13.シフトチェンジ

クラウディアに気付かされて、長年考えていた僕の考えは、一瞬にして180度変わった。

何が何でもクラウディアを手放さない。手放すものかと。


血塗られた悍ましいランドルフ家の息子だが、天使を娶って何が悪い!

悪魔が天使に恋をして何が悪いのだ!

常に危険が伴う我が家だからって、十分な策を講じればいいことなのに!

何を最初から諦めていたんだろう? 僕は!


「あ、あの、どうしました? カイル様!」


頭を抱えて悶絶している僕に、クラウディアは恐る恐る声を掛けた。


「いや、何でもないよ。クラウディア。自分の愚かさに呆れていただけ・・・」


「え?」


僕はゆっくり体を起こすと、しっかりとクラウディアに向き合った。


「ねえ、クラウディア。先の未来はまだ分からないよ。確かに君の予言通りになれば、僕はヒロインに巡り合って恋をするんだよね? 君はそうなって欲しいの?」


「え・・・?」


「物語がそうだからとかではなくて、君自身は僕が別の人と恋に落ちてもいいと思ってるの?」


「・・・そ、それは・・・」


「ねえ、クラウディア。僕は君に好かれていると思っていたけど、違ったのかな?」


「何をおっしゃっているんですの!? 違いませんわ! 大好きですもの!」


彼女は真っ赤な顔で怒ったように叫んだ。


「良かった。捨てられるかと思ったよ、僕」


「捨てるなんて! 私がカイル様を捨てるなんて! どうしてそんなこと!」


「だって、そうでしょ? 僕のことが嫌いになったから他のご令嬢と引き合わせて上手くいくように目論んでいるみたいだよ?」


「な、な、何でそんな風に! 違いますわ! カイル様は本当にヒロインと恋に落ちますのよ!」


「ふーん。それはどうかなぁ?」


僕はちょっと小馬鹿にしたように腕を組んでクラウディアを見た。


「ほ、本当ですのよ! 私、命賭けますわ!」


「そんなことに命賭けちゃダメでしょ・・・」


「だってぇ! 本当なんですもんーっ!」


クラウディアはプクーっと頬を膨らませてプイっとそっぽを向いてしまった。


「じゃあ、そうだな、クラウディア。僕も命を賭ける。絶対にそのヒロインと恋に落ちないって」


「はい?!」


「僕は君の物語の通りに動く気はないってこと。彼女と恋をするつもりはない」


「でも・・・」


「そうだな~、たった今、命を賭けたわけだから・・・。間違ってヒロインに恋に落ちてしまったら、その時は僕の命は君のものだよ」


「え?」


「煮るなり焼くなり好きにして。自由にしてくれて構わない。だってクラウディアのものなのだから」


これで万が一恋に落ちても僕は君のものだ。


「クラウディアも約束だ。僕が恋に落ちなかった場合、君の命は僕のものだよ」


そう、君の命は僕のもの。今後、僕は全身全霊で君を守る。


僕はクラウディアの手を取った。


「ここに賭けは成立したよ。よって、君の勝手な要望は受け入れない。だから、明日からも僕と一緒に登校すること。いいね?」


「で、でも・・・」


口ごもる彼女の手を、僕は自分の口元に持って行く。

そっと唇を落とすと、彼女は真っ赤になった。


「いいね? ディア」


「! ディ、ディア?!」


突然の愛称呼びに、彼女はピョンっと飛び上がり、さらに顔が赤くなった。

ずっと呼びたかった名前だ。


「うん。ディア。分かった?」


彼女はコクコクと必死に頷く。


「じゃあ、『もう迎えに来るな』なんて言わないね?」


コクコクコク。


彼女の可愛らしい仕草に思わず頬が緩む。

僕は何度も頷く姿にホッとして、やっと彼女の手を解放した。





学院に着くころには、クラウディアの笑顔もいつもの可愛い笑顔に戻っていた。

ただ、泣き腫らした後の目の隈は消えない。入学日早々可哀そうな顔をさせてしまった。


馬車から降りて門に向かう。

上位貴族はこの年齢で婚約者がいるものが多い。それぞれ相手を伴い、入学式の会場へ向かっている。

その中でも一際目を引くカップルがいた。


ビンセント王太子殿下とリーリエ侯爵令嬢。


恐ろしいほどの美男美女カップルが、学院中の生徒の羨望と尊敬の憧れの眼差しの中、優雅に歩いている。発しているオーラがまあ凄いね。

ビンセントはいつものように優しい笑顔を振り撒きながら歩いている。

だが、自慢の婚約者をエスコートしているからだろう。その顔が若干ドヤ顔になっていることに気が付いているのは、きっと僕とアンドレだけだろう。


チラリと僕の婚約者を見た。


「目が・・・潰れる・・・。二人並ぶと威力が半端ない・・・。無敵かっ・・・!」


彼女は目を覆い、悶絶していた。


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