第32話 ミリアとの過去
突然ミリアが俺たちの旅について来たいと言うので驚いてしまったが、気を取り直した俺は彼女にこの言葉を送る。
「無理」
(いや、普通に無理でしょ。なんで連れて行かにゃならんのだ。普通に邪魔)
「な、何故ですか!フィエラさんは一緒に行くのに、なぜ私はダメなのです!」
「いや、だってお前は戦えないじゃん」
俺の言葉を聞いたミリアは、返す言葉もないのか黙ってしまった。
ミリアも多少は魔法が使えるが、それでも多少だ。俺たちがこれから挑むのはAランク以上のダンジョンや魔物の討伐。
そんな中、ほとんど戦闘経験のないミリアを連れていくのは、ぶっちゃけ足手まといの邪魔でしかない。
「それでも、料理や身の回りのお世話は出来ます!」
「必要ないな。基本は宿に泊まるし、野宿をするにしても簡単な料理くらい俺もフィエラも作れる」
冒険者は依頼の都合上、嫌でも野宿をしなければならない時がある。
そのため、フィエラもある程度の料理は作れるだろうし、俺も前世で逃亡していた時に自分で料理を作っていた。
(まぁ、フィエラの料理が美味いかは分からんが、魔力器官を生で食うよりは良いだろう)
そこまで言うと、ミリアは悔しそうに拳を握って下を向く。
彼女のこの反応に疑問を持った俺は、とりあえずそのことについて尋ねることにした。
「そもそも、何でついて来たいなんて思ったんだよ」
これまでのミリアは、良くも悪くも普通のメイドで、俺と深く関わることはなかった。
ただ、最も深く関わることがあるとすれば、それは俺が彼女のせいで死ぬ時だった。
だから尚更、彼女がこんな願いを言ってきた理由が分からなかったのだ。
ミリアがこの屋敷でメイドとして働き始めたのは、俺が5歳の時だった。
当時の彼女はまだ8歳だったが、母親がこの屋敷でメイドとして働いていたため、ミリアも見習いとして働くようになった。
ただ、見習いとして働いていた子供はミリアしかおらず、また子供に重労働をさせるわけにもいかなかったため、基本的なことを少しずつ教えながら、あとは俺の遊び相手をしてくれていた。
俺自身も、屋敷内に子供は俺しかいなかったため、ミリアと遊ぶのは楽しかったし、彼女を姉のように慕い懐いていた。
しかし、お互いが成長して立場を理解していくと、次第に距離は離れ、遊び相手から主従関係へと変わっていった。
それから俺たちは一定の距離を保ち、ミリアは必要以上に俺とは関わらないようになったのだが、四周目の人生の時は彼女と深く関わる出来事があった。
あの時は、三周目の最後になぜ死んだのか分からず、俺は部屋に引きこもっていた。
父上も母上もすごく心配していたが、それよりも俺は訳が分からず死んだことの方が怖くて外に出られなかったのだ。
そうやって二年半を部屋から出ずに過ごし、また学園に通う時がやって来た。
だが、やはりあの時の恐怖や繰り返され死に対して絶望していた俺は、今回は学園に通わないと決めていたのだが、入学が近づいた時、また俺の意識が途切れた。
そして、意識が戻るとなぜか俺は学園に入学してしばらく経っており、すでに悪い噂が流れていた。
アイリスはすでに主人公と出会って恋をしていたが、俺はそれよりも何故こんなことになっているのか知りたかった。
だから一緒に学園に来ているはずの専属メイドであるミリアのもとを訪ねてこれまでのことを聞いてみたが、彼女から返ってくるのは軽蔑の籠った視線と冷たい態度だけだった。
それから二週間後、身に覚えのない悪事の数々が主人公によって告発され、俺は牢屋へと閉じ込められた。
その時ミリアが俺に会いに来てくれたが、彼女は俺のことを嘲笑うと、自分が主人公に情報を渡したと言ってくる。
結局俺は、その後も長い間牢屋に閉じ込められ、劣悪な環境のせいで病気を患い苦しんで死んだ。
これはあとから聞いた話だが、俺の意識が途切れていた間、俺はミリアに暴力を振るっていたらしく、彼女はずっと俺のことを恨んでいたそうだ。
そのせいで心が傷ついていたところを主人公に寄り添われて恋に落ち、主人公の役に立つのと復讐を兼ねて俺の情報を渡したと聞かされた。
五周目の時、俺は何度も死に戻りをすることより、何度も俺のことを死に追いやる主人公のことを恨んだ。
だから学園に入学後、復讐するために裏組織の連中と手を組み、主人公を暗殺するように仕向けようとした。
あいつが死ねばこの繰り返される人生も終わるかもしれない。そう思って念入りに準備を行い、いざ実行しようとした時、俺は紅茶に含まれていた毒によってあっさりと死んだ。
最後に視界に映ったのは、青い顔で震えながら「すみません」と謝り続けるミリアの姿だった。
この時は理由を聞くことは出来なかったが、おそらくどこかで主人公に出会って恋をし、あいつを守るために俺を殺したのだろう。
でなければ、あの時あのタイミングで俺を殺す理由が彼女には無かったのだから。
こうして、過去2回の人生でミリアに殺された俺ではあるが、前にも言ったように俺は彼女のことを恨んでいない。
四周目の時は意識がなかったとはいえ俺が悪かったし、五周目で毒殺されて六周目に入った時、もはや死にすぎて怒りが湧いてこなくなったからだ。
そんなことよりも、俺はどうしたらこの繰り返される死から抜け出せるのだろうと、そんなことばかりを考えていた。
そんな感じで、俺が死ぬ時だけ深く関わって来たミリアだが、それは学園に入学して主人公に会ってからだったので、なぜこのタイミングで関わろうとしてくるのかが分からない。
「私はルイス様の専属メイドです!私にはあなたについていく義務があります!だからどうか私も連れていってください!」
「ふむ。専属メイドだから…か。つまり仕事だからということだな?」
「はい」
「わかった…」
俺がそう言うと、ミリアは安堵した顔をするが、次に俺が言った一言で絶望したような表情になる。
「なら、専属から外そう。これからは他のメイドと一緒に屋敷全体の掃除とかをお願いするよ」
「…え」
「ん?聞こえなかった?ミリアを専属から外す。父上には俺から言っておくから、もう部屋を出ていいよ」
仕事や専属であることを理由について来ようとするのなら、その役目から外してやれば良い。
そうすれば、これ以上めんどうな問答はしなくて済むし、彼女もついてこないから一石二鳥。いや、学園に入学してもついてこなくなるから三鳥か?
「…なぜ」
俺がそんなことを考えていると、ミリアは体を震わせながら俺のことを見てくる。そして彼女の目には何故か涙が溜まっていた。
「何故そんなことを言うのですか!そんなに私がいると邪魔なのですか?!」
彼女が何故こんなにも感情的になっているのか分からないが、ここで甘く接する意味もないため、率直な気持ちを伝える。
「うーん。ぶっちゃければそうだね。俺たちはこれから約二年で世界を見て回る予定だ。
だから馬車なんかで移動してたらあっという間に時間が無くなるから、常に最速で動いて回らないといけない。
ミリアはそんな俺たちの動きについて来られないだろう?お前を抱えて走るなんてこともできないし、常に飛行魔法で空を飛ぶこともできない。
だから今後の俺たちにとって、お前が付いてくることは足手まといでしかないんだよ」
他者が今の俺を見れば、冷たい奴だと非難するだろう。しかし、俺は他者が俺の言葉や行動をどう感じようが全く気にしない。
もはや俺は他者を気にして生きるのではなく、自分のやりたいようにやって死ぬことを目的としているのだから。
「これがお前を連れて行かない理由だ。分かったならもう部屋を出ていってくれないか?」
その後ミリアは何も言うことはなく、黙って頭を下げてから俺の部屋を出ていくのであった。
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