第3話目 転生したら魔導師ってのに出待ちされてた件について②

状況は最悪だ。なに言ってるかサッパリだがどうやら自力では出られないらしい‥‥‥媚び諂うしかねぇ!



「あれ?もう一度だけ聞くよ?自分の置かれた状況は理解できたよね。分かったら頷きなさい」



コクコクと俺が慌てて首肯すると白い少女は少しだけ安堵した様子だった



「聞き分けが良いわね。よかったわ。本当に

じゃあ今から出す条件を呑んでくれるなら、そこから出してあげる」



条件とは何だろう。俺も男なのでプライドがあるが相手が美少女なので靴を舐めるまでなら譲歩してやってもいいと思ってる



偉大なる龍王様アーカーシャ私と契約してくれませんか?」



どこぞの魔法少女勧誘のキャッチコピーを彷彿とさせる台詞だな。まあ、答えは決まってるんだけどね



「受けるなら、Yes。駄目ならNOでお願いね」



‥‥あれ?俺喋れないけど、どう受け答えすればいいの



「(受けるよ!YesYesYes。アーメンイエス)」



「なに言ってるんですか?相手に気持ちを伝える時はきちんと言葉に出して下さい」



白い少女は訝しげに顔を顰めているが



「(言葉が通じねえんだよ!せめて、身振りで分かるやつにしろよ、このアホ毛が!!)」



「まさか、今私の悪口言いました?偉大なる龍王様このトカゲ。少しだけ反省しなさい」



機嫌を損ねてしまったのだろう。彼女は俺から背を向けると外に繋がるであろう扉へヒールをコツコツと鳴らして足を進め始めるではないか



「(ウソーーー!!言ってない!言ってないです!貴女様の美貌を褒め称えていたのです。よっ!世界一可愛い!)」



俺は必死に白い少女を呼び止めたが一度も振り返らず、足も止めずに、外に繋がる唯一の扉から外に出て無常にも閉まった



本当に此処を出て行きやかがったのだよ。もしかしなくても、この窮屈な円陣に一生独り身で閉じ込められるのだろうか。転生して数分で此処まで追い詰められるなんて誰が想像できる



つい、祈る様に空を見上げる。本当に空が見えた



「(いや、空が見えるのはおかしくないか?)」



思案する。この建物は恐らく搭か何かなのだろう。建物は筒の様に空に長く伸び、なぜか天井が無い。お陰で白い雲と青い空がひょっこり顔を覗かせている

これ雨降ったら大惨事だろうな。湿気とか凄そうだ、カビの楽園ぇ‥‥‥今すぐ出せ!!無理無理無理!埃っぽいとかカビとかマジ無理なんで!なんなら出さなくてもいいから、天井作ってくれーーー!



「(待てよ。飛べば、出られたりしないかな)」



ピンチはチャンスと誰か言ってたな。

そして飛び方を教えられなくても、鳥は飛べる。本能的に理解しているのだろう。俺にも翼がある。飛んだことは無くても飛び方を知っていても不思議じゃないだろ?


難しい事を言ってるかもしれないがつまり、そういうことなのだ

無限の空へ!さぁ、行くぞー!



バサバサと翼を動かすと何の問題もなく飛べた。感覚的なものなので、口で言い表すのは難しいが。要は三輪車漕ぐのと同じ要領だと考えて構わない。

瞬く間に塔の頂上付近まで到達する



この陣がどこまで隔たっているかは見えないため分からないが、流石に成層圏辺りまで伸びているということはないだろう


効果が及んでない所まで飛んで逃げてやる。そうだ。俺は自由なのだ。そう考えたが無意味だった。外と塔の境界線に当たる部分で、俺は見えない壁にまたしても衝突したからだ



「(おんげえええ!!!)」



飛行と思考が停止する。身体が宙に停止するが直ぐにこの星の重力に脚を引かれて、俺の身体は地面に叩きつけられ地響きを伴う砲音が鳴り響く



赤いリンゴの様に見事に地面に落ちた俺を異世界のニュートンさんが見たら、きっとこの星にも万有引力がある事に気がつくだろうなんてぼんやりと思ってしまった。



ピンチはチャンス?否。ピンチはずっとピンチなのだ。

さて、まじでどうするか……




今俺はお腹を見せる形で地面を背に預けて仰向けになりながら大の字で寝そべっていた



「(ひでぇ……逃げられると見せかけてこれか)」



文字通り上げて(物理的に)落とされたぜ。こいつはしてやられた。俺の心を弄ぶとは、あのアルビノ2号はとんだ策士だったらしい



くそっ!多分こういうことだ。一目見て俺の隠し切れないプライドの高さと知性を見抜いたアルビノ2号は懐柔する為に一つ策を弄した。それが世で名高い『空城の計』だ。これを仕掛けてきたに違いない。

そして俺が賢すぎるが故に引っかかってしまった!!つまりこれは孔明の罠だったんだよ!!!(現在錯乱中)



おのれっ……孔明!と叫ぶ前にガチャリとドアの手が動くと扉がギギッ……と古めかしい悲鳴をあげながら開かれた。絶対したり顔だわ



「なにか凄い音しましたけど、大丈夫ですか?」



アルビノ2号が心配そうに部屋に入るなり、声をかけてきた。だが先程と様子が違う。そこには予想通りに白い少女が立っていた‥‥‥そして口元をべっとりとソースで汚していた



「(こいつよりにもよって飯食べてやがったのか!この匂いはステーキ。しかも絶対良い肉だ!A6ランクくらいの奴だな。俺の鼻は誤魔化せんぞ)」



所で龍の主食ってなんだろうか?空飛んでる神秘な生き物だから、全く分からんが、霞とか雲とかだった日には間違いなくこの世界滅ぼしちゃうけど、別に良いよね。答えは聞いてない



「……ケホっ。なにこれ放屁ですか?」



なんて事言う人なのだろう。俺が落ちた衝撃で部屋の埃が舞い上がっただけである。失礼すぎる。少年少女たちに夢を与える神秘な生き物はゲップもオナラもしない。アイドルと同じなのだ



「(んなわけあるか)」



最早、騒ぐ気力もないぜ。煮るなり焼くなり好きにしてくれ。俺は疲れたよ、パトラッシュ



「ねえ、偉大なる龍王様アーカーシャ



「Ga?」



疲れたから訳も出さない。まあ出さないからって誰が困る訳でもあるまい



「契約しましょう。だから…」



そう言って白い彼女が懐から差し出したのは一枚の紙切れだった。これが龍の主食ですか?巷で噂の草食系男子の俺も紙は食べないのだぜ。そこんとこ、お分かり?



偉大なる龍王様アーカーシャ貴方と使い魔契約すると言いはしましたが、契約にも種類があるのは知っていますね。主従の発生する使役ではなく対等な立場としての盟約といきましょう。

差し出すものは、私の全てと所有する物や土地の霊脈の一切合切を貴方に捧げます」



「代わりに来たるべき日までその力を私にお貸しください。それだけです」



あくまでも対等と彼女は言っているが、しかし、それはどうだろう。目の前にある紙切れが下僕宣誓書と書かれている気がするのは目の錯覚ではあるまい



悪魔のような女である。目の前の白い少女の中身真っ黒なんですけど?

やべえよ、やべえよ。何しれっと嘘ついてんの。ソウルジェム持ってたらマッハで濁るんじゃないか、この人。っていうかこの人に限らず女ってもしかしてみんな計算高い腹黒なのでは?



俺の女性不信が加速度的に跳ね上がっていく音が聞こえる。

こんな腹黒女の下僕なんて絶対嫌だああ!だけどこの小さな円陣の中で朽ち果てるのも嫌だーー!!絶賛イヤイヤ期だから全部嫌だよー!淡雪ちゃーーん。怨まないからお家返してーー!!!



差し出された紙切れに取り敢えず目を通す。出だしが不穏でも、もしかしたらそんなに悪い内容じゃないかもしれないしね



『汝、ツヴィリングの下に絶対の忠誠を誓い如何なる命令にも従い奴隷の如き働きを示す事を此処に宣誓し契りを交わす。尚、奴隷側から契約の破棄は一切行わない旨とする』



そんなことあったわ。契約したら最後。取り返しが付かないやつでした。

ブラック過ぎる。残業代はおろか賃金すら支払われないレベルでのブラックですよ、この紙切れ一枚で彼女を体現してます。紙は白いのに内容は真っ黒な所とか特にね!



外国人労働者の如き、立場の弱い異世界人をここまで使い潰そうとしているのに、一体この世界の労基は何をしているのか。

おいおい、こんな奴を野放しにするなんて行政の怠慢だろう。何をしているんだ。全く。

まあ何度も言うが選択肢はないから、どんな条件でも呑むしか無いんだけれど



足下みやがって。これが社会だよ。

絶望した!こんな薄汚れた異世界に対して絶望した!



「(にしても)」



ツヴィリングって確か、あれだ。双子、だっけか?どうにも淡雪ちゃんと目の前にいるこのアルビノ二号が関係している気がする。そう囁くのよ……俺のゴーストがね


で、ツヴィリングが女の子の名前って事は流石にないと思うのだが、どうだろう。此処は異世界。俺の知らない異物が存在する世界だ



常識は通用しない。そもそも俺の前いた世界だって最近は有り得ない名前を付けてたりするし



「(そろそろ名前を教えて欲しい所だな)」



当然言葉は通じない。白い少女は柔かに笑みを浮かべて。案の定、俺の求めた答えとは違う事を口にする



「拇印でお願いしますね」



彼女は古ぼけた紙キレを俺の足元に差し出してきたが、俺の身体に対して紙が小さすぎないか?


爪先以下なんだが?そもそも俺印鑑も朱肉も持っていないし、血判でやれとでも言うつもりだろうか

昔、俺は某忍者の口寄せの術を真似したことがあるから分かるが、指の腹を噛み切るというのは思ってた以上にかなり痛いのだ



「触るだけでいいんですよ?それで成立しますから」



観念して俺は紙キレに指を押し付けると途端に紙が眩く発光し閃光が空を切る



彼女の手の甲と俺の胸元に紙から照射されたか細い光が当たると彼女の手の甲に紋様『主』が浮かび、俺の胸元には『従』が浮かんでいる


日本語が浮かぶっておかしくないか?この世界に日本あるの?どうでもいいが、いや、俺の灰色の脳細胞がこの世界の文字を勝手にそう認識しているのかもしれないな



さようなら、我が自由

こんにちは、奴隷生活



「名乗るのが随分と遅れました。

私トラオム魔導教会より白を冠する魔導師で今は白雪姫と名乗らせていただいています」



魔導師というのは魔法使い見たいなら認識で合っているのだろうか?それに今はって引っかかる言い方をしていた。つまり偽名ってことなのだろう



「気軽に姫と呼んで下さい。偉大なる龍王様アーカーシャ



白雪。淡雪。姿形が似通ってるだけじゃなく、奇しくも名前まで、か。乙女座じゃない俺でもセンチメンタリズムな運命を感じずにはいられない



「(よろしく姫。どれ服従の証に指でも舐めてやろうか?)」



我が家の家訓では、服従の時には相手の体を舐めるというのが決まりなんでな。断って置くが断じて。断じて俺が変態というわけではない。男児ではあるがな



我が家では父は頬、爺ちゃんはつむじを舐めたらしい。どういうわけか代を重ねる毎に舐める箇所が下に向かってる。

恐らく俺の息子は足裏でも舐めることになるのであろう。死んだからどうでも良いことなんだけどね



「もうコレも不要ですね」



姫が指を格好良く鳴らすと魔法陣の輝きが失せる。試しにそろりと手を伸ばすと外に爪が出た



「(外に出てしまえばこちらのもの!これで従う理由は…)」



「聡明な偉大なる龍王様アーカーシャには、言う必要もない事なのですが、念のために言いましょう。万が一、億が一にでも危害を私に加えた場合、死ぬより辛い目に遭いますよ」



外に出たからって、約束を反故にしたりはしない。口約束なら兎も角として、どれだけ不利な条件だろうが、文書として残っている以上従う。これが、大人の不可侵のルールなのだ。

ルールは大事。どこぞのハゲの運び屋もそう言ってるのでそうすべきなのだ



「それでは、少しだけ外に出てみましょうか。

此処から数百キロ北に行けば、軍事大国バルドラという国の国境付近に出ます」



それを教えられて俺はどうしたらいいのさ。彼女が何を俺に求めているのか分からずに小首を傾げると、そこで姫は依然無機質な表情のまま、恐ろしい事を言い始める



「国境付近に塞という小さな城郭都市があります。其処で偉大なる龍王様を見せる約束をしているので行きましょうか」



「別に少しくらいなら勢い余って首都まで特攻かけても構いませんが」



命は捨てるもの。ガンガン逝こうぜ!

ってそんなことやるわけねえだろうがよぉぉぉ!!



「冗談ですよ。半分は。なのに、なんですか、その反抗的な目は」



「(サスガ姫。ドコマデモオ供シマス)」



俺はもう戻れない。

この欲望にまみれた異世界を駆け抜けて行くのだ。

破滅するその時まで





あとがき

ギャグっぽい流れとシリアスの流れをうまく使い分けたいと思うので温かい目で応援して下さると嬉しいです

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