第6話 魔物
俺にとっての死神令嬢であるアイリス・ペステローズと婚約してから半年が経ち、俺は十三歳になった。
季節は夏から冬へと変わり、今や毎日のように雪ばかりが降る我が公爵領だが、特に変わらず平和な日々を過ごしている。
この半年間は平穏なもので、俺は自分のやりたいことをやって生活していた。
勉強やマナーはこれまでの人生で全てマスターしているし、何ならこれから起こる未来まで記憶しているくらいだから必要ない。
では、何をやっていたのか。それは魔力量を増やすのと武術の訓練だ。
俺の頭の中には数多の魔法が知識として存在しているが、それらを使うための魔力と技術が足りない。
俺は神童と言われているので、もちろん他の子供より、何ならそこら辺の魔法使いよりも魔力は多い。しかし、それはあくまでそこら辺のだ。
宮廷魔法師やランクの高い冒険者と比べると全然足りない。
だから俺は毎日のように魔力枯渇をさせて魔力量を増やしたり、魔力操作で全身に魔力を流し込んで、より素早く正確に魔力が扱えるように特訓していた。
魔力を多く使えば魔力量が増えるというのは有名な話だが、魔力を無理やり枯渇させると死に至る場合がある。
なので、やるとしても普通であれば魔力が無くなるギリギリでやめるため、自分から魔力枯渇を行う者はほとんどいない。
(それに、魔力切れが近づくと体がだるくなったり吐き気がするからってのもあるよね)
しかし、俺は別に死んでも良いと考えている人間なので、その程度のことを恐れてやらないという選択肢は無かった。
次に武術。こちらもこれまでの人生で徹底的に鍛えてきたため、知識と経験だけなら誰にも負けることはない。
しかし、実践が足りていないので、毎日騎士団相手に訓練をしていた。
経験はあるのに実践が足りないとは?と思う人もいるだろうが、これは別に不思議なことではない。
これまで何度も死に戻りをして戦いの場で経験を積んで来たし、実際に何度も死んできた。しかし、死に戻るということはそれまで鍛えてきた肉体、主に筋肉やリーチの長さも戻るということだ。
だから前のような感覚で敵に挑むとあっさりと力負けするし、間合いを見誤ってうまく攻撃することもできない場合がある。
そのため実践を行なって誤差を修正し、筋肉を増やして感覚を慣らしていかなければならないのだ。
ちなみに、俺は魔力操作で筋肉のつき方をいじることができるので、成長に合わせて最適な体を作ることができる。
こんな感じでやりたい事をやって必要のない事をやらないという生活を半年間満喫していたわけだが、一つだけめんどうなことがあった。
それは……
「ルイス様。アイリス様よりお手紙が届いております」
「またか」
半年前に会ったきり、一度も会っていないアイリスからの手紙だ。
前の人生でも手紙のやり取りをすることは何度かあったが、それは俺が彼女と仲を深めようとしていた時の話だ。
関わらないと決めてから無視するようになって、それ以降はどの人生でも手紙でやり取りをすることなど一度もなかったはずなのだが。
しかし、何故か今回は無視をしたにも関わらず手紙を送ってくるのだ。
「はぁ。また変なルートに入ったのかな」
「はい?何かおっしゃいましたか?」
「なんでもない」
ミリアから手紙を受け取った俺は、封を切って手紙を取り出すと、さらっと目を通していく。
内容としては、最近の出来事や俺がどう過ごしているのか、それと体調には気をつけるようにと書いてあった。
(まるで離れて暮らす子供への手紙みたいだな)
そんな事を思いながら机の引き出しから便箋を取り出し、適当な内容をしたためてミリアに渡した。
「はぁ。本当にめんどくさい。ほっといてくれればいいのに」
俺は心底めんどくさいと思いながら、窓の外で今なお降り続けている雪を眺めるのであった。
アイリスに手紙を返してから数日後。俺は現在、一人で公爵領の外れにある森へと来ていた。
理由はここにとある魔物の目撃情報があったと聞いたため、そいつを討伐しにやってきたのだ。
「さてさて、奴はどこかな?」
俺は目当ての魔物をサクッと見つけるため、索敵魔法を使用する。
すると、頭の中に森にいる生き物たちの情報が一気に流れ込んでくるが、必要ない情報は索敵範囲外とし、強い魔物の情報だけを集めていく。
「お、いたな」
さらに森の奥。北に進んだところに目当ての魔物を発見したので、飛行魔法で奴のところへと向かう。
数十分ほど空を飛ぶと、白い鱗に白い翼、一瞬雪の小山かと思えるその魔物の名はスノーワイバーン。
通常のワイバーンは緑色をしており、強さはBランクとされるそこそこ強い魔物だ。
ランクとは、人間が魔物と戦う際、一つの目安として定められているものであり、その魔物の強さを表したものになる。
ランクはF〜SSSまでの九段階あり、Fランクはスライムやゴブリンの子供など、子供でも倒せる弱い魔物が分類されている。
逆にSSSランクともなれば、そいつ一体で国が複数滅ぶと言われている。
さらにSSSランクの上には幻想種といわれる実在するのかすら定かではないとんでもない存在がいるが、こいつらを見たことがあるやつはいないため、最高ランクはSSSとされているのだ。
また、この世界にはダンジョンと呼ばれるものも存在し、そちらはD〜SSSランクまである。
何故ダンジョンのランクがDからなのかはまた今度話すとして、では俺の目の前にいるスノーワイバーンはBランクなのかといえば、それは違う。
スノーワイバーンのランクはAで、普通のワイバーンよりもランクが一つ上という強い分類に入る。
なぜ同じワイバーンなのにランクが違うのかといえば、こいつは普通のワイバーンと違い魔力を持っているのが理由だ。
普通のワイバーンの攻撃は空からの突撃、そして牙での噛みつきと鋭い爪を使った切り裂きなどだが、魔力を持ったワイバーンはそこに自身の属性を使ったブレスが加わる。
AランクとBランクの大きな違いは、この魔力の有無だ。
そしてスノーワイバーンは魔力を持っているため、Aランクという一つ上のランクに指定されているというわけだ。
では、何故俺がそんな強敵に挑んでいるのかと言えば、理由はただ一つ。
「魔力を持った魔物を食えば魔力が上がる」
そう。俺はスノーワイバーンを倒して手に入る素材、魔力が生み出される器官を得るためにこいつと戦いに来たのだ。
普通の人間であれば、その器官を食べても何も効果は得られない。
しかし、魔力操作に長けており、さらに倒してから数分以内にその器官を喰らうことができれば、魔物が持っていた魔力を自分に取り込むことができる。
なぜ数分以内なのかといえば、それは魔力の持ち主が死ぬと、体内にある魔力は自然へと還っていき、わずか数分で魔力が無くなってしまうからだ。
次に魔力操作に長けている必要があるのは、自分とは違う魔力に波長を合わせ、それを自分のものに変換しなければならないという緻密さが必要となるからだ。
魔力とは人によって特質が異なり、完璧に一致する人間はこの世に一人として存在しない。
そのため何も知らずに他者の魔力を自分の中に多く取り込んだ時、体が拒否反応を起こして最悪死に至る場合もある。
だから魔力操作で自分の魔力を他者の魔力の特質に合わせて形を変換し取り込む必要があるわけだが、これができる人は片手で数えられるほどに少ない。
この技術を身につけたのは本当にたまたまだったが、おかげで今世の俺はさらに強くなれる。
「ふふ。さぁ、俺を殺してくれ」
スノーワイバーンの前に堂々と降り立った俺は、不敵に笑いながら剣を抜くのであった。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます