マッスル・エンジェルorデビル

七霧 孝平

筋肉は剣より強し

とある屋敷。


遠くから見ると普通の豪華な屋敷は、

初めて訪れる人が近くで見ると驚く。


豪華な飾りと思われているのは、

あまり知られていないトレーニンググッズ。


そして屋敷の主は……。


「フンッ! ……フンッ!」


上半身裸で、重りを持ち上げている屋敷の主。

貴族とは思えないその姿。

そして何よりもすごいのは、その圧倒的な筋肉であった。


「ふう、今日の鍛錬はこのくらいにしておこう」


主は重りを地面に置くと、服を着て屋敷へと戻っていく。

その見た目を除き、主は普段は町の良き領主であった。


鍛錬を終えると、書類の確認や町人からの便りを確認する。

そのいくつかを見て主は顔をしかめた。


「××国の軍が我が町にも顔を出している……か」


××国は、主の町のある〇〇国に攻めてきている国であった。

主の町は戦場から離れており安全だったのだが……。


「少し町に出てみるか」


主が屋敷から出ると、丁度よく町人が数人駆けてくる。


「ああ、主さま! ちょうどよかった!」


「む? 皆して、どうかしたかね」


「と、とりあえず助けてほしいんです!」


町人たちはそう言って、主の手を取り駆け出した。



「おうおう! この町は俺たちが貰った!」


××国の兵士が数人、街中で暴れまわっている。


「や、やめてください……!」


勇気を出して叫んだ町の女性。


「なんだてめえ!」


だが火に油。兵士は怒り女性に剣を振りかざした。


「やめてもらおうか」


女性に振り下ろされようとしていた剣。

それを主は、片手で受け止めていた。


「な、なんだてめえは!?」


「で、でかい!」


さすがの兵士たちも、主のその風貌に気圧される。


「ここの主だが?」


「主? てめえがか!」


兵士の隊長と思われる男は、

これ幸いとばかりに剣を構え……ようとして、

主に剣が掴まれたままなことに気が付く。


「は、離せっ!」


「ほれ」


主が手を離すと、隊長はバランスを崩すが、すぐに笑った。


「馬鹿な奴! 死ねっ!」


主に振り下ろされる剣。

周りの兵士たちも槍で主を一斉に突きに行く。


「ムンッ!!」


主の雄たけびとともに膨れ上がる筋肉。

筋肉の膨張か、兵士たちの武器のせいか、主の服が破け吹き飛ぶ。


「な、なにぃ……!?」


兵士たちの武器は、主の筋肉が全て防ぎとめていた。

兵士たちどころか町の人たちも驚いている。


「それで終わりかね?」


主は、防いだ剣、槍を掴み抱えると、

兵士たちを軽々と持ち上げ、町の入り口に運ぶと投げ捨てた。


「もうこの町に手を出さないでもらおうかね?

またこんなことをするようであれば……」


主は、兵士の剣を掴むと――


「フンッ!」


剣は粉々に握りつぶされた。


「ひ、ひえ~っ! もう来ませんーっ!」


隊長が一目散に逃げだし、他の兵士たちも続いて駆けていく。


「あ、ありがとうございます! 主さま!」


「さすが主さま!」


町の人たちの喜びの声を聴きながら、主は屋敷に帰っていく。


町の人たちはこれ以降、

主のことを『マッスル・エンジェル』と呼んだとか呼んでないとか。


一方、逃げ帰った兵士たちの情報で、

この町には『マッスル・デビル』がいると噂になったとかなっていないとか。


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マッスル・エンジェルorデビル 七霧 孝平 @kouhei-game

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