第8話 冒険者ギルド
冒険者ギルドとは、一つの国に属さない組織の一つで、主に魔物討伐や護衛、薬草採取や街の掃除などを行う、いわゆる何でも屋と呼ばれる冒険者たちを管理しているのが冒険者ギルドである。
さらにその中で、魔物を専門にする者や傭兵と呼ばれる戦争や対人戦を専門にする者などに分かれるが、そこは個人がどちらを専門でやりたいかを決めて別れるだけなので、もちろん両方をこなす者もいる。
冒険者ギルドに所属せず同様のことを行う人たちも存在するが、大抵の人は依頼を冒険者ギルドに出し、それを冒険者が受けるという一つの流れができているため、なかなか個人で稼ぐことは難しい。
また、冒険者ギルドに所属する一番のメリットはダンジョンに潜れることだ。
ダンジョンは、国と冒険者ギルドが協力して管理をしているため、冒険者ギルドに所属してギルドカードを持った者、もしくは特別な許可を得た者しか中に入ることを許されていない。
だから安定して稼ぎたい人はみんな冒険者になるし、強くなりたい人もまた冒険者ギルドに所属するのだ。
次にランク制度について。冒険者のランクには個人ランクとパーティーランクが存在し、ランクはF〜SSSまである。
ランクを上げるにはギルド側が決めた条件を達成する必要があり、その条件を満たすことでランクを上げていくことができる。
F〜Cまでは同ランクの依頼を十回成功させることで上がっていくが、B〜Sまでは同ランクの依頼を十回成功に加え、依頼時に試験官が付き添い、一つ上のランク依頼の達成と面接を行う必要がある。
SSから上は、一つ上のランクの者と戦ってその試験官が実力を認め、さらにギルドマスターと面接を行い、それを冒険者ギルド本部のお偉い様方が審議をして合格すれば、晴れて昇格することができるのだ。
Sランク以上ともなれば、扱いは貴族とさして変わらない扱いを受けることができるようになる。
なのでこれは、強さだけでなく人間性も把握した上で、そのランクにふさわしいかを確認するための措置である。
最後にダンジョンについて。ダンジョンにはD〜SSSまでランク分けがされており、個人ランクまたはパーティーランクがダンジョンランクと同じ場合には、そのダンジョンに入ることができる。
なぜDランクからなのかというと、ダンジョンに出てくる魔物は群れで行動している場合が多く、また地上のように逃げ道が多いわけでもない。
そこに冒険者になりたての新人が入っていけば、魔物の数や実力差であっさりと死んでしまうため、それを避けるために最低Dランクと定められているのだ。
ここまでが受付のお姉さんが話してくれた冒険者ギルドやダンジョンについての説明だが、そうなると俺はFランクの駆け出しになるため、ダンジョンに潜ることができない事になる。
「お姉さん。一つ聞きたいことがあるんですが」
「はい。何ですか?」
「ギルド内で騒ぎを起こした場合、それはどうなるんですか?」
「その場合、我々ギルドは基本的に不干渉となりますので、ご自分たちで解決をお願いします。ただ、ギルド内で最初に武器を抜いたり魔法を使った場合には、相手側は正当防衛となりますので、この場合は最初に攻撃を仕掛けた側に罰を受けてもらいます」
「なるほど、わかりました。では次に買取をお願いしたいんですが」
「かしこまりました。では、こちらに買取希望のものを置いてください」
俺は腰に下げた鞄から魔石を一つ取り出すと、お姉さんの前にあるテーブルの上に置いた。
「こ、これは……」
「スノーワイバーンの魔石です」
俺が取り出したのは、一ヶ月前に倒したスノーワイバーンの魔石だ。
これまで使い道がなかったので取っておいたが、これを使ってランクの昇格をお願いできないか交渉するつもりだ。
「えっと、どなたが倒されたのですか?」
「俺ですよ」
「…本当ですか?」
「はい。なので特例として、ランクアップをお願いできませんかね?」
「それは…」
「おいおい。話を聞いていればお前さん。それは無理って話だぜ」
お姉さんがどうしたものかと決めあぐねていた時、後ろからガタイの良いおっさんが俺に話しかけてきた。
「ふむ。なぜかな?」
「はっ!そんなの、お前さんが倒したって証拠がどこにもねぇからさ!もしかしたら、他の冒険者が相打ちになったところをお前さんが魔石だけ回収してきたのかも知れねぇし、どっかの店で魔石を買ったのかも知れねぇじゃねぇか」
「なるほど」
確かにこのおっさんの言う通り、そういった可能性も考えられるだろう。
「なら、俺が実力を示せば認めてもらえるのか?」
「ふん。それを決めるのは俺じゃねぇ。俺がお前の実力を認めたところで、ギルド側が認めなければ何も変わらんだろう」
(…このおっさんいい奴だな)
態度は大柄で口調も悪いが、言っていることは正論だし、あくまで中立の立場で意見してくれている。
「ならお姉さん。俺が実力を示したら、融通を利かせて、少しランクを上げてくれませんかね?ギルド側としても、実力者が多いに越したことはないでしょ?」
冒険者はいつ死ぬかわからない職業だが、高難易度の依頼はよく入ってくる。
だから実力のあるものはそれに相応しいランクにつかせ、相応の依頼をこなしてもらわなければギルド側としても困るはずた。
「…わかりました。私の一存では決めかねますが、上には掛け合ってみます」
とりあえず検討はしてもらえるようなので、あとは俺が実力を示せば良いわけだが…
「それで。どうやって実力を示せばいいんですか?」
「それでしたら、模擬戦はいかがですか?ちょうどそちらにいるランドルさんがAランク冒険者ですし、スノーワイバーンを倒すほどの実力者なら適任かと」
どうやら俺に話しかけてきたおっさん、もといランドルはAランク冒険者だったようだ。
(強そうだとは思っていたけど、Aランクとは)
「チッ。しゃねぇな。地下の訓練場でいいのかい?」
「えぇ。そちらでお願いします」
どうやら場所も決まったようなので、俺と受付のお姉さん、そしてランドルの三人と、俺らのやりとりを見ていたその他ギャラリーで移動する事になった。
地下の訓練場はかなり広い作りとなっており、他にも何組かの冒険者が模擬戦や魔法の訓練をしていた。
(あれは結界か?)
周囲には観客席のようなものもあり、そちらに被害が行かないよう結界まで張ってあった。
(良い結界だな。これなら魔法使いも安心して訓練ができるだろう)
「おい。準備はできたか」
俺があたりを見渡していると、大きな斧を持ったランドルが声をかけてきた。
「あぁ、問題ないよ」
俺は腰に下げた剣を抜いて右手に持ち、ランドルの正面に立って見合う。
「なぁ、お前どっちが勝つと思う」
「そりゃーランドルだろ」
「でもよ。あのガキ、スノーワイバーンの魔石を持ってたんだぞ」
「だがあいつが倒したって証拠はないだろ?」
「両者、準備はよろしいですか?…では、始めてください!」
受付のお姉さんの一声で、俺は意識をランドルだけに向けて集中していき、余分な情報は全て遮断していく。
まずギャラリーの声を遮断すると、ランドルの心臓の音、脈の音、筋肉が動く音だけが聞こえ、視界の色は白黒になり、ランドルの視線や体の僅かな動きだけが頭の中へと入ってくる。
最初に動いたのはランドルだった。やつは斧を振り上げながら踏み込んでくると、一瞬で俺の前に現れて斧を振り下ろしてくる。
(ふむ。やっぱり強いな。けど……)
俺は迫ってくる斧に対して、両手で持った剣を間に割り込ませる。
斧の重さとランドルの筋力、そして振り下ろす力により、俺が彼の斧を受け止めることは不可能だろう。
(受け止めるのが無理なら受け流せばいい)
なにも力を力で受け止める必要はない。手首の柔軟性を利用し、剣を傾ける角度、体の動かし方をしっかりと理解していれば…
(簡単に受け流すことができる)
斧は剣を滑るように流れていき、体を少しずらすだけで俺の横を通り過ぎて地面へと振り下ろされた。
斧は重心が先端にあるため、すぐにもう一度攻撃を仕掛けることはできない。俺はその隙をついて、剣をランドルの首筋に当てる。
「ほい、俺の勝ち」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます