レンズ越しの君は遠い

平沢玲和

第1話 日常

 時折見せる彼女の表情が、たまらなく好きだ。

 小説でしかみない表現だけど、こんな言葉が相応しい思う。

 「儚い……って感じ」

 私から漏れた言葉に、目の前の彼女は目を丸くする。机の上で両の手で頬杖をつき、私を見つめる彼女。

「なにそれ」

 にんまりと笑う彼女は、恥ずかしいのか少し私から目をそらす。

 放課後のこの時間が私は好きだ。

 夕日が差し込んで、ほのかに赤みがかった教室がなんともいえない寂しさを醸し出す。優しい風が薄汚れたカーテンをなびかせ、その情景を私はカメラに収める。

 グラウンドからは少し距離があるせいで、放課後の風物詩的な部活動の声は聞こえてはこない。だからこそ生まれるこの静寂が、私にとっては心地いい。

 でも、時間は有限で、楽しい時間にも必ず終わりがやってくる。

「そろそろ時間だ。私帰るね」

 そういって彼女は席を立つ。ひとつの机に向かい合って座っていた彼女は、自分のリュックを背負って私に手を振る。

「うん。バイト頑張って」

「ありがと」

 彼女の放課後は決まってバイトだ。毎日のように働いてお金を稼いでいる。

 バイトまでの時間、こうして私と彼女の二人で過ごすのがここ最近の日課だ。

 彼女を見送って、私はぽつんとひとり教室に取り残される。

 特に残る用事もなければ、必要も無い。彼女と一緒に教室を出て帰ればいいのかもしれない。でも、なんとなくそうするのを私は嫌った。

 短い時間でも、放課後に二人で過ごしているというのに、一緒に帰ってもいいのかなんてことを考えてしまう。


 私は、そんなことを考えてしまう自分がたまらなく嫌いだ。

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