【完結】限界まで機動力を高めた結果、敵味方から恐れられている……何で?
@udon_MEGA
第一章:この世界に降り立つ
000:傭兵は一攫千金の夢を見る
――好きな事でお金を稼ぎたい。
オイル塗れになった手でぬるい缶コーヒーを握りながら、俺はそう思った。
このまま一生をライン工として終えるのは嫌だ。
正規社員にもなれず、彼女も出来ないまま童貞で死ぬ未来。
俺はそんなくそったれな人生をやめる為に、好きな事でお金を稼ぐ決心を固めた。
勿論、すぐにお金が稼げる筈もない。
趣味でお金を稼ぐには才能が必要なのは勿論の事、努力だって必要なのだ。
習い事もしてこなかった俺が、何で金を稼げるのか。
それを考えれば、一つだけ真っ先に思い浮かんだものがあった。
それは仮想現実世界で日夜行われている“戦争ゲーム”で。
人型兵器を操縦して多くの敵を倒せば、ゲーム通貨が貰えるのだ。
それは現実のお金にも換金できるもので、これで生計を立てている人もいると俺は知っていた。
ゲームといっても、ソフトのように名前はない。
仮想現実世界で国を作った人間たちが作り出したシステムの一つで。
何時か終わるかもしれないコンテンツの一つなのだ。
「戦争ゲームって名前は物騒だけど、まぁ仮想現実なら何でもありなのかな?」
安物の端末を操作しながら、俺は人型兵器メリウスについて調べた。
大きさはばらつきがあり、今現在確認されているものでも最小クラスの機体は五メートルほどで、最大にもなれば百メートルを優に超えるらしい。
技術力とお金が無ければ作れない超大型マシーンであり、それに乗る人間は所謂、金持ちのようだった。
何とも羨ましい限りであり、俺は本当に此処で稼げるのかと疑問に思いそうであった。
「……メカニックに依頼して作るか。パーツを買って自分で組み立てるか……うーん。パーツは細かすぎで分かんないなぁ。此処は多少費用が掛かってもメカニックに依頼するべきだな。誰が良いんだろう」
俺はメカニック一覧なるものを見た。
そこにはずらっとメカニックの名前と簡単なプロフィールが書かれていて。
何とレビューなども書かれて、彼らは飲食店のように星で評価されていた。
レビューが多く星が沢山あるメカニックは有名な人たちのようで、依頼は半年以上も待たないといけないらしい。
一方で星があきらかに低かったり、無名のメカニックは依頼がほぼなく空き状態らしい。
本来であれば、星の多いメカニックに依頼するのが最も安全だろう。
しかし、そんな有名な人間に作らせたら依頼料もバカにならないだろうなぁ。
「……星の低いのはスルーで。無名の中から、磨けば光る原石を……いないよなぁ。ん?」
指でスクロールしていけば、明らかに異彩を放つ人間がいた。
名前はゴウリキマルで、自己紹介文は『金さえ払えばどんなものも作ってやる』という挑戦的なものだった。
性別は不詳であり、メカニックの登録日を見れば、まだ一月も経っていなかった。
俺はもしかして、この人物が磨けば光るダイヤの原石ではないかと思った。
早速メッセージを飛ばして、依頼をしてみようと考える。
「えっと……初めまして、メリウス一機の製作を依頼したいです。送信――はや!」
送信を押して三秒も待たずに連絡が返ってきた。
その内容は簡素なものであり、どんな機体が欲しいのかというものだった。
俺は考えた結果、一番速い機体を作ってくれとお願いした。
どんなゲームであっても速さは重要で。
相手の攻撃が一発も当たらなければ、火力の高さなど意味をなさない。
どんなに防御力が低くとも、ただの一撃も当たらなければ勝てるのだ。
だからこそ、俺はそこまで深く考えずにそんなことを送った。
すると、すぐに返事が返ってきた。
「……速ければいいのか、って? あぁ、まぁ速かったらいいか。とにかく速い機体をお願いしますっと――きた」
《見積もりを作る。すぐに出すから待ってろ。それと、出来たものにケチ付けるなよ》
「ケチはつけないと思うけど……まぁボーナスも入ったし、それで作れると良いなぁ」
俺は甘い考えで、依頼を出してしまった。
後悔するかは分からないものの、楽しい人生が待っている気がした。
|||
ゴウリキマルさんから見積もりを送られて、結構安いと思う額に驚いた。
俺は二つ返事でそれを承諾して、一週間ばかり待てば依頼したメリウスのデータが届いた。
型式番号TMU-12S『紫電』という名で、見た目は線の細い黄色を基調とした機体であった。
全長は15メートルほどであり、基本武装は両手に装備する黒光りしたハンドキャノンらしい。
丸みを帯びた形状は空気抵抗を減らすためで、頭部の耳の部分にはセンサーと通信の両方を兼ね備えたアンテナが取り付けられていた。
胴体は少しだけ前に突き出して、足は細くしなやかで使われた鋼材は最も軽く耐久力がそれなりにある物を使っているらしい。
背部のスラスターはサブが肩部に二つと中心から延びるメインが一つである。
仕様書によれば最大稼働時間は約三時間であり、戦闘状態を継続した場合は大体が一時間ほどらしい。
莫大なエネルギーを必要とする機体のようで、逐一、エネルギーは補給しておけと書かれていた。
ゴウリキマルさんは俺が初心者であると知っていたようで、エネルギーを補充できる店も教えてくれた。
後は、機体のメンテナンスをするなら絶対に自分のところを使えと言われて。
俺はそれを了承して、早速、仮想現実世界にあるデモンストレーションルームで練習を始めた。
最初の一回は散々な結果であった。
機体を上手く操縦できず壁に激突して。
二回目は機体の操縦に意識を集中して敵に撃ち落された。
三回目からはそのどれもに気を使って、俺は徐々に成長していった。
練習の回数が十回目を超えた頃。
俺はようやく納得のいく操縦が出来るようになっていた。
手足のように、まではいかないものの。
それなりに紫電を操縦出来て、弾も十発の内八発ほどは当てられるようになった。
俺は手ごたえを覚えて、もっと練習を積もうと思った。
「……でも、これって難易度の設定ってどうやるんだろ? 空いていた部屋が此処しかなくて、その上故障中って書かれてたけど……一応は入れて戦えてるけど、この難易度のところが“chaos”ってのは何なんだ?」
倒されたら復活してもう一度戦い。
敵を倒したかと思えばすぐに敵が復活する。
天候は荒れに荒れた大嵐の中であり、視界はほぼゼロの状態であった。
影すら見えにくい戦場の中で、俺はセンサーにも惑わされずに自分の勘で敵を叩いていた。
残弾数が減れば、下へと急速降下して弾薬パックを探す。
弾を補給すれば、再び敵と交戦してドンパチやって――何時終わるんだ?
終わりが見えない練習であり、制限時間も書かれていないのだ。
俺はどうしたものかと思いながら、戦いを続けて。
もしもこのまま、出勤時間まで戦わされた時の事を考えて青ざめた。
一日でも無断欠勤をすれば最悪の場合、工場を辞めさせられる恐れがある。
それだけは嫌であり――俺は目を鋭くさせた。
「出てくる敵をすぐに倒す。全部倒すまで戦う。時間との勝負だ。やるぞ」
スラスターを噴かせながら敵へと突っ込んでいく。
奴らは蜂の群れのように襲い掛かって来て。
俺はハンドキャノンを構えながら、猛然と敵をせん滅していった。
もしも此処を出て戦場に出れば――俺は何かが変わる気がした。
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