筋肉戦隊マッスルレンジャー
あきカン
第1話
ここ骨盤町では、度々怪人による事件が起こっている。
例えば目を覚ますと腰に全く力が入らず起き上がれなかったり、片足が動きにくくなって歩くのが困難になってしまうなど。多くの住人が悩まされている。
そんな中、五人の若者が立ち上がった。
今日は、とある家の赤ん坊がハイハイをしていたとき、突然手足を滑らせ危うく大怪我になるという出来事があった。
犯人とおぼしきは手、もしくは足の筋肉を奪う怪人。
その一体が町中で発見されたという通報が入り、彼らは現場に駆けつけた。
「そこまでだ、堕肉星人!」
色とりどりの衣装に身を包み、服のシワからは鍛え上げられた肉体が浮かび上がっている。
「チッ、また現れたか。筋肉戦隊マッスルレンジャー!」
「今日もまた、人々に迷惑をかけたみたいだな」
赤い衣装の男――マッスルレッドは、正面の怪人を見据えて叫ぶ。
「この俺の怒りは、お前らを根絶するまで収まることはないぞ!」
怪人がすぐさま背を向け、逃げる。
「あっ、おい待て」
「俺が行く」
不自然に足を露出した格好のマッスルブルーが言う。
「頼んだ」
レッドの声を聞くやいなや、ブルーの脹ら脛が大きく膨らんだ。
「任せな」と言葉を残し、一瞬にして姿を消す。
十字路を曲がってすぐ、怪人をぐるぐる巻きにしたブルーの姿があった。
「さっすがブルー」
巨乳のピンクと巨尻のイエローが揃って声をあげる。
「気を付けろ、そいつは尻尾から出す光線で筋肉を奪う」
「奪う筋肉は?」
「・・・足だな」
「好都合だ」
マッチョスーツに身を包んだレッドは、右腕を高くあげた。
すると右腕が膨らみ、元の大きさの十倍近くまで膨れ上がった」
「これで筋肉が奪われても、怪人もろとも押し潰して終わりだ」
「レッド、それじゃあアタシたちも道連れだから!」
慌てて止めに入ってきた女性陣にレッドは振り返って言う。
「そのデカイ胸と尻は何のためにあるんだ? ピンク、イエロー」
「あ、そっか」
二人とも納得した様子でそれぞれ胸と尻を空に向ける体勢をとった。
「準備オッケー」
「よし、じゃあいくぞ」
怪人が呟く。
「ふん、自滅してくれるなら結構! あと一歩近づいてみろ、その足を奪い二度と歩けなくしてやる!」
「それでもお前を押し潰せれば十分だ」
レッドは一歩怪人に近づいた。怪人の光線がレッドの体に命中し、ぐらりと体勢が傾く。
地響きが起こり、土煙があがった。
煙が晴れると、風船のような巨大な物体が震源の真上に出現していた。
しかしそれはみるみる規模を縮めていき、やがて元の大きさに戻った。
「あー、危なかった。大丈夫、レッド?」
「間一髪だったけどな。足も元に戻ったし、怪人は倒せたってことだろ」
「あれ、ブルーは?」
「さあな。ていうか俺もそろそろ限界だ・・・」
レッドが元に戻った右腕を見つめる。そして変身を解除した途端、若く力強い青年はその姿を変貌させていった。
「いつになっても、この姿の自分は好きになれないな」
そう呟いたのは、先ほどまでレッドだった少年だった。
「ホントよね。前にも増して小さくなっちゃったし、ホント嫌になっちゃう」
ピンクだった少女――
レッド――
「元気出せよ果歩」
「わかってる。わかってるけど、やっぱりこんな私好きになれない」
「そうだよな。俺たちは誰よりも人一倍、欲しいと願ったんだ。だから力を手に入れた。でもだからって、普段の自分まで否定することはないだろ」
左手で今井果歩の手を取り、明は言う。
「それにたぶん俺たちの中で、ブルー《アイツ》が一番辛いんだ。だから俺たちが落ち込んでたら、アイツはどれだけ不幸になるってことだ」
「わかってる。ごめん、早くいこ」
町を守る正義のヒーローの正体は、少年少女。しかし唯の少年少女ではない。
彼らはそもそも、ヒーローに憧れることすらできなかった子供たちだ。
筋肉戦隊マッスルレンジャー あきカン @sasurainootome
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