小さな夜の子

@chirorineko38

第1話 金魚とクリームパン

「え ?

 本当に僕の彼女になってくれるの?」


野球部に所属している彼は

シャイな性格で、いつも

色々な事にプレッシャーを感じていた

恋愛には奥手

ずっと片思いしていた

年下の彼女に

この日、告白をした


やっとの思いで気持ちを

伝えられ

彼女の答えを聞き

溢れる、満面の笑顔で

彼女に喜びを伝えた


「死んでもいいくらい嬉しい!」


春を迎える季節

屋上に吹く風は

心地よく肌にあたり

2人だけを優しく包んでいる


・・・そんな、オーバーですよ先輩っっっ・・・


大好きだった先輩から告白をされ

女子高生は恥ずかしく

背中を向けたまま話しかけた


・・・・・・・・


数秒経っても

今、満ち溢れていた

先輩の声が聞こえない・・・

振り返り、話しかけようとした瞬間

さっきまで後ろにいた先輩が

消えている・・・

そこには

制服と湿った赤色の砂だけが

コンクリートの上に残っていた


・・・ え? ・・・


屋上の上

風が吹く中

赤色の砂がゆっくりと

空に舞ってた


・・・・・・・・


【ガラ!】

いつものように売店で買った大好きな

クリームパンをかじりながら、水季は教室に入った

その途端 

【ピシャリ・・・】

ひんやりとした液体が

水季の頬に数ヵ所

飛び散ってきた


『キャー!! イヤ!!』

女生徒達の甲高い声が

教室外の廊下まで響き渡る

・・・うるさいな・・・

水季は頭の中でそう思いながら

いつものように涼しげな顔で

みんなに話かけた

『なに? どうしたの』

笑顔で言いながら頬に張り付いた

冷たい塊りを取った瞬間

身体中が凍り付いた

指先に絡まる液体のような物体を見て

持っていたクリームパンを

足元にグシャリと落としてしまった


『また陸がカンシャクを起こした!』

いつの間にか私の隣に居た

男子生徒が落ちたクリームパンに目を向け

憐れむように話かけてきた

指先に絡まったままの物体は

金魚の内臓だった・・・


声も出せず、その場に立ち尽くす私に

トイレットペーパーを持って来てくれた

その男子生徒は、

『あんまり見るなよ・・・』と

陸が握りつぶし、破裂させた金魚の残骸を

私の、指1本1本 包みながら

ゆっくりと拭いてくれた


落ちたクリームパンと

バラバラに飛び散った金魚の肉片が

あまり変わらないように見えてしまったのは

私だけだったのだろうか・・・

教室内に居た女生徒の殆どが

暗い表情のまま泣いていた


お腹の空いた感覚を忘れた私は

教室を出てそのまま

御手洗の便器に埋もれ


ついさっきまで

幸せな気持ちで味わっていたクリームパンを

胃の全体がペッタンコになるくらい

全部吐き出していた


その日から

大好きだったクリームパンが

視野にも入れたくない程

大嫌いになった

しばらく売店にも寄れなかった

・・・ふざけるな・・・

私は心の中で

陸に対して雑な感情が込み上げていた

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る