弱肉強食の爺さん
純川梨音
弱肉強食の爺さん
ここは筋肉至上主義の弱肉強食が公然とされている街。弱いやつは金ぶんどられても文句言えねえし、言う資格もねえ。理由はカンタン、「筋肉の強さがすべて。筋肉の強いやつが正義」ってな。
俺の名前は力石レン、ダンベル上げが趣味。毎日200キロのダンベルを持ち上げている、スゲェだろ!もう俺の故郷には俺以上に筋肉が盛り上がったやつはいねえ。それでこの街に来た。
俺は今日も街を練り歩き、さっそくそこらにたむろしていた連中をのして金をぶんどってやった。ここ数日で結構稼げた。この街でも俺に敵うやつぁいねえのな、楽勝だぜ!
おっと、目の前に爺さんだ。こんな街にも老人ているもんなんだな。齢食った老人らしく背はちっちぇえし、体つきも細い。
ついでに爺さんの身なりはこの街の住人にしては小綺麗だ。金持ってそう。命知らずだな。この街のルールを知らねえのか。
なんでこの街にいるのか知らねえが、俺の目にとまるような場所にいたのが運の尽き。あんたの持ってる金、ぶんどらせてもらうぜ!
俺は右腕を大きく振りかぶり、爺さんの顔面に拳をねじ込みにいった、はずだったんだが。
気づいたら、俺の拳の先に爺さんはいなくて、俺はガクンと右膝をつくように体勢を崩されていた。爺さんは俺の右腕を掴んで、立ってすましている。
面食らう俺に、爺さんは言う。
「ホッホッホ。今まで筋肉を目的もなく鍛えとったんじゃろうのう。むやみにダンベルばかり上げておったとみえる」
「なにをエラそうに!」
俺はもう一度、今度は左腕をジジイのどてっ腹にぶち込もうと立ち上がろうと右膝を立て直そうとしたが、そこへジジイは俺の右腕を突っ張り棒のようにして、俺に押し付けるように向かってきた。
「それではムダに分厚くなった筋肉が邪魔してろくなスピードで動けまいて」
俺は完全に尻もちをつき、その隙にジジイは俺の右腕を挙げさせるような形で右脇を抱えるようにして、さらに左手を首に回してきて俺の襟首を掴み、絞め上げにきた。
「俺の筋肉がこんなか細いジジイに敵わねえ訳ねえ!」
俺は全力で抵抗する。しかし、ジジイが自分の膝を押しあて、後ろに向かって絞め上げに来ているので、つっぱられるようになり立ち上がれない。
右腕は挙がったまま、ジジイの右腕が脇に入っていて、どういうわけか外せない。ジジイの枯れ枝のような腕とは思えない固さだ。
俺は左手でジジイの左手を引き剥がしにかかるが、俺の襟首を掴んで親指で俺の頸動脈を、右腕も使ってどんどん絞めてくる。こちらもびくとも動かせない。
気づくと俺は道のど真ん中で仰向けに寝転がっていた。
ポケットをまさぐり、サイフを確認する。
ウソだろ。たった一枚の紙切れだけが入っていた。
「ここは筋肉至上主義の街じゃからの。若人から生活の足しをとりあげるようで気が引けるが、授業料としてもらっていくぞ。最後にジジイの老婆心ながら、筋肉は鍛えるものでなく、使うことで自然と強くなっていくものじゃ。まあ、この街で精進するが良い」
なんだったんだ。
ただひとつ確かなのは、俺の筋肉が、爺さんの筋肉を前に敗北を喫したということだけだった。
弱肉強食の爺さん 純川梨音 @Sumikawa_Rion
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