第19話 獣化
アイスゴーレムを倒して以降、俺も戦いに混ざると、フィエラと連携しながら敵を倒していく。
フィエラは前衛タイプなので基本的に彼女を自由に戦わせ、そこにオールラウンダーの俺が魔法や剣で援護をしていく感じだ。
「フィエラ、そのまま突っ込んでリーダーを仕留めろ。俺が周囲の魔物を魔法で止めておく」
「ん」
現在戦っているのはアイスオーガ5体で、うち1体がリーダーだ。
氷で出来たオーガたちは、近づいてくるフィエラを殺そうと手に持った太刀や棍棒などを振り下ろすが、俺がそれを魔法で阻止していく。
「『
フィエラを囲むように立ち塞がろうとしていたアイスオーガたちだったが、俺がフィエラとアイスオーガたちの間に炎で二つの壁を作ると、リーダーの所まで一本の道が出来上がる。
「シッ」
フィエラは短く息を吐くと、拳に身体強化を集中させ、力一杯殴りつける。
リーダーはその威力に耐えきれず勢いよく吹っ飛んでいくと、壁に衝突して魔石へと変わった。
「うし。残りも片付けますか」
俺はいまだ燃え盛る2枚の炎の壁を魔力操作で操り、左右に分かれていたアイスオーガたちを二体ずつ飲み込むと、一瞬のうちに溶かして魔石だけが残る。
「やっぱり2人でやると楽で良いな」
「ん。でもエルに頼りすぎると不意打ちに弱くなりそう」
「はは。それが分かってるなら十分さ。今後も油断せずに注意しろよ」
「わかった」
その後も俺たちは順調に攻略を進めていき、ダンジョンに潜って3時間ほどで20階層へと到達した。
「こいつは…」
「
それに、硬い鱗で防御力も極めて高い。氷で出来た偽物じゃない、正真正銘Aランクの魔物だな」
「…まずは様子を見る」
「おーけー。俺が援護しよう」
大まかに役割を決めた俺たちは、まずはこれまでのようにフィエラがスピードを活かして突っ込む。
「シャアァァァァ!!」
氷結大蛇は近づいてくるフィエラをギロリと睨むと、彼女のスピードに翻弄されずしっかりと目で捉え続ける。
「
俺はそんな氷結大蛇の顔面目掛けて火球を放つが、案の定あっさりと顔を逸らして避けられた。
「フッ!」
しかし、一瞬だけフィエラから視線が外れたため、彼女はその隙にさらに加速すると、一気に距離を詰めて側面を殴る。
「くっ」
しかし、思った以上に氷結大蛇の鱗が硬かったのか、逆に彼女の拳がダメージを受けてしまったようだ。
氷結大蛇は殴られたことに気がつくと、長い体を動かしてフィエラを締め付けようとするが、彼女はそれをジャンプして避けた。
俺がそれに合わせて空中に風魔法で足場を作ると、フィエラはそこに一度着地してから俺の隣に戻ってくる。
「どうだった」
「硬すぎる。普通の身体強化じゃ傷一つつけられない」
「なら変わるか?」
「いや、獣化する」
「わかった。なら時間を稼いでおこう」
「お願い。1分でいい」
「はいよ」
フィエラはまだ獣化することに慣れていないため、瞬時に獣化することが出来ない。
彼女は俺の返事を聞くと、獣化に集中するため後ろへと下がる。
「さて。選手交代だ。俺が遊んでやるよ」
今回俺の役割は、フィエラが獣化するまでの時間稼ぎだ。
俺一人で氷結大蛇と戦った場合、負けはしないが勝つのにはそこそこ苦労する。前にスノーワイバーンを倒したが、あいつはAランクの中でも弱い分類に入るため倒せただけだ。
しかし、氷結大蛇は同じAランクでも上位の強さを持つ。だから本来であれば二人で協力して倒すべきなのだが、フィエラには今後のためにもいろいろと経験して欲しいため、今回はフィエラを主軸に戦う予定だ。
「んじゃ、手始めに…『
俺は空中に50本の火の槍を作り出すと、それを氷結大蛇を囲むようにして配置し、一斉に降り注がせる。
「キシャアァァァァ!!!」
しかし、氷結大蛇が一鳴きすると、体から霜が出てきて火槍を鎮火していく。
「まじか。あの霜にそんな使い方もあるんだな。なら次は、『
俺が軽く地面をつま先で蹴りながら魔法名を呟くと、そこから氷結大蛇に向かって数千にも及ぶ針が氷結大蛇の方へと伸びていく。
「シャアァァァァ!!」
だが、氷結大蛇が長い尻尾を横に薙ぎ払うと、それだけで氷針は粉々に砕け散った。
「うーん。時間稼ぎにもならないか。んじゃ、次行ってみよう。『
今度は手を伸ばして雷魔法を唱えると、手から黄色い雷がすごい速さで氷結大蛇に当たる。
「ギャアァ!!」
雷魔法は氷結大蛇にダメージを与えることができたらしく、これまで平然としていたやつが少しだけ痛がっていた。
「終わった」
次はどうしようかと考えていると、後ろから獣化が終わったフィエラに声をかけられる。
横に並んだフィエラをチラッと見てみると、手と足の指には鋭い爪が生えており、腕と脚には綺麗な銀色の毛が生えていた。
そして、両頬には青い線が二本ずつ入っており、瞳孔は細く獣のように鋭かった。
「おぉ、結構かっこいいな」
「ありがと。それじゃ行ってくる」
フィエラはそう言うと、先程までとは比べものにならない速度で移動する。
いくら俺でも、何もしないで今の彼女の動きを捉えることはできないため、魔力を目に集めて動体視力を強化した。
「おぉー、めっちゃ早い。氷結大蛇もフィエラの動きを捉えられてないな。…あ、一発入った」
フィエラが氷結大蛇の胴体を思い切り殴ると、先程まで無傷だった鱗に罅が入り、体は大きく曲がる。
その一発で氷結大蛇もフィエラを敵と認識したのか、体から霜を出しながら彼女のことを睨みつける。
「さてさて。どちらが勝つかな」
それから数分間、フィエラは獣化で強化された身体能力を活かして次々と攻撃を当てていき、氷結大蛇はボロボロに傷ついていく。
しかし、氷結大蛇も戦いを諦めた様子はなく、なるべく鱗のある部分で攻撃を受けてダメージを軽減させ、じっと反撃のチャンスを狙っているようだった。
そして、氷結大蛇の鱗が殆ど剥がれた時、フィエラの体に異変が起こる。
「動きが鈍くなったな」
最初に比べると、フィエラの動きが目に見えて鈍くなった。あれはおそらく氷結大蛇が最初から出し続けていた霜による効果だろう。
「なるほど。霜を出し続けることで徐々にフィエラの体温を奪ったのか」
フィエラは近接タイプなので、やつの霜を呼吸をするたびに吸い込んでいた。そのせいで外側からも内側からも体温を奪われ、徐々に動きが鈍くなったのだ。
「ここが正念場だな」
彼女がどうするつもりなのか観察していると、フィエラは一度大きく後ろにジャンプして距離を取る。
そこはやつの霜の範囲外のため、比較的安全な場所だった。
そして、大きく息を吸ったフィエラは、その息を吐くことなく止めると、思い切り地面を蹴った。
「なるほど。息を止めて霜を吸い込まないようにしたか。こうなると時間との勝負だな」
そこからの勝負は一瞬で決着がついた。フィエラは獣化に加えて身体強化も使用し、最初の時と同じ速度で動き続ける。
氷結大蛇もこれが最後の攻防になると理解したのか、全力で霜を出して彼女の動きを止めに行く。
そして、フィエラが少しだけ動きを緩めると、そこを狙って氷結大蛇は口から全力で息を吐き彼女を凍結させようとした。
しかし、それは氷結大蛇の攻撃を誘ったフィエラのフェイントで、そこにはすでに彼女の姿はなく、彼女は氷結大蛇の腹の下にいた。
「死ね」
獣化した事で鋭くなった爪を手刀のように縦に振り下ろすと、それは空気を切り裂いて大きな刃のようになり、氷結大蛇の腹を深くく切り裂いた。
「シャアァァァァ…ァ…」
致命傷を受けた氷結大蛇は大きな体を地面に横たえると、そのまま体が消滅して魔石とアイテムを落とした。
フィエラはしばらく氷結大蛇がいた場所を見つめると、獣化が解けて力尽きたように座り込む。
「お疲れ。よく頑張ったな」
「んん。ありがと」
俺は彼女のもとへ近づくと、頭を撫でながら回復魔法をかけてやる。
そして、動けない彼女の代わりに魔石とアイテムを回収し、それをフィエラに渡した。
「ほら。お前の戦利品だ。この武器はお前にこそ似合うよ」
「ガントレット…」
それは白で統一された綺麗なガントレットで、表面には蛇の鱗が付いている。そして、指先が出るような形状になっており、彼女が獣化したときにも使用できそうだったので、まさに彼女にピッタリの武器だった。
「この武器は『氷蛇のガントレット』。鑑定したら、どうやら相手を殴るたびに対象の体温を奪っていく効果があるようだ。
それに空気弾を飛ばしたりできる場合は、その気弾に凍結の効果を付与できる。まぁ、氷結大蛇のように全身までは無理だが、部分的に相手を凍らせられるって事だ」
「わかった」
「よし。とりあえず今日はもう帰ろう。お前も疲れたろ」
「ん。疲れた。だから帰ったら毛づくろいを所望する」
「了解。いくらでもしてやるよ」
フィエラに手を貸して立たせると、俺たちは下の階へと降りていき、近くにあった魔道具にギルドカードを翳して場所を登録すると、転移用の魔法陣に乗って今日の攻略を終えるのであった。
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