14.依存しているのどっち
「ごめんね。ディア。式場では傍にいられなくて」
式場までクラウディアと共に来たが、僕のように上位貴族は上座が基本だ。
さらに、式典では新入生代表として殿下のスピーチがあり、壇上には僕も側近として上がる。
面倒だからアンドレに任せたかったのだが、生徒全員を正面から確認できる機会でもあるので仕方がない。
出来るだけ手短に済ませたいので、ビンセントの起案したスピーチ内容の無駄な箇所は削っておいた。
「大丈夫ですわ。カイル様。それより、殿下のスピーチで倒れる人が出るのではないか心配ですわね。あのキラキラ超絶スマイルビームでどれだけの人がやられるか・・・、バッタバッタと倒れる人が続出するんじゃないかしら・・・。特にご令嬢方・・・」
ビームって何?
とりあえず、ちょっと発言を控えようか。
我が国の王子は何者?ってことになるよ?
「・・・そうだね・・・。まず、君が倒れないか心配だよ、僕は」
「だ、大丈夫ですわ、殿下を直視しないようにいたします! ああ、サングラスを持ってくればよかったわ。そうすればいくら眩しくても拝顔し放題なのに・・・」
なんか、ちょっとモヤっとするんだけど・・・。
君が好きなのは僕だよね?
「あ、でも、サングラスをしていたら、カイル様の雄姿がよく見れないから、それはダメだわ・・・」
それは僕は眩しく無いってことかな?
分かってるよ、どちらか言うとどす黒いからね。サングラス掛けたら全然見えなくなるでしょうね。
「それに、どうせすぐカイル様のことしか見えなくなるのだから、目がチカチカするのなんて一瞬だわね」
ブツブツ呟くクラウディア。
・・・まあ、いいか。
★
お陰様で、殿下のスピーチ中、彼のプリンススマイルに倒れる生徒はいなかった。
寸前までいった生徒は結構いたけど。
式が終わると、各自、自分のクラスへ向かう。
ビンセントとアンドレと僕は別のクラスだ。まあ、護衛的には一緒のクラスの方が面倒臭くなくていいのだが、貴族子息のスリートップが同じクラスに固まるのは良くないと判断した。
僕らが常にビンセントの傍で圧をかけていては、彼も新しい交友関係も作りにくいだろうし、何よりビンセント自身で信頼できる人脈を作ってもらうことも大切だ。
護衛なら騎士の子息も側近として配置しているし、さらに、僕個人の影も数名潜ませているので、問題はないだろう。
もちろん、各々の婚約者は同じクラス。心なしかリーリエ嬢が少しうんざりしている様に見えるのは気のせいかな?
そして、当然、クラウディアは僕のクラスで席は隣であるのは確定している。
つい今朝まで、距離を置こうと思っていた男のやる事ではないね。今更ながら気が付いたけど、ここまで仕込んでおいてどう距離を取るつもりでいたんだろうね、僕は。
だが、新しいクラスで、早速小さな事件が起こった。
全生徒が席に着いた後、担任が教壇に立ち、軽く挨拶をした。
そして教室をざっと見渡して、こう言ったのだ。
「クラウディア・ロイス嬢、そのお席では黒板が見えづらくないですか?」
中年男の担任は眼鏡をくいっと持ち上げながら、気の毒そうに彼女を見た。
確かに彼女は背が低い。比例して座高も低い。
反対に僕はどちらかというと高身長。そして、出来たらクラス全体が見渡せる後ろの隅の席を陣取りたい。それに付き合わせてしまったが故に彼女の席も後ろだ。
「はい! そうですの。私、背が低いものですから潜ってしまいまして。皆様のお背中しか見えませんわ」
彼女はピョンと立ち上がると、そう答えた。
可愛らしい回答が、クラスにほんわかした笑いを誘う。
「では、一番前の席に移動しますか?」
ちょっと、先生、何言ってんの?
こっちでクラウディア専用の椅子を用意するから大丈夫だから!
「よろしいのですか? お心遣いありがとうございます!」
彼女はちょこんと頭を下げた。すると、一番前の席の子女たちが一斉に手を挙げる。
「私が代わりますわ!」
「いいえ、私が! 喜んで!」
「私、背が高いんですの。後ろの方にご迷惑ですから、是非私が!」
「まあ、いい人ばかりですのね! ありがとうございます!」
彼女たちの思惑など気付きもしない天使は、にっこりと微笑んでいる。
かくして、彼女は僕を捨て置き、一番前の席へ旅立って行った。
「よろしくお願いしますわ! カイル様! 以後お見知り置きを! わたくし・・・」
僕の隣を獲得した令嬢が満面の笑みで売込みの挨拶をしてくる。
「うん。こちらこそ、どうぞ宜しくね」
僕もビンセントとまではいかないまでも、にっこりと完璧な笑顔を見せた。
彼女の目がハートに変わるのが分かった。ちょっと、やり過ぎたかも。
それにしても、この担任、飛ばしてやろうかな。
まあ、クラウディアの為を考えてくれたわけだから我慢するか・・・。
そもそも一番後ろの席という事に無理があったわけから。彼女の座高からして。
しかし、これではっきりしたことがある。
彼女が僕に異常なまでに依存していると言っていたけど、そうでもなかったこと。
それどころか、僕の方がずっと重症だということ・・・。
はあ~・・・。
今日は一日でいろいろな気付きがあったな・・・。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます