【第五章・風雲篇】
【風雲篇】
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【 国会中継 】
【 政府四演説 〜衆議院本会議場より中継〜 】
「これより会議を開きます。先日の議院運営委員会において、内閣総理大臣から施政方針演説、財務大臣から財政演説、外務大臣から外交演説、経済財政政策担当大臣から経済演説の通告がありました。順次国務大臣の登壇を許します──内閣総理大臣秋津悠斗君!」
【 内閣総理大臣
「去る保守党総裁選には敗れましたが、保守党秋津グループ、公民党、国政民衆党、労働党、令和奇兵隊、社会福祉党の皆様からの貴重な信任を得まして、私はこの場に立っています。保守党内反秋津派とも私には話し合う用意がありましたが、御屋敷幹事長はそのテーブルにすらつこうとなかった。年齢差を盾に意見を封殺するのは卑怯です。それが数十年政権に君臨してきた保守党の恥部なのです。一方、若い力を貸してくださいと野党のとある政治家からお言葉を賜りましたその方は、──船橋喜彦先生です!」
保守党首相が保守党議員らから怒鳴られる。
水を向けられた船橋喜彦だったが、目は笑っていなかった。
「護憲民衆党に限らず、野党諸君に語り掛けたい。私の母は教職員組合護憲民衆党派です。母方を遡れば祖父は労働党市議後援会長で祖母は公民党創世教団です。その縁で政権運営にお力添えを頂けるものと確信しております」
長老議員がひっくり返って笑う。
「手前味噌ですが実に様々な思想の血が混ざり合い、私の体に流れているのを実感します。野合との誹りを受けようが、国家のイデオロギーより国民の衣食住を選ぶ。それが秋津ドクトリンの基本です」
永田町に対する宣戦布告であった。
あの日の少年は今や首相となった。喧噪の中、澄ました顔で演壇の瓶から水を注ぎ、ぐいと飲み干す。
「総理大臣と保守党総裁が分離したのは、結果として、行政府の長と立法府の最大勢力の長が別人格となったことを意味します。総裁選での所信表明演説でも述べたように、大泉政権の負の遺産におそれず! ひるまず! とらわれず! 私はまだ除籍にはなっていないはずですので保守党の青山総裁には何卒私どもの反党行為に目をつぶってくださいますようお願い申し上げます」
冗談を交えた首相に議場に笑いが戻る。
青山春之助が照れ笑いを浮かべて周囲の席に頭を下げる。
秋津悠斗が示した施策は以下の通り。
一、 大泉政権下で実行された構造改革の見直し。
一.財政政策を百八十度転換し減税・建設国債による積極財政。
一、 老朽化した国内インフラへの設備投資。
一、 経済機能移転を軸とした地方分権。
一、 原発の一部再稼働。新型核融合炉の建設。
一、 内務省、逓信省、歳入庁、貿易庁通商代表部創設と総務省厚労省分割を軸とする省庁再再編。
一、日米地位協定の見直し。
一、 独立国家南興社会主義国への日本企業進出。経済特区指定。
「……これらの施策を秋津ドクトリンと致します。子細を財務外務経済の三閣僚から説明させます」
静まり返る議場を睥睨すると、秋津悠斗は颯爽と演壇を降りた
【 内閣法九条の第一位順位指定国務大臣 財務大臣 内閣府特命担当大臣(金融担当)
閣内で長い肩書を持つ副総理は短いフレーズで議場を驚かせた。
「財務省は大規模な財政出動を敢行します。借金などとんでもない、日本は財政破綻しません!」
歌舞伎役者のごとく大見得を切った瞬間、国会で緊縮財政の点で統一会派を組むなにわ維新の会と護憲民衆党の陣からすさまじい怒号が響く。
よし! と早乙女ミエら保守党内積極財政派が力強く頷いた。
「保守党税制調査会、令和奇兵隊政策調査会と連携し、消費税減税、建設公債を軸とする財政政策パッケージをすみやかに立案します」
「日銀と連携し、マイナス金利政策を断行します。インフレターゲットは2パーセントとします」
「財務省は歳入と歳出の機能分離を図り、省益に左右されることなく、国民を向いて税を取扱かって参ります。内閣府に歳入庁を立ち上げ、省庁横断的に税制と年金制度を一元管理して参ります。これらの施策により、年金問題での国への信頼回復に務める所存です」
【 外務大臣 内閣府特命担当大臣(行政改革担当・沖縄基地負担軽減)
「秋津ドクトリンで示された話し合う姿勢を外交でも実践して参ります。米軍沖縄との三者会談に始まり、先ずは日本が譲歩する姿勢を世界に示して参ります」
【 経済産業大臣 内閣府特命担当大臣(経済財政政策担当)
「秋津政権は原発政策から逃げません」
保守党創設以来の左翼政権と揶揄された秋津政権は資源エネルギーに関しては徹底したリアリストだった。
「老朽化原発の建て替え。そのためにも、石油資源の獲得が不可欠です。我が国は、南興シェールガス開発を進めてまいります」
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『立花経済産業大臣、南南興の女性大統領と年の差の熱愛!?』
『南興開発利権は立花大臣の公私混同か!?』
「くそ! 誰がこんな紙爆弾を落としたんだ」
「悠斗君、いや、総理。ファーストレディは本が好きなんじゃなかったのか」
週刊誌を破く悠斗を当の本人がたしなめる。
「今盟友の荒垣が弁明してくれている」
かつての政界の英雄の援護射撃なら世論も納得するだろう。そして今の英雄は秋津悠斗だ。それを快く思わないのが財務省だ。
「今日付で財務省から内示があった」
桜俊一が一枚の書状をペラと渡す。
内閣総理大臣秘書官候補 桜凪子
普通は財務省枠の秘書官は年長のキャリア官僚を寄越すが総理大臣の義妹ときた。
「財務省は気を利かせたつもりだろうが、要は監視役というわけか」
この人事を受け入れなければ、財務省はもっと大きな紙爆弾を落とすぞ、と。
「失礼します」
ノックもせずに凪子が入室する。
「議院運営委員会で、代表質問を待たず、護憲民衆党・なにわ維新との党首討論が開かれる運びとなりました。」
どこまで聞かれていたのか。秋津政権の屋台骨をなす彼らは顔を険しくした
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与党と野党という概念はこの短期間で変質した。
物部政権では保守党と公民党が与党であったが、秋津政権には国政民衆党、令和奇兵隊が連立に加わる。野党四党という枠組みも過去のものだ。
今日、対する野党席には統一会派を組む護憲民衆党となにわ維新の会が座る。質問に立つは護憲民衆党最高顧問の船橋喜彦だ。護憲もなにわも党首はいるが、秋津悠斗のような眩しすぎる光に太刀打ちするためには首相を務めた重みのある代議士に白羽の矢が立てられたのだろう。
そして、悠斗の因縁の相手でもある。
【 国会中継 】
【 国家基本政策委員会~党首討論~ 】
「立花経済産業大臣を罷免なさるべきではないでしょうか」
「人を愛すること、それのなにがいけないというのでしょうか」
悠斗は自分自身のことも言っていた。
「そこまで言うなら明らかにしましょう。これは反対派からの紙爆弾です、ならば、官僚の反対派をどうなさるおつもりか」
「桜俊一元財務事務次官を内閣官房副長官兼内閣人事局長に据えて、霞が関とのパイプ役をお願いします
「内務省の設置は断固反対しますが、歳入庁設置に関しては認めましょう! 元は民衆党の政策なのでね」
船橋は強面の顔を崩さずに丁々発止の論戦を繰り広げていく。
「しかし、悠斗君は青臭い」
船橋は一蹴した。激高した青年首相が老練な野党代議士を顎を引いて睨みつける。
「まあ、最後まで聞きなさいよ秋津君」
船橋はどじょう宰相にふさわしい笑みを浮かべていた。
「アメリカに関すること、私に預けていただけませんかな?」
「船橋先生……」
「内務省設置を延期していただけるのであれば、日米地位協定の見直し、規制緩和に関して私からもオーバー前大統領に直談判することをお約束いたします」
与野党の対立に一筋の光が見えた。
「秋津君、これが政治の本質です。対立する二つの意見をすり合わせて一致点を探る。忘れないでくださいね」
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