第10話 バイク

『生討』は、たった今武玄の侵入により、警戒態勢を張っていた。


「奴が入り込んだということは、場所が割れたってことでしょう?」


「どのみちいずれ見つかるもんだったんだよ。だから俺はこの世界線に残るなんて間違いだって思ってたんだ!!」


「1番『概念格』が出現する世界線だからって、これはあまりにも命が無駄すぎる……いくら研究したいからって……!!」


次々に場所がバレてしまったことに動揺する『生討』のメンバー達。


彼らは『特性』を持っていたとしても、ただの人間。


確かに『概念格』が1番出現するこの世界線で、その研究のために居座ることは、研究の面から見れば最善だろうが、1番優先されるべき人命が後ろ回しにされている。


元から反発が大きかったこの計画。危機が迫ってまたその反発が強まっていた。


「司令?どうします?」


「うーん、そうだねぇ……」


部下達が騒いでいるのを横目に、各チームのリーダーと、最高司令官がその現状に悩んでいた。


「いっそ迎え撃ちするか!?」


「無理でしょ兄さん。」


「そ、そうかぁ……」


双子で1チームのリーダーを務める2人が一瞬で一つの意見を無にする。


そんな中、赤い髪を持つ女性が立ち上がった。


「私が行きます。向かってくる敵を撃墜しましょう。」


「敵って……どこにいるのか分かっているの?」


「はい。部下から連絡が。」


女性はつかつかと皆に背を向けて歩いていく。その進む勢いは、自信が上乗せされているものではなく、


「いいのかい?特攻隊にさせてしまって。」


「えぇ。私が、この中で一番弱いので。」


そう最高司令官に微笑む女性は、皆にそれ以外何も言わずに歩いて行った。


~~~~~~~~~~~~~~~~~~


雲ひとつない快晴。暑すぎない気温。澄んだ空気。


こんな日はそう、風を感じたいと思うものだ。


「ひゅ~~~!!」


誰も通らないような山道を、1台の大きな黒いバイクが走っている。法定速度を超過し、大爆音の音楽を撒き散らしながらも、文句を言うものはいない。


それほど走っているところが無人の地であるということだ。


「風が気持ちいいぜぃ!!」


「だからってこんなに飛ばす必要は無いがな。」


運転している瀬太はもちろん無免許。その後ろには本を読みながら寛いでいる快斗が、風になびく髪を押さえている。


「ナビで言うとこっちかな?」


たまに現れる分かれ道に苦労しながらも、間違えたってすぐに修正できると、割と適当に瀬太達は『生討』の基地へ向かっている。


最悪方向さえ合っていればすぐに行けるし、極論言えば地球にこの2人がいる限り逃げ場は無い。1秒で地球を千周余裕で走る悪魔と、1秒足らずで地球を破壊、修復できる少年から逃げるなんて不可能だ。


「方向はあってるのか?」


「ナビ的には多分。」


「ナビになんて出てる?」


「右に左折だって。」


「ふざけてんなよ。」


このナビは鳴香瀬が発明したもので、その場その場1秒ごとに目的地への最短ルートと距離と高低差を表してくれるのだが、所々にふざけた要素があり、使っているとイライラする。


道を間違えた瞬間に、『間違いなく間違ってるw』と表示されるので、快斗は耐えきれないということで瀬太が運転することになった。


「にしてもにしても、武玄兄ぃめちゃくちゃワクワクしてたなぁ。」


「まぁ、確かに。久しぶりに身の丈にあった戦いに心が踊ってるんだろ。」


弱い『概念格』なら余裕だが、場所が宇宙だったり溶岩の中だったり真空だったりなど、人間には行けない場所には武玄は向かえない。


今まではそれが地上に上がってから対応していたので多数の死者が出ていたが、今となっては瀬太と快斗の活躍により、早期対処ができている。


だから武玄の出番は少なかったのだが、


「相手が人間なら戦えるのかやっと。」


「嫌な愉悦だな。」


なんて風に吹かれながら2人が会話していると、


「……あ?」


ふと、瀬太が空を見上げると、あるのは想像していた青空ではなく、


「みつけた。」


ゴウンゴウンと音をたてる、黒い巨大な飛行物体。その開けた出口から、赤い髪の女性が覗き込んでいる。


「殺してやろう。悪ども。」


腰の鞘から赤い刀身の剣を取りだして、構える。


それが開戦の合図だった。

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