第6話目 龍に人助けは難しい

この辺りか。助けを求めていた声の主は。

旋回しながら探していると、一際大きな森を見つける。なんだろう、形容し難いがここあんまり入りたくない嫌な感じがする。居心地が悪いというかなんだかムズムズする感じ。虫除けならぬ龍除けスプレーでも撒いているのだろうか



速度を緩やかにして、森の上から見下ろしながら声の主を散策すると漸くその姿を捉える



「《……あの子だな》」



ラプンツェルのように思わず見惚れてしまうくらい長く美しい金色の髪は背中まで伸びており、それを三つ編みに纏めている。丸眼鏡が似合っており、随分と利発そうな子だった

そしてそんな少女を背後から追いかける三つの影。こいつは犯罪の臭いがプンプンするぜ



金髪少女は躓いたのか、地面にドシャリと痛々しく高校球児もビックリの見事なヘッドスライディングを顔から決めると三つの影もそれを見て、ゆったりとした歩調に切り替える



「手間かけさせやがっ……」



「GYOOONNN!!!」



俺は猛り狂った声を上げ急いで少女と3人に割り込む形で木々を踏み倒し着陸する



「「「!!?」」」



3人は俺を見るや否や、即座に後ろへ飛び臨戦体制を整える。対して、少女は恐怖の余り気絶してしまった。



「《許せねぇ!いたいけな少女をここまで追い詰めるなんて、お前等人間じゃねぇ!!》」



か弱い女の子をどれほどの怖い目に合わせてやがるんだ。穏和な俺も怒りの余り拳を震わせてしまう



「こ、こいつ、まさか。龍なのか!?ティムール大陸ではとっくに教会が絶滅宣言が出されていた筈なのに。それがなんでこんな所に!!」



三人の中で最も小柄なホビットのような男が狼狽えて一歩たじろぐ



「しかも中でも最も獰猛な赤ときた。どうするシュウ。俺たちの手じゃ余るぞ。ずらかるか?」



小男の3倍はあろうかという大男も苦虫でも噛んだかの様な苦い顔を浮かべていた



「ばっか。落ち着けっての。依頼物が前にあるのに逃げれるかよ。それに龍っていうのは歳を重ねる事に大きく強くなると聞いたがこいつはどうだ?

見たところ飛竜より少し大きい程度。ってことは恐らく子供だろう。ならどんなに強くてもしれてるだろ」



だが1人だけ焦った様子なく自信と冷静さを兼ね備えて俺を見つめる青年は静かに腰からロングソードを引き抜く。戦う気満々のようだ。そしてコイツは俺の嫌いな物ワースト3に入るイケメンと呼ばれる類の存在だった。悪人のくせにイケメンなんて許せねえ!顔が良いやつは良い事以外しちゃだめってのが全人類の共通認識でしょうがよぉ!!!



青年は俺を見据えて余裕そうに鼻を鳴らす



「俺はティムール最強の冒険者と名高い"龍殺し"と同じギルドの奴から龍の弱点を聞いたことがある。大丈夫だ。任せろ」



龍殺しなんて、そんなピンポイントに俺にメタ張ってる奴がいるのか。会いたくねえな。クワバラクワバラ



「シュウ……お前ってやつは本当によぉ」



「ふん。直ぐに弱腰になるのがポルの悪い癖だ」



「なっ!?ゴラムだってビビってた癖に!」



イケメンはシュウ。小男はポル。大男はゴラムという名前らしかった。悪人の名前なんて別に知りたくなかった。っていうかそういう良い仲間アピールやめてくれ。なんていうか戦い辛くなる



「俺は初めからシュウを信じている」



「はぁあ!!?俺だってな‥」



「おいおい、お前たち。話より先ずはこの龍を倒すのが先決だろ?」



俺は一体何を見せられているんだ。

3人のやり取りを漫然と眺めていると、漸く少しずつ奴らは距離をつめてくる



「《女児を付け狙う変態共め。ロリコンは病気だから全国4500万人のフェミの皆様に代わって俺が治療してやる》」



とは言ったものの、異世界に来て初めての戦いだ。人殺しは避けたいが、この体格差だ。弾みで殺してしまう可能性も否めない。

だが平和な国の代名詞日本。そこで生まれ育った者として、平和的な暴力を駆使して、2度と悪事なんてしたくないって思わせる解決をしなければならない。それが俺の務め



「先手必勝だ やらせてもらうぞ」



考えを張り巡らしていた俺を他所にゴラムと呼ばれていた大男が痺れを切らしたのか手始めに棍棒片手に突進してくる。よく見ると棍棒を魔力か何かで覆って強化した様だ



「喰らえぇぇ!!」



ゴラムは棍棒を僅かの躊躇いを見せる事なく俺に叩けつけようとするので、そこで俺はあえて躱さずに手の甲で受け止めた。

バリンと硬い木材が砕ける音がして、棍棒が根元から折れてしまっていた


「なっ!?強化して硬度を上げた俺の武器の方が……」



信じられないといった愕然とした表情を浮かべているゴラムは思わず動きを止めるが、残りの2人も動き出していた 



「ポル!」



「わかってる!!」



小男のポルはパチンコ玉ほどの大きさのゴム玉を無数に袋から取り出し俺の顔面へと投げつけてくる



「爆ぜろ!」



ポルの言葉を引き金にして、ゴム玉は癇癪玉みたいに俺の顔下で小さな破裂を幾つも巻き起こす。

至近距離での爆発。それでも俺に欠片の傷みもないが爆発のせいで空気が乳白色に濁っている。



視覚を塞ぐのが狙いか。だが音による反響定位を使えば索敵は容易なのだ────キュイインと音がしたかと思うと感覚が突然研ぎ澄まされた

目が煙に対して順応したらしく、敵の姿を変わらず直ぐに視認出来る様になる。



「《いない……》」


1人足りない。シュウという男の姿だけが確認出来ない、周囲を見渡してもいない……上かっ!



「殺ったぁぁぁ!!」



俺の頭上より高く飛び上がり、シュウは高速で回転しながら舞い降りる。それはまるで死の断頭台を思わせる。力×速さ=破壊力だ。侮るべきではない



俺は大きく息を吸って。吐き出した。空気が滝のような勢いで吐き出され、それになす術なくシュウは飲み込まれた



「ぶべらぁ!!」



風圧で更に高く舞い上がり、そのまま地面に叩きつられた反動でシュウの身体は不自然に何度か宙に浮く。俺の前世なら確実に即死する高度だ。内心、死んでしまったのではと冷や汗が止まらない



「ぐっはあ……!」



荒々しく息を吐き出して喀血するシュウはボロボロの身体を剣を棒にして奮い立たせて立ち上がってみせたが、ダメージで満足に立てないのか直ぐに片膝を着く。

うん、ごめん。割とマジで。悪人とはいえ過剰防衛だったかもと反省している



「シュウーー!!」



2人がシュウの両脇を支え、俺を親の仇か何かでも見るように睨みつける



「《‥‥見逃してやるから帰れ、そして病院で診てもらえ》」



言葉は通じなくても今ので力の差は理解できただろう。さっさと尻尾撒いて退散して欲しい。まあ尻尾があるのは俺のほうなんだけど



「此処は退くぞ」



俺としては願ってもない話だがゴラムの提案に当のシュウが快諾を示さない



「い、や……駄目だ‥‥‥あの子を」



「で、でも。あんなのがいたら無理だよ!シュウが死んじまうよぉ!」



そんなシュウを体を支えているポルが必死に説得しようとする



「時間が‥‥ないん‥‥‥だぞ」



言葉半ばでガクリと項垂れるシュウ。どうやら気を失ったらしいが……時間がない。引っかかる物言いをする。ただの人攫いでは無いのか?



「‥‥‥退くぞ」



「あ、ああ」



ゴラム達は静かに俺を見据えながら一歩、また一歩と後退していく。

俺がこいつ等を襲う気が無いと判断したのか、一定の距離が離れた辺りでゴラムがシュウとポルを両脇に抱えて走り去って見えなくなった



「《一件落着。さてと、女の子は》



倒れていた女の子の方へと顔を向ける。さてと、あの子は大丈……



「もういやぁぁぁ!!」



悲鳴を上げて少女は思いきり全力疾走をしていた。なんでさ!

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