390°の遺影
夜 魚署
第1話
地肌に触れる夜の空気は、纏わりつく様な、確かな粘度を表現し。
汗、雨、涙。血もあったか。無秩序に調和した液体が私の体躯を這い回る。気持ち悪くて堪らないが、同時にこの汚らわしい水こそが私の身体を綺麗さっぱり洗い流してくれる気がして。ほとんど自棄になり、私は全てを受け容れていた。しかし、あるいはそれは、ただ自分が酔っていただけかもしれなかった――可哀想で不細工な造形の、酷く陳腐なヒロインごっこに。
思考は既に飽和していて、もし精神の状態を表す心電図があれば、異常な振れ幅を示し、故障を疑われることだろう。壊れているというのは強ち間違いでもないが。
だから私は、理解を辞めた。理解をする努力を諦めた。理外にある状況はきっと、不出来な脳には荷が重いから。「その代わり、死ぬ気で走るよ」誰に言うでもなくそう呟いた。あるいは嘯いた。散り散りに千切れ征く思考は、後方へ流れる多くの視覚情報とよく似ていたと思う。
心臓が叫ぶ。止まってくれと。苦しいと。痛いと。全力で訴えてくる。
黙れよ。叫びたいのは私の方だ。お前は黙って、この四肢に動力を回してればいいんだ。
何時しか、かつての汚水は完全に沸き立っていた。
純粋な熱さに、自分は怒っているのだと気付かされる。この熱量を冷まし得る存在とは、時間の経過であろう。以外に想起出来るものは無かった。
だからこそ、私は願う。
夜よ、決して闢けるな!
390°の遺影 夜 魚署 @yorushi_ra
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