隔つ闇…22

「で、うちの八郎ぼっちゃまは何かしでかしたというのですか?」

「いえ、前に私と一緒にいる時に浪士を見つけて斬り伏せたことがありましてね、番所にも届けているのですが、それがいかんと…。」


「番所からは確認が来ていましてね、京は物騒だと話には上りましたが、どこからも咎めはありませんでしたよ。反対にさすが八郎おぼっちゃまだと…」


忠内さんは普段呼んでる通り『八郎おぼっちゃま』と呼ぶことをためらわなくなっていた。

「それがいけなかった… いや、ひでさ… いや伊庭… いや八郎君は悪くないのです。私といたのがいけなかったみたいで…」

「それが原因ですか?」


「もう会うなと言われました。会うところを見たら切腹だと。私はかまわないですが

秀頴… 伊庭じゃないやあの…」

「あのぉ沖田さん、いつも八郎おぼっちゃまを『秀頴』とお呼びですか?」

「あ… はい」

「で、ぼっちゃまは諱を呼ぶことを許していらっしゃるのですね?」

「でも、それは二人の時だけで人前では『伊庭』と呼ばせて貰っていて、諱を人前で呼ぶことはありません」

「それなら良いのですが、ぼっちゃまが認めていらっしゃるというなら本当に仲が良いということですね」

「今となっては仲が良かった…です。秀頴に腹を切らせては先代に申し訳が立ちません。先代の墓に誓っておきながら、色恋沙汰で切腹など…」


しまった。何も知らない忠内さんに本当の本当のことを言ってしまった。

気づかずに過ぎてくれればいいのだが…。


「色恋…?? まぁそれはさておき、要するに八郎ぼっちゃまに切腹をさせないために絶縁したのだと… そういうことですね?」

「あ… まぁそういうことです」

「おかしいですね…」


何がおかしいのだろう? 俺は何か間違えていたのだろうか?恐る恐る聞いてみた。


「おかしい… ですか?」

「切腹の御沙汰など聞いたことはありません。何かの間違いでは?」

「いや確かに京の幕臣の3名の方々が来て、会ってるところを見たら切腹だと…」

「何故そんなことに?」

「私達が無抵抗の浪人を斬り殺したという詮議で…」

「ありえない!! こちらの責任者も私も知らないことだ。それはおかしい!!

ましてや、京の人間に八郎おぼっちゃまを詮議し罪人扱いにするとは許せん!!」


「私といたのがまずかったのだと思うんです。私が縁を切れば…」


「罪咎もない八郎ぼっちゃまが誰と付き合っていようが構わないことです!!

沖田さんのせいではありません!!」


「ということは、あの一件は…どういう?」

「京の連中の悪巧みでしょう。ただ、内密に話しをしているようですから、こちらも大々的に抗議するわけにはいきませんが、彼らにそんな権限はありません。すぐに現状を変えるのは難しそうですが、時間が経てば解決しますよ。いえ、八郎おぼっちゃまの為にも解決する様に、この忠内が働きかけます!!」


「忠内さん。ありがとうございます。」

「いえ、私は先代からお預かりした八郎おぼっちゃまの為に動くのです」


「いえ、それが有難いのです。秀頴に近しい方と判った時に、この一件で怒りをかって私を斬りに来られたのなら、甘んじてうけてもいいと思っていました」


「沖田さん。実は私も貴方から話しを聞いて、その内容によってはお命頂戴するつもりでした。

でも、そんなことをしたら、この忠内がお坊ちゃまに腹を切れといわれそうです。

沖田さん。今はお辛いでしょうけど、きっとお二人は会えますから、

それまでご辛抱下さい。八郎おぼっちゃまにも叱咤激励しておきますから」



とても強力な味方がいたようで嬉しくなった。



「忠内さん、ありがとうございます」そう言って走り書きを渡した。

「えっ? つけ文ですか?」


「いえ、今は表立って会うわけにも文を出すことも許されないので…。秀頴に紹介しようと思っていた甘味処のお店です。どうぞ連れていってやって下さい」


「沖田さん… 八郎坊ちゃまに仕込まれてますね」


忠内さんは大笑いしている。秀頴の尻に敷かれてるのがバレたようだ。


そして、少しずつ今回のこの一件の真相が見えてきた。

だが、京の幕臣に押さえ込まれた不甲斐ない新選組のお歴々は抗議もできず

反論もできず、俺を濡れ衣だとかばうこともしてはくれないことに変わりはなかった。

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