筋肉バッキバキのキンニクジジイの偉大さ

@nekobatake

ジジイの筋肉こそ至高

 僕が小学生の頃、近所にキンニクジジイというあだ名のお爺さんがいた。

 もう、文字通り。

 名は体を表すとは言うけれど、そのあだ名が本名なんじゃないかって思うぐらい。

 そのお爺さんは、筋肉ムキムキだった。


 いや、ムキムキなんてもんじゃない。

 バキバキ、もっと正確に表現すると、バッキバキという感じ。

 とにかく並大抵の筋肉ではなかったと強く主張しておきたい。


「いや、ジジイになってから健康維持のために鍛え始めたんじゃ」


 そうキンニクジジイは答えた。

 僕らの、「戦争のために何十年も鍛えているんですか」って質問に。

 僕らは、なんじゃそら、と思った。

 何しろバッキバキの筋肉なのだ。

 漫画に出てくる強キャラジジイそのもので、存在が現実離れしていた。


 それぐらいだから、キンニクジジイのストーリー性のなさには、とてもがっかりした。

 若い頃は伝説の兵士だったとか、そういう背景が欲しかったのだ。

 しかし、がっかりしたとはいえど、その存在感はあまりに巨大で、僕らの中では伝説で有り続けた。


 そんなキンニクジジイはいつの間にか故郷にでも帰ったのか、家が空き家になった。

 その後はどうなったかなんて誰も知らないが、長生きしたんだと思いたい。


 僕はといえば、親の転勤で中学からは知らない土地に移った。

 その土地の公立高校に進学して、県外の普通レベルの私立大学に進学して、一人暮らしを初めた。


 就職してまた別の土地に移って、その地域で就職。

 結婚。

 妻の出産。

 子育て。

 出世。

 転職。

 子の進学と就職。

 妻との死別。

 定年退職。

 初孫。


 ……空いた時間で、最近は筋トレをしている。

 この歳になって……いや、本当はもっと若い頃、成人していた頃には気づいていたことがある。

 大人になると運動なんてしなくなると。

 年老いてから鍛え始めたキンニクジジイは、本当に尊敬できる人だったと。

 まあ、あんなバッキバキには、なれるわけもないが。

 健康維持のために。







  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

筋肉バッキバキのキンニクジジイの偉大さ @nekobatake

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ