第3話 指名依頼の件

 先日、やーっと解消できたパーティーは冒険者ギルドのギルマスから指名依頼されたものだった。


 聞くと田舎から一人で出てきた少年が、近来珍しくスライムや掃除などの最低ランクの依頼を自分から進んで受けてきたというもの。慎重なその姿はもしかしたらバケるかもしれないという期待からだったが……

 スキルも悪くはない。一人で心配だったというものもある。

 田舎から出てくるものはだいたい二、三人で、孤児院から登録する子もある程度組んでいるものが多い。


 仕方ないと思って引き受けた。


 最初は先に冒険者となったらしい俺のいう注意やアドバイスを聞き入れていたが、慣れるにつれ直接攻撃できる自分を上にみて次第に注意を聞かなくなった。

 受ける依頼も実力より上のものを選ぶようになり、パーティーで分けるはずの依頼料も、最後に討伐したからと自分優先になっていった。たとえ獲物が弓で羽を傷つけられていたり、脚を傷つけられて動けない相手でも。それが自分のやった事ではないものであったとしても。


 態度はかなり悪くなった。

 年下にはもちろん女性や他のギルドの人間に対しても。

 その上、狩れるものなら何でもと持ち帰る量も増えていった。得る金が増えたことにより、道具を丁寧に扱うこともしなくなった。剣も防具も手入れをするのではなく、買い換えていった。

 ギルドの依頼はポイントの大きいもの優先で。

 個人でやり取りをすることを覚えて目先の金だけを見ている。親から譲ってもらったという大事に扱っていたはずのマジックバックすら綻びが見えていた。






 いくら注意しても聞かなくなってから、ランクアップの依頼を受けるといってきた。




 もう駄目だなと思った。






 思った通り依頼の目途がついたところで、自分から解散を言ってきたから乗ってやった。


 こいつ、やっぱり向いてない。



 冒険者で稼ぐには、一にも二にも慎重さが必要なんだ。装備の手入れは自分の身を守るためには絶対なのにな。そこが分かんないんじゃ死ぬだけなのに。

 危険はそこら中にある。命が助かっても腕や足を無くすことだってある。




 まあ、この依頼でブロンズに上がってもすぐ落ちるから安心だ。

 ランク以上の依頼は受けられないからな。

 本人の言うとおりにどこかのパーティーに入るか組んでくれる人がいるなら別だけど。



 一つ一つギルドには報告書を書き、それで俺への依頼は修了した。






 まあ、子供の面倒をみるのも大人の義務かなぁと思ったからだけどね。






 あれからちょくちょく色んな人に声を掛けてるのは見かけたけど。


 成功はしないだろうな。




 あいつは人を見下す癖をいつの間にかつけていた。

 誰だってそれくらい分かるんだよ。口調も人をバカにしたものが多くなっていたからね。






 ん?


 それって、もしかして俺のせい?


 いやいや……




 まあ、途中で面倒になったのも確かだけど……










 俺?


 今は家事ギルドでお世話になっているよ。

 まずは掃除を覚えなさいと言われている。

 掃除も極めれば大変なんだね。

 知らなかったよ。


 普段、使わない筋肉を使ってがんばっているよ。


 冒険者をやめることはしないけど。

 今は次の事が気になって仕方ない。

 楽しいのは良いことだよ。


 だって生きているって気がするじゃないか。



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