隔つ闇…20

表の気配が… 秀頴の気配が消える。


「もういいぞ」


歳さん、いや新選組・副長の声がする。

押さえ込まれた腕から力が抜けていく。それはことが終わった印。


全てを解放されても起き上がる力はなかった。


「総司。起きろ! みっともねぇ」

「みっともないだと? うるせぇよ! みっともないならほっておきゃいいだろう!」

「新選組の一番隊を統べる奴がこんな体たらくじゃ困るんだよ、沖田君」

「そうそせたのは、副長あんだだろう!!ちゃんとして欲しけりゃ返せ!」


副長はきょとんとした顔で俺をみて言った。

「返す? 何をだ?」

「秀頴だよ! 俺の秀頴を返せ!! 返しやがれっ!!」


副長は一瞥して去って行った。


何を言っても無駄と知っている。でも言わずにいられなかった。

諦めて部屋に戻った。抜け殻の様にボーっと座り込んでいた。


「宗次郎。開けるぞ」


その声と共に左之さんが入ってきた。


「左之さん?」


「宗次郎… ほら、飲め」


そう言って大きな酒の入った壷を押し付けてきた。


「買ってきてくれたのかい?」


「あぁ、そうだ」

「左之さんが?」

「いや、違う」

「じゃ誰が?」

「さっきの表の騒ぎは知ってるか?」

「うん」

「そいつが俺に押し付けてきたんだ、毒を入れた酒だと困るからお前にやるよ」

「左之さん…」


それだけ言って左之さんは俺の部屋から出て行った。


秀頴からの酒の差し入れか… 秀頴… ご免、ご免よ…。

酒壷を抱いて泣き明かした。




   ★,。・:*:・゜☆,。・:*:・゜★



秀頴を失って数日。何をどうして過ごしたのか、隊務は支障なく完遂する様に体は動いているが、全く記憶にない。


寝てもいない、食べてもいない、ただ酒を煽ってるわりには元気だと笑った。



そんな折、また見知らぬ訪問者が来た。


忠内? 誰だろう?


門番からの話しだと、江戸から来たお旗本の人らしい。秀頴の上司か?

またもお小言を頂戴することになるとかと、覚悟して表に出た。



「あぁ、沖田さんですね?」


よく知った人を見る様な反応だ。


「はい。沖田は私ですが、どこかでお会いしていますか?」


「もちろん、私は… あぁちょっと外でゆっくりと話しをしたいんですがね…」


名乗らないことを不審に思ったが、見る限り怪しそうな風ではなかったし、刺客の様に今にも斬りかかるといった雰囲気でもない。でも剣の腕は確かなことは、隙の無さで察することができた。


二人でどこかの座敷へでも入る方がいいのか思案していが


「まぁ歩きながら話をしましょうか?」


と言われたので


「寒いのは大丈夫ですか?」


と聞き返した。秀頴なら寒いのは苦手だからつい確認してしまうことだった。


「私は大丈夫ですよ」



「そうですか。で、忠内さんとやらが私に何のご用でしょうか?」

「伊庭君のことで聞きたいことがあります」


やっぱり秀頴のことか。今度は江戸のお旗本からの苦情か…。

腹をくくって話しを聞くことにした。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る