第40話 防衛の後で
志郎は立ち上がって、レジス神父のところへ向かう。神父は衛兵ふたりの治療を終えて、今後のことを話し合っていた。
「神父さん、おれたちはこれから他の地区の魔族を迎撃に行きます」
「わかった。ぐれぐれも気をつけておくれよ。この場は私たちでなんとか守ろう」
「そのことですが、神父さんに渡しておきたいものがあります」
志郎はペルストーンを取り出して、レジス神父の胸元へ持っていく。
――『神秘の草花』、
ペルストーンが輝き、その光が神父の体に吸収されていくように消える。
「志郎くん、今のは?」
「神父さんに『神秘の草花』という神性技能を移植しました。元はペルシュナがラバンに与えた、どんな毒でも薬でも好きなだけ作り出せる能力です。神父さんなら、やつよりずっと相応しい」
「ラバンの能力を、奪い取っていたのか」
「神性技能を心ある人に再分配するのは、おれの使命のひとつです。その力で、ここにいるみんなを守ってください。攻撃にも、治療にも使えます」
レジス神父は避難してきた人々を一瞥してから、深く頷く。
「わかった。女神の恩寵として、ありがたく使わせていただこう」
「お願いします」
それから志郎はそばにいた衛兵に握手を求める。
「お礼が遅れました。救援に来てくれて感謝します」
衛兵は握手に応じてくれる。ふたりのうち、昼間教会に来ていたほうだ。
「いいえ、こちらこそあなたには命を救われている。それに、サルーシ教には以前から疑問を抱えていた。行動するきっかけをくれたのはあなただ。共に戦えて光栄です。俺はクレス」
続いて、もうひとりの衛兵とも握手をする。
「マットだ」
「おれは志郎。この場はお願いします」
ふたりの衛兵にも神性技能を預けておきたいところだが、残るは『
まず『瞬間加速』はダメだ。転生者でも扱いに苦労する。普通の人間が使いこなすには訓練が必要だ。いきなり実戦に使えば確実に事故を起こす。
自分が傷つくことが前提の『君の痛み我が痛み』も難しい。少数との戦いなら強力だが、集団戦でひとりやふたりに負傷をコピーしたところで大した戦果にはならない。剣で攻撃したほうが手っ取り早いだろう。
『鋼鉄の胃袋』と『百発百中』なら使いこなせるだろうが、役に立つかはわからない。今のところ敵は毒を使っている様子はなく、こちらには飛び道具がない。どちらの神性技能も充分に活かせるとは言い難い。
だったら、また転生者と戦うかもしれない志郎が持っていたほうがいい。どんな神性技能を持った敵が来るかわからない以上、切り札は多いほうがいい。
それに、あれだけの数の魔族を蹴散らしたのだ。再びここに攻めてくるというのは考えづらい。なにかあっても、あの強力な『神秘の草花』があれば充分だろう。
そう結論を出して、志郎はペルと政樹のもとへ戻る。鏡子はすでに戻ってきていて、準備もできている様子だった。
しゃがんでペルに視線を合わせる。
「ペル、力を使うなとは言わないけど、力尽きて消えたりはしないでね」
「わかっています。この先、もっとたくさんの人を救わねばならないんです。ここで力尽きてしまうわけにはいきません」
「それに、おれは君を失くしたくない。約束するよ。今回も絶対に帰ってくる。だからペルも、いつもみたいに出迎えて欲しいんだ」
微笑んであげると、ペルはこくこくと小さく頷いた。そっと身を寄せてくる。志郎は優しく受け止め、ペルの背中をぽんぽんと叩いてやる。
「……約束します。だから、必ず帰ってきてくださいね」
身を離して、ペルも微笑みを返してくれる。
それだけで体の底から力が湧いてくる。
志郎は立ち上がり、政樹と鏡子に目を向ける。ふたりは頷く。
「待たせたね、行こう」
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