」
「ふーん」
フィエラはそう言うと、自身の皿に盛られたわさびを全て取り、それを醤油に入れて混ぜていく。
「おい、そんなにつけたら…」
辛いぞと言おうとした時、フィエラはすでに刺身をわさびたっぷりの醤油につけ、それを口の中へと入れた。
「っ〜!!!」
味覚がおかしいフィエラでもさすがに今回ばかりは辛さに耐えられなかったのか、尻尾をパタパタと忙しなく動かし、涙目になりながら鼻の上部分を押さえていた。
「まったく。人の話を最後まで聞かないからだ…ほら、これ飲め」
俺はフィエラの方に水を渡すと、彼女はそれを勢いよく飲んでいく。
それでもなかなかツーンとした痛みから抜け出せないのか、しばらくの間フィエラは悶えていた。
「はぁ、はぁ」
「落ち着いたか?」
フィエラはこくりと頷くと、恨めしそうにわさびたっぷりの醤油を睨み、それからどうしようかと考え込む。
「わさび…怖いもの」
「いや、お前が入れすぎただけだから」
そんなくだらないやり取りをしたあと、俺は店員さんを呼んでフィエラの醤油の入った皿を変えてもらう。
「今度は入れすぎるなよ」
「もう入れない」
よほど彼女はわさびに痛めつけられたのか、その後は一切わさびに触れることはなく、刺身を醤油だけで食べていた。
「わさびがあるとこんなに美味いのになぁ」
俺はそんなことを呟きながら、残りの刺身にも舌鼓を打ちつつ食事を楽しむのであった。
食事を終えると、賑わう街中を少しだけ散歩して帰った俺たちは、宿屋に戻って俺の部屋に集まると、明日の予定について話し合う。
「明日以降の予定についてだが、まずはギルドに行くぞ」
「ん。わかった」
「そして、そこでダンジョンに潜る許可をもらい、そのままダンジョンに向かう」
そう。実はこの湾岸都市ミネルバは、海運だけでなくダンジョンもあるため、冒険者たちにも人気の都市なのだ。
「アイテムは買う?」
「いや、前に買った分がまだ残ってるから今回はいらない。足りなければあとで買おう」
「了解」
「他に何かあるか?」
「滞在予定は」
「二週間から三週間で考えている。それくらいあればダンジョンの攻略も出来るだろう」
その後は特にフィエラから質問もなかったため、話が終わった俺たちはお昼の時に約束した通り彼女の尻尾を愛でながらゆっくりと休むのであった。
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