第3話 四天王イベントが早いんだが

 すっかり自分が勇者だと信じ込んでいた自分を殴りたい。

そんな衝動に駆られたていた俺は、シーンとした鑑定の間の空気で我に返った。


「どうしたんだ……?」


 額を壁にくっつけてひたすら効率のいいこけしの作り方を考えていた俺が振り返ると。

 宙に浮かぶビジョンが目に移った。


***


【ノゾミ】


レベル:1


職業:召喚士


能力:様々な召喚獣を呼び出して戦う伝説の職業。


   レベルが上がると呼び出せる召喚獣が増える。

 

※直接召喚獣と契約しても呼び出すことが出来る。


(冬季は呼び出し手数料が20%割り増しとなります)  


(雨天時には呼び出しに応じないものもいます。また、送迎が必要なものもいます)


***


「しょ、召喚士、ですわ! こちらもかなり強力な職業ですが、それでは一体、勇者様は……?」


 妹が勇者ではなかったことに呆然とする美少女は、ちらりと親父の方を見て、再度水晶に視線を戻した。


「……それでは一体、勇者様は……?」


 どうやら、アレが勇者かもしれないという事を認めたくないようだ。


「おい、美少女。もう一人いるぞ?」


 そう言って親父の方を指差す。

 暫く親父の防御力デバフがかかっている頭のてっぺんからつま先までをじっくり観察した後、美少女はこう言った。


「……それでは一体、勇者様は?」


「おい」


 恐らく話が進まなそうなので、ステテコの紐を結びなおしている親父を連れてきて、水晶に触らせる。


「親父、別にそんな何かを揉みしだくように両手で触らなくても――」


 そう言いかけた時だった、眩いばかりの光が空間に満ちて、思わず皆が目を覆った。

 やがて光が収まり、皆と同じようにビジョンが浮かび上がる。


***


【キュウサク】


レベル:55


職業:勇者


能力:伝説の勇者 


圧倒的な戦闘力で、さまざまな武器を操り、金曜の夜・土曜と日曜には魔法を使うこともできる。

※月曜日はステータスが下がります。


***


 能力が勇者ってんだから、もう勇者なんだろうね。

 すこしサラリーマン的なステータス変動があるようだが、これはもうどうしようもなく勇者なのだろう。


「……それでは一体、勇者様は?」


「おい」


 この美少女、壊れてしまったか?


 そう思って肩に触れようとした時――

 (下心はないが)


 ガシャン、と大きな音がして天井のステンドグラスが割れる。

鑑定の間に、槍を持った兵士風のモブ、いや、モブ風の兵士が集まってくる。


「上だ!」


 一人の兵士が指さした方を見ると、二段梯子でも届かないような高所に何者かが佇んでいた。

 きっとあいつが、ガラスを割った張本人だろう。



「フハハ! 我は『大魔王カティエ・フォカイ』様が率いる魔王軍。その四天王が一人、『火のベッキョ・リーコン』である!」


(四天王が来るの早いって、もっと中盤に来いよ!)


「近々勇者が現れるのではないかという魔王様の予言通りになるとはな。しかし、フハハ! 伝説の勇者がこんなオッサンとは!」


 高笑いをあげる四天王リーコン。


「そんな、たった一人で……それも一晩のうちに二件の民家と馬小屋一つを焼け野原にしたという、火を自在に操るベッキョ・リーコン……こんな序盤に襲ってくるなんて、あんまりですわ!」


「フハハ! 恐れることはない。こんな城など二週間もあれば六、七割がた燃やし尽くしてやる! ――苦痛を感じる暇もなく、な?

まずは、勇者よ! 貴様のその薄くなりかけた頭髪を、縮れ毛に変えてくれるわァー!」


 恐ろしい死の宣告をしたベッキョ・リーコンは、真っ赤なマントを翻して襲い掛かって来た。


(俺はまだ、こけしを作ったことがない!)


つまり、まだ戦う力が、ない――。


 恐ろしいスピードで足を駆けれそうな足場を探しながら窓枠を降りてきた四天王が親父のもとに走ってくる!

 ここまでほんの40秒ほどしかかかっていない!




「オヤジィィィィーーッ!」


 その瞬間、まるで電気こたつのパワーを『強』と『中』の間にしたかのような大火力が勇者である親父に放たれた。

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