都にて…5

三通目の内容は、こうだった。


   ★,。・:*:・゜☆,。・:*:・゜★


あいだの文



沖田総司房良様



その後、お変わりなくお過ごしでしょうか


先だってご隠居さんのところで、井上の兄上様にお目にかかりました


京、大阪での皆様方の様子もあれこれ聞かせてもらいました

近藤さんは少し変わられた由

気にかかります


暑い盛りですし、無理されませんように



追伸


大阪の天神は美しく、たおやかなんだそうですね

よろしゅうございました


ヤキモチを妬いているわけではありません



伊庭八郎秀頴


   ★,。・:*:・゜☆,。・:*:・゜★



ほうほう。あいだの文?

俺の諱まで入ってる。えらく丁寧な文章だねぇ。


井上の兄さん(あにさん)に会ったのかい。

少し前にこちらに来てらしたものねぇ。

一緒にあちこち連れて行って貰ったっけねぇ。


あの時、兄さんはなにも言わなかったけど

近藤先生のことは、兄さんにも判るくらい違ってたのか。

本人が早くそれに気づいてくれたらいいんだけどなぁ…


追伸っと… えっ!? ええっ?! 大坂の天神??


「うわぁぁぁぁ!!」


兄さん、なんてことを秀穎に言っちまったんだよ!!

あまりの驚きに大声を出していたらしく、隣の部屋の左之さんが

慌てて部屋に入ってきた。


「なんだ? どうしたんだ宗次郎? 何があったんだ?」


こうなったら仕方ない。秀穎からの文を見せる。


「ほほぅ。お前の大事な若様からの文か… で、どうした」

「最後まで読んでみて下さいよ」


「… 追伸 大坂の天神は美しくたおやか… あははは。浮気がバレたか!!

こりゃ面白いや」

「左之さん… そんなに喜ばなくても…」

「こんな面白い話はないぜ。本当にお前さんは若様には弱いなぁ」

「はいはい。そうです」本当のことだから否定もできゃしない。


「たまにゃさ、大きく出てみちゃどうだい?」

「大きくでる?」

「そうだよ。天神は吉原と同じだ!!浮気になりゃしねぇ!って開き直る」

「それで納得すると思いますか?」

「いや」

「だったら、そんな方法薦めないで下さいよ」

「痛い目みるのはお前だから、俺は平気だ」

「左之さん… 秀穎に耳引っ張られたこと無いから言えるんですよ。

あれは本当に痛いんだから…」

「そんな事をされるのは、お前だけ。俺はされやしないさ」


左之さん…。本当に無責任だったらありゃしない。



あぁそれにしてもマズイ。皆で大坂に行って羽目を外した時の話だ。

でも折角の大坂だし、皆で行ってるし断れない。


この際、天神はそりゃそりゃ美しく、たおやかだったと

開き直ってみたら… 想像するだに恐ろしい。


この文面はヤキモチではないね。確かにヤキモチではない。

こりゃ怒りそのものだろう? そうだよねぇ?

そう考えると文章が丁寧な分、秀穎の怒りは強いってことだよね?

あぁぁ… どうしよう。どうしたらいいかな。



傍にいれば、顔をみて話も出来るのに、この距離がもどかしい。

心配させたくはないし、その怒りをきちんと受け止めたいのに…。


「宗さん!! そこに座って!!」と叱られたり

耳を引っ張られて座敷に連れて行かれることも、今では懐かしい。

また、そんな時間が持てたらいいのに。


そう願っていた俺に、秀穎からの三の文の返事が届いた。


  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る