第38話 ゲームへのご招待

第38話 ゲームへのご招待①

 居室の扉を開けた先に立っていたのはミデンではなく、仲間のリーチェ・プラントだった。

 彼女がわざわざヴァイスの部屋を訪ねて来るとは、珍しいこともあるものだ。



「どうしたんだ? リーチェ」



「……確かめたいことがあるの。ねぇ、ヴァイス。『サーカスアタシ達』は、いつから『光の御子教』なんかの手下になった訳?」



 どうしてこんな詰問口調で問い質されるのか、理解が及ばない。

 そもそも、リーチェが何故そんなことを疑問に思ったのかが不思議だった。



「『いつから』って……初めからさ。俺もミデンも、元々は教団の人間だ」



 己で言って、笑いが込み上げる。

 こんな生まれ方をしたヴァイスの、どこを以て人間とするのか。どうやら、先程見ていた夢に引き摺られているらしい。



「――何?」



「いや、何でもない。……リーチェは『光の御子教』が嫌い?」



「好きとか嫌いとか、そんなのは問題じゃないわ。アタシはただ『人に使われてる』ってのが気に食わないだけで――」



「そう。でも、君に選択肢はないんだ」



 ヴァイスはリーチェの話を遮ると、突き放すように言った。目を丸くして口を閉ざす彼女に、ヴァイスは構うことなく手を伸ばす。



「……うーん、効き目が悪くなってきたのかな。こんな風に口答えするなんて。俺もまだまだだ」



 無詠唱で発動された魔法に、リーチェの身体が音もなく崩れ落ちた。

 例の洗脳の魔法である。ついでに記憶を少し弄ったので、彼女が次に目を覚ます時には今のやり取りを忘れているはずだ。


 床に倒れるリーチェを跨いで、ヴァイスは隠れ家の廊下を欠伸混じりに進む。

 その後ろにシエルがついて来ていることを確めると、うっそりと微笑んだ。











「じゃあ、お休み。アリス、シェリー」



「お休みなさい。二人共」



 いつものように、四人はエメラルド寮の女子寮の廊下で別れる。しかし普段と違うのは、お休みの挨拶と共にレイチェルが顔を曇らせたことだ。



「……合同捜査、本当に行くのよね? 明日」



「ああ」



 頷いたシェリーに、レイチェルは一拍置いて深い溜め息を吐く。わざとらしく大きなそれに、ミリセントが苦笑を溢した。



「……ま、そう言うとは思ってたけどね。くれぐれも気を付けなさいよ。特にアリス! シェリーの傍からは離れないように!」



「うっ、うん!」



「後ね、アリスちゃん。シェリーちゃんが変な行動をしたら、必ず止めてねぇ?」



 ミリセントに念押しされ、アリスは言われるがままに首を縦に振った。



「変な行動って……オレは不審者か何かか」



 腑に落ちないと苦情を洩らすシェリーだが、ミリセントに「去年の文化祭の時、シェリーちゃんが私達に何て言って何をしたか。……私、忘れてないからねぇ?」と恨みの籠った口調で返され、大人しく引き下がった。

 怒らせると誰が一番怖いのか、シェリーも理解してきたようで何よりである。


 そうして四人は手を振り合い、それぞれの居室に引き上げた。

 翌日に備えて意気込むでもなく、深刻な顔をするでもなく。シェリーがただ一言「お休み」と、明日も変わらない日常がやって来るのだと信じきった口調で自室に去って行ったのが、アリスには少々意外で、だからこそ印象に残った。

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